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太陽光採光システムの普及に期待

〜ラフォーレエンジニアリング・田中氏に話を聞く〜


ラフォーレエンジニアリングの事務所に設置された「ひまわり」(背後は六本木ヒルズ)

 三井不動産レジデンシャルが近く分譲開始するマンション「パークホームズ目黒ザレジデンス」に太陽光採光システムを採用して、中庭のシンボルツリーに自然光を当てることは先に紹介した。不動産業界最大手の同社がこの太陽光採光システムを採用したことに記者は大きな関心と期待を抱いた。

 記者の取材対象であるマンションは、「日照」「日影」の視点から見れば「加害者」にもなり「被害者」にもなる。

 取材時には「日照」「日影」はいつもチェックする。日影規制とリンクしている用途地域は確認するし、建設されるマンションの日照条件だけでなく、そのマンションの日影が及ぼす北側のマンションや戸建て居住者のことを考える。自らが加害者や被害者になったように思い、胸が痛くなることもある。 

 最近見学した例では、高度地区が指定されておらず、敷地の南側に建設される複数のタワーマンションによる複合日影によってほとんど陽が当たらないのではと思われるものもあった。現在の建築基準法ではこの複合日影は全く考慮されていない。

 確か福岡だったと思うが、太陽光採光システムを採用したマンションが分譲されるというニュースを聞いてからもう20年も経つが、このシステムは、マンションが「加害者」や「被害者」になってもその救済の道を開いてくれると今でも信じている。

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 太陽光採光システムのメーカー最大手といわれる森ビルグループのラフォーレエンジニアリングの総務部課長・田中雅幸氏に普及促進への課題などを聞いた。

 田中氏の話を紹介する前に、太陽光採光システムについて少し説明しよう。太陽光採光システムとは、太陽を自動追尾するシステムを組み込み、ミラーやレンズなどによって1日中の太陽光を採光し、光が当たらない北側の居室や地下室、窓のない部屋を照らすことを可能にしたものをいう。

 同システムは、紫外線や赤外線を大幅にカットできるため、病院や老人ホームなどの施設にも最適とされており、紫外線による退色や劣化が防げる効果も期待できる。

 また、太陽光を追尾する駆動部の電源の省エネルギー化も進んでおり、 1 カ月の電気代は数十円程度で済む。太陽電池駆動型も開発されており、これだと電気代はかからない。暗い居室などの人工照明の電力消費を削減できるため、CO2排出量を大幅に削減し、地球温暖化防止にも効果が大きい。

 中長期的には部品の劣化などによる交換が必要だが、ほとんどメンテナンスフリーであるのも大きな特徴だ。同社を含めたメーカー4社が太陽光採光システム協議会を設立し、その普及・広報活動を行っている。

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 ラフォーレエンジニアリングの太陽光採光システムは「ひまわり」という商品名で、森ビルの森稔社長の実兄で故・森敬博士(1932〜1990)が発明。1979年に第一号太陽光自動集光伝送装置「1眼ひまわり」が発表された。

 同社の商品の特徴は、太陽を正確に追尾するシステムを搭載し、凸レンズで採光し、石英ガラス光ファイバーを採用しているため、光を当てたいあらゆる空間に太陽光を送ることが可能なことだ。

 当初は研究所や学校などの公共施設が中心だったが、その後、一戸建て、病院、老人ホームなどへも普及が広がり、最近では年間300〜400台を販売している。その約8割が戸建てだという。最近では中国、韓国を中心とする東南アジアへの納入も増え、イタリア、アルゼンチンなどからも引き合いがあるという。一般的な戸建て用だと約100万円で、10階建ての標準的なマンションだと1戸当たり200万円ぐらいだという。大型の198眼集光機だと最大で33カ所に光を運ぶことが可能だ。

 太陽光採光システムの難点は、曇りや雨天の時は採光できないことだ。太陽光を蓄えて、必要な時に照射することもほとんど不可能だという。田中氏によると「曇りや雨天でも屋外が明るく感じるのは散乱光の影響で、太陽光採光システムでは人の影ができる太陽光がないと採光できません。蓄えることは、1秒間に地球を7周半する光のスピードを応用すれば理論的には可能ですが、開発すればノーベル賞もの」という。

 普及ピッチが思ったほど上がらないのは、やはりコストと理解度の低さだろう。田中氏も「陽が当たらない場所に太陽光を当てた場合、その価値はお金に換算していくらになるかという試算はありません」と率直に語った。空気と同じように、太陽光の恩恵を享受することに対して、われわれはお金に換算することなどほとんどない。「日照権」も同様だ。権利としてはあっても、建築基準法など法令違反がない限りほとんどが「受忍限度」として日照阻害は容認される。

 しかし、太陽光採光システムは省エネルギーや地球温暖化防止に大きな効果が期待できるのは間違いない。北向き住戸に太陽光を取り入れることができれば、マンションの値づけも変わってくる。南向きと同等にはならないだろうが、「1戸当たり200万円」という設置費用以上の価値があると思う。田中氏も「インターネットの普及で思わぬところからの引き合いが増えている。自信をもって普及を進めていく」と語った。

     
マンション半地下の事例(左がビフォー、右が「ひまわり」12眼AS×3台を設置したアフター=同社のホームページから)

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 かなり長い記事になってしまったが、記者がこの太陽光採光システムの普及に期待するもう一つの理由がある。田中氏に話を聞いた事務所は南向きだったが、ブラインドを下ろしカーテンを閉めてもらい、太陽光採光システムを作動してもらって話を聞きメモを取った。感動ものだった。あのほろ苦くて甘い40年も昔の記憶が甦った。

 記者は学生時代の一時期、民家の2階の北向き3畳間に間借りしたことがある。そのとき、付き合っていた彼女に振られた。彼女の捨て台詞は「花を愛せる人間になって」だった。この言葉を真に受けた馬鹿な記者は、小さな腰窓の手すりにサルビアの鉢を買って育てた。何とか陽を当てようと、隣家の屋根に時々鏡を置いた。花はもちろん、鏡の角度を変えると押入まで光が入った。鏡を照らしながら悦に入っていた。サルビアは貧弱な花を1輪しか付けなかった。恐らく光も愛情も足りなかったのだろう。

 人は失って初めてそのものの大切さを知る。太陽光採光システムは、光を失ったマンションや民家を再生する救世主だ。


同社の「ひまわり」36眼集光機(最大6カ所に光を運ぶことが可能)

桜並木が美しい 三井不レジ「パークホームズ目黒」(2/7)

(牧田 司 記者 2011年2月16日)