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「都内23区の旧耐震マンションの5割近くが既存不適格」

旭化成不動産レジデンスの推定


建て替え後の「宇田川住宅」の完成予想図

 旭化成不動産レジデンスは3月27日、マンション建て替え事業について記者説明会を開き、今年2月に着工した「宇田川町住宅」と4月から解体着工する「元代々木住宅」に引き続き、小規模高経年マンションの建て替え事業を強化していくと発表した。2015年度には小規模マンションも含め年間4〜5棟、売上高80〜100億円の規模に増やすとした。

 同社の独自調査によると、東京23区内の昭和56年以前に建築された旧耐震マンションは約8,300棟で、このうち30戸以下の小規模マンションは約3,200棟あり、旧耐震マンションの約38%に達するとしている。

 小規模マンションの建て替えは、デベロッパーの側からみた場合、規模が小さいマンションは事業採算性が低いことから参加しづらく、一方、管理組合が自主建て替えを行う場合も、事業リスク、販売リスク、事業費の調達など区分所有者の負担が重いなどの問題を抱えている。建て替えの要件である5分の4の賛成要件も、絶対数が少ないことからハードルも高くなるという問題も抱えている。

 これに対して、同社は建て替え済みで14件、今後の予定で7件の実績を積み重ねてきたことから、コンサルタントなどを必要としない合意形成や各種手続きの内製化、少人数による多能工化などによる他社との差別化が可能としている。従前の戸数が30戸以下のマンションについても今回の2件の建て替えを含め5物件の実績を持つ。

 同社副社長・進政裕氏は「当社はこれまで実績を積んできたことからノウハウの蓄積もできている。建て替えのニーズはきわめて高いが、小規模マンションの建て替えは取り残されてきた部分もある。課題も少なくはないが、走りながら取り組みを強化していく」と語った。

 今回着工した「宇田川住宅」の従前建物は昭和36年竣工で、敷地面積が約870u、延べ床面積約2,542u。7階建て住戸16戸、店舗・事務所1区画、権利者17名。再建マンションはマンション建て替え円滑法による組合施行方式で、13階建て延べ床面積約6,236u、住戸49戸、店舗1区画(分譲戸数30戸)、専有面積33.77〜104.89u。竣工予定は平成25年9月。

 「元代々木住宅」の従前建物は昭和42年竣工で、敷地面積約971u、延べ床面積約1,713u。5階建て住戸30戸、権利者30名。再建マンションは全員合意による等価交換方式で、6階建て延べ床面積約2,658u、住戸38戸(分譲戸数14戸)。専有面積は34.55〜79.16u。竣工予定は平成25年9月。

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 記者が驚いたのは、同社マンション建替え研究所・向田慎二所長が「実際に調べたわけでもなく、把握はかなり難しいが」前置きしながら、「相談事例から推測すると、旧耐震マンションのうち既存不適格マンションは5割近くに上るのではないか」と語ったことだ。

 既存不適格マンションは、ここ10年来、ほとんどの自治体が建物の絶対高さ規制を強化していることから相当増えているものと思われる。記者はそれでも全体の1〜2割ぐらいと見ていたが、5割近くとは信じられない数だ。

 高さ制限にとどまらず法律改正によって既存不適格建築物になった場合、専用住宅の建て替えについては1回に限って従前建物と同等の建物を建築可能としている行政も多いと思われるが、実際はどうなっているか記者も分からない。

 既存不適格がそれほど多いとなると、小規模マンションの建て替えは益々難しくなる。高さを下げ、かつ容積率を満たそうとすれば、倉庫やオフィスならともかく住宅は開口部が狭かったり、天井高が確保できない、つまり商品価値が低いマンションにならざるを得ない。小規模の旧耐震マンションは2重3重のハンディを負っているということだ。

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 東京都に旧耐震マンションと既存不適格建築物の実態を聞いた。旧耐震マンションの数については、東日本大震災を受けてマンションの実態調査を進めており、来年度にはデータを公表するとしている。非木造共同住宅(ほとんどが分譲・賃貸マンション)は平成22年度末で3,636,700戸あり、このうち旧耐震は1,004,700戸となっている。旧耐震のうち耐震化工事を施しているものも相当数あり、新耐震基準並みの耐震性を満たしているものは3,210,300戸だ。耐震化率は88.3%。残りの約43万戸が旧耐震で、新耐震基準を下回っていることになる。

 ここまで数字を把握するのに3カ所の部署に聞いた。既存不適格建築物については、最後に聞いた部署の担当者から「建築指導課が把握しているかもしれない」といわれたが、それ以上聞かなかった。どこの行政もそうだが、完全に縦割り行政だから、他の部署のことはほとんど把握していない。こんなことでいざと言うとき、役に立つのだろうか。既存不適格については、各自治体は間違いなく把握している。法改正のときに、改正によってどれぐらいの既存不適格が発生するかを調べているからだ。その数字が公開されないのが問題だ。

(牧田 司記者 2012年3月27日)