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三菱地所グループ「空と土プロジェクト」体験ツアーに同行取材


「空土稲刈り体験ツアー〜山梨の森で楽しい思い出をつくろう〜」(10/13)

記者懇で飲み、もらった純米酒「丸の内」がきっかけ

 山梨県北杜市で農を中心とした地域共生型ネットワーク社会をつくることを目的とするNPO法人「えがおつなげて」の代表理事を務める曽根原久司さん(51)は、自らの著書「日本の田舎は宝の山」(日本経済新聞出版社、2011年11月発行 1600円)のプロローグに「2011年2月、『丸の内』という名がついた純米酒が発売されました。『自分たちで開墾した田んぼで穫れたお米から、こんなにおいしいお酒ができるなんて、うそみたい』『ここまでやってみて地域の農家や酒蔵の人たちの気持ちが本当に分かった気がする』」と記している。

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 記者は10月13日(土)、三菱地所グループが5年前からCSR活動の一環として取り組んでいる「空と土プロジェクト」の「空土稲刈り体験ツアー〜山梨の森で楽しい思い出をつくろう〜」を取材した。過去5年間で約750人がこの種の体験ツアーに参加しているという。今回のツアーの主催は同社グループの三菱地所ホームで、企画・運営は、当初からこのプロジェクトのパートナーになっている前出のNPO法人の「えがおつなげて」(以下、えがお)。三菱地所ホームの注文住宅の発注者や検討者14家族約30人が参加した。

 目的地はJR甲府駅から車で約1時間半、山梨県の最北端の北杜(ほくと)市の標高1,000mの増富地区。かつて人口は2,500人あったというが、過疎化が進み、現在は人口520人のうち330人が65歳以上という高齢者人口比率が実に63.5%に達している限界集落だ。農地の3分の2が耕作放置されているという。

 作業開始は11時15分。参加者の中で稲刈りを体験したことがあるのは1人だけだった。参加者はえがお代表の曽根原氏やスタッフから手取り足とりで作業の仕方を教わり、作業に取り掛かった。最初はみんな危なっかしい動作だったが、4畝の稲刈りと稲架(はさ)掛け、落穂ひろいを途中休憩を挟みながら1時間半くらいでやり終えた。

 曽根原さんから「皆さんが刈った田んぼは広さにして4畝(1畝は約100u)、お米に換算して約50キロ。大人の1年分」と説明されると、参加者の中から「田んぼ欲しい!」「田植えしたい」などの歓声があがった。


北杜市 増富地区


曽根原さん


隣の耕作放棄地

 

  
「ほら、カエルだよ」


稲架掛け(昔は鉄パイプでなく木や竹だった) 

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 体験ツアーのもう一つの目的は、自然公園になっている県有林の「みずがき山自然公園散策」だった。2010年の「長期優良住宅先導的モデル事業」の認定を受け、昨年8月、山梨県、三菱地所、三菱ホーム、えがおの4者は「山梨県産材の利用拡大の推進に関する協定」を結び、県有林から産出されるFSC認証材を三菱地所ホームが標準仕様化することで合意に達した。

 三菱地所ホームは梁や根太などの構造部分にカラマツを採用し、構造材の国産材率が2009年は35%だったのを現在では50%まで引き上げている。ベイツガなどと比べると強度は2倍以上あるという。

 体験ツアーの案内役を務めている三菱地所ホームCSR推進室長兼環境・安全グループ グループリーダー・鈴木誠一さんは「カラマツは曲がりやすい素性が悪い木ですが、このようにまっすぐ育っている。私たちは山梨県と昨年、協定を結び、国際的な森林認証を取得しているこのカラマツで住宅の構造材の一部を標準化しています。強度は一般的なベイツガと比べ2倍以上。カラマツの争奪戦が始まっているぐらい、ニーズが高まっています」などと説明した。

 体験ツアーにの参加者はこの後、武田信玄の隠し湯「増富温泉」につかり帰途についた。参加者は「自然が素晴らしい半面、過疎化は寂しい」「われわれに何ができるか責任も感じた」「ご飯を一粒でも残すと怒られた。いい経験になった。子孫にも引き継ぎたい」「ただの知識じゃなく肌で感じることが大事なことを学んだ」「心の原風景を伝えていきたい」などと異口同音に貴重な体験の感想を語った。


見事なカラマツ林を散策する参加者


構造材にカラマツを使っていることを説明する鈴木さん

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 今から3週間前、三菱地所グループ恒例の記者懇親会が水天宮のロイヤルパークホテルで行われた。記者は白のワインを飲み始めたのだが、テーブルに「丸の内」という白いラベルが貼られていた純米酒の4合瓶が置かれていた。一口飲んだ。これが実に美味しかった。すっきりとした辛口で、上品な味がした。

 それからはずっとこのお酒を飲んだ。いったいどれだけ飲んだか覚えていないが、広報担当者には「4合瓶全部を飲んだ」と言われた(絶対にそこまでは飲んでいない)。帰り際に、昔からお世話になっている三菱地所設計の小田川和男社長にお礼の挨拶にいったら「1本持ってけ」と1本もらった。

 1本1,400円というのは正直少し高いと思った。わが街、多摩市で収穫した米で造った多摩市限定販売の「原峰の泉」の1,250円より150円高かったからだ。しかし、NPOと協働して放棄耕作地を開墾し、棚田を復活させ、そこで穫れた酒米から造られた酒だから、お金には換算できない価値がある。

 そこで、これは何とかお返しをしないといけないと思い、「空と土プロジェクト」の取材を申し込んだ。

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 考えさせられたこともあった。一つは、記者を含めお米の値段がいったいいくらなのかを知らないことだ。

 参加者に聞いたが、「魚沼産の無農薬のお米で、年間90キロ。値段は4万円」と答えた30歳代のファミリーのご主人以外に男性で値段を知っている人はほとんどいなかった。かく言う記者も知らない。家族に聞いたら「田舎から無農薬のお米を送ってもらっているから値段は分からない」とのことで、記者自身も米の液体は他人以上に消費するが、ご飯は週に2回ぐらいしか食べない。

 お米の値段を知らなくて、その米づりの苦労を知らなくて農業についてお前は語る資格があるのかと反省させられた。記者は米づくりの辛さは知っているはずだが、田舎に帰ると「お前なんかのよそ者が何を言う」と同級生に笑われる。

 もう一つは森林・山林と過疎化についてだ。散策した自然公園は2001年に開催された第52回全国植樹祭の会場にもなった。会場整備費や開催費は約15億円。参加者は約7,500人で、近隣都県から約2,600人の警察官が警備に当たったという。

 開催に当たって何十キロにわたって道路は整備され、参加者を収容するため山は雑草一つ生えないサッカー場のような芝生の広場に変えられた。植樹祭とどう関係するのか分からないが、小学校も建設されたのだという。その小学校は今年3月廃校になった。植樹祭当時21人だった児童は、廃校時には5人だったそうだ。中学も一昨年に廃校になった。バス路線も2年前に廃止となったという。

 参加者が稲刈りをした田んぼには害獣よけの電気柵がめぐらされていたが、天皇陛下がお手植えされた樹木の周囲には害獣というよりはヒトの侵入を防ぐ強固な鉄製柵がめぐらされていた。


自然公園になっている山梨県の県有林(このような美しい森林は最近ほとんど見たたことがない)


後ろの山は日本百名山「瑞牆山(みずがきやま)」


「さっき、2,300mの瑞牆山に登ったが、カラマツが鹿に随分やられ枯れていた。植樹祭にも参加したよ」という石和の会社経営者の山寺さん(63=右)と友人の向山さん(63) 自然公園で

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 記者懇でもらった「丸の内」は大事に置いていたが、昨日、1合だけ飲んだ。格別の味がした。酒は心で飲むことを改めて確認した。

 前出の「日本の田舎は宝の山」で、曽根原さんは農村資源を都市のニーズと結べば10兆円産業になると説いている。都市と農村を対立軸としてしか考えられないもう博物館行きになりそうな記者などはともかく、若くて元気のある若者にぜひ読んでいただきたい。森林・林業、農村の再生なくしてわが国の再生はない。


左からえがおスタッフの古渡さんと西川さん

  今年大学を卒業し、えがおのスタッフとして働いている古渡勇樹さん(26)と、八百屋をしていたが、おいしいキャベツづくりに魅入られて、やはり今年の4月からえがおのスタッフとして働いている西川幸希さん(26)。ホームシックにかからないかと聞いたら、2人とも「全然。東京より快適。ここに永住したい」と話した。西川さんは空家になった民宿に男性の友人と2人で住んでいるそうだ。家賃はえがおが負担している、つまりただという。
 奥さんを募集中とのことで、ヒトの数よりシカの数のほうが圧倒的に勝る、機種によっては携帯も使えずアイパッドなどとは無縁の社会に興味のある女性は直接えがおにお問い合わせください。

(牧田 司記者 2012年10月19日)