RBA HOME> RBAタイムズHOME >2013年 >

消費税増税時の住宅購入

最大30万円の現金給付は決まったが…建築費上昇懸念

 マスコミが一斉に報じたように、政府・与党は6月26日、来年4月の消費増税に併せて導入する住宅購入者向けの給付制度を決めた。住宅ローン利用者に対して年収制限を設けて最大30万円の現金を給付するのが骨子だ。また、今年末で期限が切れる住宅ローン減税も4年間延長して、控除額を年間最大40万円に拡大する。

◇      ◆     ◇

 「負担軽減策」が打ち出された26日、不動産協会は木村惠司理事長(三菱地所会長)名で「平成25年度税制改正で措置された住宅ローン減税の拡充等で効果が不十分な所得層に対して重点的に手当てされるとともに、現金購入者に対しても広く配慮されており、住宅購入者の負担軽減に効果があると評価している。また、10%引き上げ時の負担軽減措置も併せて決定されており、中堅所得層まで幅広く手当てされたことも評価したい」「これにより、住宅市場における駆け込み需要の発生とその反動については、かなりの程度平準化されることを期待している」とコメントした。

◇      ◆     ◇

 この最大30万円の現金給付が消費税後の住宅市場にどのような影響を及ぼすかが最大の関心事だ。分譲マンションのケースで考えてみよう。

 計算がしやすいように首都圏の一般的な郊外マンションに当てはまる3,000万円のマンションを全額ローンで購入した場合で、課税対象外の土地価格を1,000万円、課税対象の建物価格を2,000万円としよう。

 現行の消費税率が5%だと消費税額は100万円。消費税率が8%になると160万円となり60万円アップする。仮に年収425万円以下の人が対象となる30万円の給付が受けられるとすると、住宅ローン控除額の年間30万円と合わせ差し引きゼロとなる計算だ。

 しかし、実際の場合、年収425万円以下の人が3,000万円のマンションを購入し、3,000万円のローンを組むのは不可能だ。現金とローン減税で戻ってくるのはせいぜい30万円ではないか。つまり、消費税アップによって30万円の負担増となり、マスコミが報じているように「年収が低い人ほど恩恵が受けられる」というのは正確ではない。この点について、自民党の野田毅税制調査会長が「低所得者のための措置ではなく、駆け込み需要増と反動をいかに抑えるかを軸に考えた」(27日付け日経新聞)と語ったのは的を射ている。 

 そもそも消費税は逆進性が強く、生鮮食品などとともに住宅はその影響を強く受ける。ここでは詳しく書かないが、これは土地に対しては課税されず、建物のみに課税されるという税の仕組みに問題がある。建築費はどんな遠隔地であろうと1坪(3.3u)当たり単価は100万円はするので、分譲価格に占める建物価格割合は7割ぐらいになる。一方で、地価が高い都心部などは土地価格の割合は6〜7割ぐらいになり逆転する。20坪の3,000万円と1億円、言い換えれば年収が数百万円の人とその数倍の富裕層の人が支払う消費税額は200〜300万円の差しかない。

◇      ◆     ◇

 もう一つ重視しなければならないのは、住宅ローン金利動向だし分譲価格の上昇懸念だ。住宅ローン金利動向については専門家に任すとして、すでに建築費の上昇は始まっている。関係者によると10%は上がっているという。

 それでもまだ価格上昇が顕在化していないのは、企業努力、つまり、利益率を落としたり設備仕様レベルを下げたりして対応しているからだ。そのような例はたくさんある。二重床を直床にしたりキッチンの天板を御影石から人造大理石にしたり、食洗機はオプションにする、スロップシンクはつけない、クロスの質を落とす…数えたらきりがないほどある。値段を据え置きし、中身の量を減らしている商品と同じだ。

 しかし、質の低下は競争力の低下にもつながる。いずれは建築費の上昇を価格に上乗せせざるをえなくなる。時間の問題だ。また、「駆け込み需要」に便乗した値上げも行われそうだ。そこがターニングポイントだろう。現金給付やローン減税では吸収しきれない額の値上がりとなった場合、果たして市場はどう反応するか。アベノミクスの真価がそこで問われる。

◇      ◆     ◇

 もう一つ指摘したいのは、詳細はこれから決まるのだろうが、「消費税還元セール禁止特措法」と今回の「負担軽減措置」との整合性はどうなのかということだ。

 特措法では「消費税分を値下げする」「消費税分の家具をプレゼントする」などは違法行為になるのだろうが、現金給付やローン減税によって負担を軽くするというのは主体が民間と国の違いだけではないか。消費税が増税されたらデベロッパーは「春の住宅取得応援キャンペーン」「創業○周年記念 購入資金プレゼント」などと実質的に税負担を軽くする商法に出そうだが、これは違法にはできないはずだ。

 混乱を生じさせないためにも住宅、少なくとも第一次取得層向けは非課税にするべきだと思う。

(牧田 司記者 2013年6月27日)