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 首都大学東京 ウランバートルの都市問題 研究発表会


青木特任教授

 首都大学東京は2月12日、都市が抱える環境問題や少子高齢化、膨大かつ老朽化した建築ストックなどの深刻で早急に対策を打たなければならない問題の課題解決を図るL.P.Met(Leading Project for the Metropolis)の一つである「プロジェクトU リファイニング建築開発プロジェクト研究(LP2)」研究発表会を行った。

 「リファイニング建築」とは、従来の増改築とは異なり、老朽化した建物の大部分を再利用しながら、大胆な意匠の転換や用途変更、耐震補強を可能にする建物の再生技術で、今回は青木茂・同大学特任教授の指導のもと、忠快仁、今野広大、藤川理子、ツェレンバト チンバヤルの4氏が「REFINING CITY MONGOLIA」と題するモンゴル・ウランバートル市の調査報告を行った。

 報告では、ウランバートル市が抱える様々な都市問題の中から交通問題、ごみ処理問題、上下水道問題を抽出し、それぞれの問題解決策を提案した。また、モンゴルらしい持続可能都市の設計として、市中心部から約30キロの地域で計画されている新空港近くに 1万人から10万人のスマートシティを建設することを提案した。

 青木特任教授は、「今回の成果を本にまとめ情報を発信するとともに、たくさんあるモンゴルに関わる組織を横断的にまとめる活動も行っていきたい。暗中模索の段階だが、問題解決には教育が大事ではないか」と語った。

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 記者は7〜9年前、ウランバートル市を合計3回にわたって訪れている。都市問題の取材ではなかったが、深刻な都市問題を抱えていることを肌で感じた。

 今回の報告会は、モンゴルの気候風土からウランバートルへの人口集中、産業構造、様々な都市問題を余すところなく紹介しており、都市問題、ごみ処理問題、上下水道問題の3つについて集中的に研究するのは的を射ていると思った。

 ただ、一つだけ気になったことがある。報告ではそれぞれのテーマについてわが国と比較したことだ。例えば人口ピラミッドはわが国の1970年代と同じであるとすることなどは理解できるが、道路事情、水質汚染、ゲルのごみ処理などは明治から昭和と同じなどとするのはいかがか。

 確かに、雨が降れば道路が水浸しになり、上下水道が完備しておらず、下水が垂れ流しになっている、分別ごみ収集ができないことなどそれぞれの問題だけを抽出すれば、あるいはわが国の江戸時代や明治から昭和の初期と同じような現象は見られる。「日本より遅れている」と言えなくもないし、わが国の技術で問題解決を図ろうとするのは分かりやすい。

 しかし、気候風土も歴史も文化も異なるモンゴル国をわが国と同じ指標で測るのは適当かどうか。「先進国」 VS 「発展途上国」という単純な視座は危ういものを感じる。JICAの援助でわが国のゴミ処理施設が建設されたが、ほとんど利用されていないというのはその証左だ。

 とくに「モデル都市」の提案は、「それはモンゴルの日本化」ではないかと感じた。森林・林業が危機に瀕しており、文化の破壊が進み、食の安全が脅かされ、自殺、うつ病、生活習慣病が激増し、いじめ・暴力問題など社会全体が病んでいるわが国が果たして「先進国」なのか。単純なわが国の技術の輸出は、輸出先の国にわが国の深刻な都市・社会問題を持ち込むことにならないか。

 問題が多いとされた「ゲル」はかつてわが国の田舎にあった「最高の文化」だと私は思った。ODAについては、記者は2005年の「モンゴル訪問記」で次のように書いた。

 【わが国のODAがこの11月に公表した全21ページにわたる「対モンゴル国別援助計画書」には、 こう書かれています。 「モンゴルのGDPの約2割がODAであり…(中略)全ての援助のうち4割、 主要二国間援助国による援助のうち約7割は、わが国からのODAである」。 「こうした援助に対して『水に溺れていたモンゴルを救ったのは日本で、入院中のモンゴルを主治医として治療した。 今後は、退院したばかりのモンゴルを主要な後見人として支えて欲しい』などとして、高く評価されている」と。

 文書全体は、あらゆるデータを駆使した感情が入り込む余地のない報告書でありながら、 このような誰が言ったかも明示していないコメントととして、しかも比喩的な表現で盛り込ませているところに、 私は異質なものを感じました。カネさえ出せば文句ないだろう≠ニいう姿勢がありありです。 心がこもっていないようです。

 近くて遠い国≠解消するためには、人的な交流を含めた心と心の付き合いが大切だと痛感します】

牧田記者 感動のモンゴル訪問記(2005年)

(牧田 司記者 2013年2月13日)