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「大家は全く努力しない経営者」と切り捨てる
CFネッツ・倉橋代表(11月8日)
 

 RBAタイムズは、取材の大きな柱として「顧客主義」を据えており、記者は常にそうした視点でものごとを見るように努力している。だから「この世の中で最も顧客主義に徹した企業(仕事)は何だろう」と日常考えているわけだが、逆に「この世の中で最も顧客主義から遠いものは何だろう」と考えると、割と簡単に思いつく。アパートやマンションの大家、だ。

 記者の知りうる限り「入居者(顧客)のために、どれだけ良いアパートにするか」と真剣に考え、実践している大家はほとんどいない。みな利潤の追求にはしり、顧客満足につながる投資はほとんどしないにもかかわらず、コストダウンやユーザーへの責任転嫁(不当な原状回復工事請求)には熱心だ。ユーザーを敵に回したら大企業の屋台骨さえ危うくなる世の中で、よく生き残っていけるものだと変に感心してさえいた。

 そんな大家たちを「全く勉強しない、全く経営努力しない経営者だ」と切り捨てる男がいる。CFネッツ代表の倉橋隆行氏だ。倉橋氏は、不動産投資コンサルティング、賃貸管理経営コンサルティングを主業とし、全国各地をセミナーで回りながら、そのノウハウを発信している。前述の一言は、大家の集まりである社団法人・全国賃貸住宅経営協会主催のセミナー(11月6日、神奈川県民ホールで開催)で発したもの。倉橋氏のセミナーは、歯に衣を着せぬトークが評判だが、当の大家たち(200名弱)を目の前にそう切り捨てたのをみて、記者も心の中で快哉をあげた。

 「私の会社は資本金3000万円。でも、みなさんは資本金数億円の経営者ですよ。それが判っていない。所有と経営の分離ができていない。空室ができるのはその経営戦略に問題があるからなのに、何の努力もしない。サブリースしたら、業者に任せっ放し。自ら襟を正して賃借人と向き合わなければダメ。よい大家には、よい業者とよい借主がつく。悪い大家は、結局その逆になる」。

 「かつて、賃借人の主役だった団塊の世代は、貧弱な住まいでも我慢できた。貧乏生活から急に豊かになったから、よく金を使ってくれた。いまの主役は団塊ジュニアだが、彼らは本当に価値のあるものにしかお金を投じない。贅沢も当たり前で、汚らしい家など誰も住まない。それなのに、メンテナンスなど家賃に反映しない投資はしないし、ペット可にしたり、間取りを改変するといった新たなマーケティングもしない」。

 徹底的に大家を攻撃した後、倉橋氏はある素晴らしい大家さん達の話をはじめた。1人は、趣味で自家菜園を手がけており、毎日のように居住者に新鮮な野菜を配っている。ある頃から、住民達がその野菜を使って、鍋パーティをするようになった。そこで、空きスペースの一角にバーベキューコーナーを作ったところ、さらにコミュニケーションに花が開くようになったという。当然、常時満室。都合で転居しなければならなくなった主婦が、涙を流して同居者と別れを惜しんだという。

 もう1人は農家。最初、10室のアパートを建てた。駅からのアクセスも悪いし、立地条件も悪いが、常時満室となり、瞬く間に50室を経営するようになった。この大家さんが実践したこと、それは「掃除」だ。毎日のように高圧ホースで外壁を磨き、ゴミ捨て場では自ら分別処理までする。築年数は経ても建物はピッカピカだし、アパートの周りはチリ1つ落ちていない。これを喜ばない入居者がいるだろうか。

 この2つのケースとも、稼働率をあげるための特別な投資や「数字のマジック」を導入しているわけではない。共通するのは、自らの資産であるアパート、そしてそこに住む入居者に常に気を配っていること。言い換えれば「利益を生み出すための経営資源の管理」と「顧客満足度を高めるためのサービス向上」であり、普通の企業ではごく当たり前の行為だ。これが「レアケース」なのが、賃貸住宅市場なのだ。

 倉橋氏の講演が終わった後、会場を見渡してみた。みな失笑していた。記者は、その大家達の心の中を覗いてみたかった。

(福岡伸一記者 11月8日)