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開発道路に「中央側溝」を採用した
西武不動産販売「久我山」(11月18日)

 

 西武不動産販売が分譲中の都市型一戸建住宅「ハーモニーデイズ久我山」を見学した。京王井の頭線久我山駅から徒歩6分の閑静な住宅地の一角にある全15区画の団地だ。

 現在分譲中の5区画の一区画当たり敷地面積は約110〜123平方メートル、建物面積約87〜98平方メートル、価格は6665万〜8983万円。10月中旬から分譲されており、10区画が契約・申し込み済みというから売れ行きは好調だ。分譲を前後して浮上した「西武鉄道問題」の影響からか問い合わせは減ったようだが、得がたい立地にふさわしい商品企画にしたのがユーザーをひきつけたのだろう。

 団地の総合監修を担当したのは、同社が昨年分譲して人気を呼んだ「ハーモニーデイズ武蔵野セレサタウン」と同じ建築家の北園徹氏だ。軒を深く見せたり庇の陰影をくっきりさせたりしたデザインなど、細かなところまで「和」のテイストを盛り込んでいるのに目を奪われた。

 しかし、何と言っても記者が瞠目したのは、道路側溝に「中央側溝」が採用されていたことだ。中央側溝は遊歩道などにはよく採用されている道路の中央に排水溝を設けたもので、車の往来がある公道で採用されることはまずない。後述するように様々な管理面での問題があるからだ。

 確か10年くらい前だったと思うが、埼玉県上尾市で鹿島建設がこの中央側溝方式を採用して人気を呼んだのを思い出した。鹿島は当時、市と粘り強く交渉して実現にこぎつけたことを担当者から聞いた。

 中央側溝を採用するメリットは多い。何と言っても縁石がなくなり(目立たなくなり)道路と敷地のフラット化が実現する。道路を中心に向き合った住戸の駐車スペースを含めると広々とした空間も生まれる。視覚的な広がりが街を一変させる、その効果は絶大だ。西武の団地は、道路や駐車スペースに那智の黒石の粒を敷き詰めた30センチ角のコンクリート平板を採用。さらに外廻りの塀の立ち上がり部分にも30センチ角の玄昌石タイルを張ることで、石畳と黒壁が印象的な重厚感のある街を演出している。用地取得は昨年9月。「立地評価の高い地域。費用はかかるが、これまでのハーモニーデイズよりもワンランク上のものを目指そう」(同社フォーユー二部企画課・北島剛課長)ということで実現したものだ。ただ、杉並区の指導で公道とすることはできず、私道扱いとなった。

 中央側溝方式が普及しない理由について、ある自治体の担当者は次のように語っている。

 「私道はともかく、車が走る公道で中央側溝は考えられない。まして石を敷くなどは論外。メンテに費用がかかるし、第一、車を通行止めにしないとメンテができない。財政難の折り、道路予算は10年前と比べ半減している自治体も多い。最低限やらなければならないことはやるが、よりよい道路を作るという考えはどこの自治体にもないのではないか」と。

 また中央側溝を採用したことのあるある自治体担当者はこんなことを言った。

 「うちの自治体は、狭隘な道路が多く、苦肉の策として中央側溝を採用したことがある。しかし4メートル未満の道路では中央にグレーチングがあると自転車が乗りづらいとか、音がうるさいなどの苦情をもらったこともある」と。

 つまり、自治体は財政事情が悪いということもあるが、自ら進んでいい道路、いい街を作ろうという考えはないということだ。湯水のようにカネを注ぎ込んでいるのは高速道路だけのようだ。そういう意味でも、道路を作るのも街を作るのもデベロッパーの仕事だ。かの故・宮脇壇氏は「まず道ありき」で街を作った。

 そういえば「国立裁判」の住民側も、あの美しい街路を最大の拠りどころとしているが、作ったのは西武だ。西武鉄道問題では、西武は弁解の余地は全くないが、不動産販売にかかわる現場では粛々と道を作り、街を作っている。拍手喝采を送りたい。

(牧田 司記者 11月18日)