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建築行政の信頼性を根底から覆す耐震偽造

真相究明、再発防止に全力で取り組め

 建築行政の信頼性を根底から覆す事件が起きてしまった。首都圏のマンションやホテルなど 21 棟で、建築確認申請の際に添付する構造計算書が偽造され、そのまま受理されたというのだ。構造計算書は耐震強度を測るもので、いわばマンションの商品価値の死命を決するものだ。

 国交省の発表によると内訳は、東京都が11件、神奈川県が4件、千葉県が6件となっている。このうち東京都の 9 件、神奈川県の3件、千葉県の2件、合計14件が竣工済みという。つまり、偽造された構造計算が確認審査段階、施工段階、竣工検査のいずれの段階でも是正されなかったということだ。

 構造計算書の偽造を行った姉歯(あねは)建築設計事務所や、適正な審査を行わなかった指定確認検査機関のイーホームズなどに対しては、建築基準法、建築士法などに照らし合わせ厳正な処分が行われる模様だが、監督官庁の責任も重い。

 建築確認業務は、建築基準法が改正された98年までは自治体が行っていた。しかし、「審査に時間がかかりすぎ」という批判の声の高まりと、規制緩和・民間活用という時代の流れの中で、民間の指定確認検査機関でも行えるようになった。改正論議の中で「民間に確認申請業務を認めた場合、安全性などは担保されるのか」といった声も聞かれた。

 今回の事件で、その問題点がクローズアップされることとなった。しかし、この問題は「自治体か民間か」ということではない。記者はかつて自治体が確認業務を行っていたとき、ミニ開発について取材したことがあるが、確認申請書通り建築されるものは少数で、そのほとんどが容積率など違法建築であることを知らされた。市街化調整区域内での住宅建設についても、行政は見て見ぬふりをして違法建築を見逃していた。建築談合もしかりだ。どこか不正を許す土壌がこの業界にはあるように思う。

 建物の中間検査、竣工検査制度についても疑問がわく。建築物は工事完了検査を受けないと使用できないはずだし、検査済み証がないと公的融資は受けられないことになっている。今回の事件では、これらの制度もまったく機能しなかったということだ。

業界の馴れ合い体質にも問題

ある建築士は、「最初の確認申請で偽造が見抜けなかったのが問題だが、中間検査では、設計事務所もゼネコンも検査をする。 その段階で鉄筋の量など適正かどうかチェックできるはず。それがなされなかったのは業界の馴れ合い体質が背景にある。 これは根が深い」と厳しく批判している。

どこよりも広いマンションを供給してきたデベロッパー

 事件が発覚し、該当するマンション名が明らかになって記者も驚いた。

 このデベロッパーは、100平方bマンションに特化しているデベロッパーとして広く業界に認知されており、記者も何度も取材したことがある。

 マスコミ報道にもあるように、確かに価格(坪単価)は格安だった。しかし、価格が安いことがあたかも不正を招いたというような報道のしかたには疑問がある。

 このデベロッパーの供給するマンション価格が安いのは、第一に用地取得費が安いからだ。同社は商品企画でカバーできるから、他社なら見向きもしないような土地で事業化を図った。さらに同社は、価格上昇の要因の一つにゼネコンへの丸投げ≠挙げ、独自の工事発注方式でコストダウンを図っていた。「居住面積を広くしたほうがコスト(坪単価)が下げられる」という主張も理にかなっている。

 現段階では軽々しいことはいえないが、「設計事務所がそのようなことをしていたとは全然認識していなかった」(同社)ということを信じたい。記者は、住宅の質は基本的には広さ≠ニ信じているが、どこよりも圧倒的に広いマンションの供給を行ってきたデベロッパーのマンションが、このような事件に巻き込まれたのにショックを受けている。

 耐震強度虚偽問題が発覚して、デベロッパー各社は対応に忙殺されている。「当社は、問題となっているイーホームズとは取引がないから大丈夫だと思うが、確認するよう作業を進めている」(A社)「当社も含めデベロッパーは、構造計算書がどこで行われたかを知らないケースもある。ゼネコンなどの下請け、孫請けとして隠れてしまうからだが、関係部署を通じて確認中」(B社)だ。

 マンション販売現場でも、「現段階ではお客様も少なく、耐震性について聞かれることはないが、明日からが心配」(18日)としている。

 徹底した真相の解明と、再発防止に官民が一体となって取り組んでほしい。そうでないと、マンション市場に多大な影響を及ぼすのは間違いない。

 

(牧田 司記者)