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年金福祉施設の再生目指す東京建物

「レジーナ京都」外観

 

初の管理運営受託案件「レジーナ京都」がオープン

 東京建物は、独立行政法人 年金・健康保険福祉施設整備機構(RFO)から、京都市上京区の年金福祉施設旧「社会保険京都健康づくりセンター(ペアーレ京都)」の管理運営を受託し、新たに「レジーナ京都」として4月21日から稼働させた。

 同機構は、年金資金などの損失を最小限にとどめるために昨年10月に設立されたもので、民間企業のノウハウを活用して全国に約300カ所ある年金福祉施設などの整理合理化を進めている。5年以内に競争入札によって売却する方針だが、民間に管理運営を委託することで価値を高め、売却価格を引き上げようという狙いから、一部の案件については管理運営を委託することに決めた。その第一弾がこの「レジーナ京都」だ。

 レジーナ京都は、京都市営地下鉄「今出川」駅から徒歩5分、京都御所まで徒歩5分の市内中心部に位置する地下1階地上5階建てで、延べ床面積約7900平方b。平成10年にオープン。客室36室のほか、会議室・宴会場、レストラン、室内温水プール、トレーニングジム、陶芸室などで構成される。

 同社は、一部リニューアルしたほか、インターネット予約システムの導入、カルチャー教室の増設など、ハード・ソフト両面で見直しを図り、稼働率の向上を目指す。

 ◇  ◇  ◇

 同施設がオープンするのに先立って4月14日、報道機関や関係者などに施設が公開された。

 オープンセレモニーの席上、挨拶に立った同社・南敬介会長は、「当社がこれまでのホテル・リゾート施設運営で培ってきたノウハウを最大限注ぎ込む。皆さんに愛される施設にして、国益につなげたい」と抱負を語った。また、同機構・水島藤一郎理事長(元三井住友銀行副頭取)も「二束三文で単純売却するより、東京建物さんに価値を高めていただき、福祉施設の再生の新しいビジネスモデルにしていただきたい」と語った。

 総支配人を務める東京建物リゾート取締役・山口憲多朗氏は、「120あるカルチャー教室やプール利用者は年間約15万人もいる。地域に愛される、女性にやさしい施設として再生したい。ホテル機能は、これまで40 %だった稼働率を70〜80%に引き上げたい。初年度売上目標は2億2000〜2億5000万円。初年度で黒字化を目指す。機構は3年後に売却する方針だが、継続して運営できるように頑張りたい」と語った。

 年金福祉施設については、その無駄遣いが多くの国民から批判されている。施設を安値で民間に売却することに対しても批判は多い。単純に売却するのではなく、民間のノウハウを生かして再生させるのは歓迎すべきことだ。受託第一号案件だからなおさら期待は大きい。

 しかし、率直に言えば前途は多難といわざるを得ない。これまでの施設のありようがハード・ソフトとも極めてずさんで、ゼロからというよりマイナスからのスタートだからだ。

 「レジーナ京都」としてオープンする以前の「ペアーレ京都」がいかに問題を多く抱えていたか、施設運営がいかにずさんであったかを列挙してみよう。

@箱もの≠サのものの客室

 施設の外観はガラスやコンクリート打ち放しなどが採用された印象的なものだ。柱を隅切り角にするなど、細かな配慮も見られるし、プールも豪華で設備仕様は水準以上だ。

 ところが、宿泊部分はまさに箱もの=B客室ドアを開けると、すぐ殺風景な空間やベッドが目に飛び込んでくる。お客様を暖かく迎え入れる工夫がまるでない。

 デラックスツインは40平方b以上あるが、小さなベッドが2つにテレビ、小さな机、ソファなどがあるだけだ。アメニティも最小限のものしかない。驚かされるのは、洗面、浴槽、トイレのいわゆる3点セットのほかに、独立した洗面所があることだ。この意図が全く理解できない。

 車椅子利用を想定した立派なバリアフリールームもあるが、一般の客室をおろそかにしていては、いかにも身障者に配慮したというアリバイづくりとしか受け取れない。東横インは車利用施設を一般向けに改造して批判を浴びたが、この施設は、逆の意味で差別的≠セと感じた。

Aホスピタリティの基本ができていない

 ゴミ収集は、業者に委託しており、ゴミが落ちていてもスタッフは拾うことをせず、業者に拾わせるため連絡していたという。挨拶をしないという声も、カルチャー教室の講師など関係者からたくさん聞いた。

B集客努力を怠っていた

 オープンセレモニーで挨拶したみずほ銀行・時田 栄治 常務は「2年前まで京都支店長をしていたが、施設の存在すら知らなかった」と語った。

 カルチャー教室の講師も「これまでは全然、宣伝をしてもらえなかった。受講者の方はほとんど自転車でこられる方だった。夜間の教室についても、『スタッフは8時に帰るから、それまでにして欲しい』といわれた。6時(18時)にこられる方なんかいませんよね」と、不満を打ち明けた。

 また別の講師は、「これまでは、スタッフの方から『おはようございます』の挨拶すらなかった。講師同士でコミュニケーションを取ることを嫌がられた。京都は、口コミによって人の和が広がっていくんです」と、これまでのスタッフの対応のまずさについて率直に語った。

C不可思議な継続雇用拒否

 何よりも不思議なのは、従前の約20人のスタッフのうち、継続して雇用を希望したのはわずか5人だったということだ。管理運営を受託する条件として、従業員の雇用を継続するということが盛り込まれていたが、同社の管理運営が決った時点で、多くのスタッフは退職を決めたようだ。

 自らの仕事に誇り・プライドを持っていれば、多少条件が変わっても継続雇用を希望するのが普通だ。誤解を恐れずに言わせてもらえば、そもそもスタッフは「何のために働くのか、誰のために働くのか」が分かっていなかったようだ。

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 オープンセレモニーが行われた翌日、記者がチェックアウトをするとき、スタッフからは「ありがとうございました」という、ややぎこちないが大きな声がかけられた。継続雇用を希望したある女性スタッフからは、「私は、家が近いとか、給与など待遇が良くなるということもありますが、もともと接客が好きですから」との声も聞いた。

 前途は多難ではあるが、その成否が国民から注目されている。声援を送りたい。

 

南会長

水島理事長

3点セットとは別の洗面所がついている客室

デラックスツインの客室

 

(牧田 司記者 4月19日)