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2015/04/04(土) 00:00

マンションコミュニティを否定するのか 国交省マンション管理検討会

投稿者:  牧田司

 平成24年1月から27年2月まで途中2年半の中断を挟み合計11回の会合を経て国交省「マンションの新たな管理ルールに関する検討会」(座長:福井秀夫・政策研究大学院大学教授)が終了した。最終とりまとめとして近く発表される。標準管理規約に盛り込まれている「コミュニティ条項」が削除されるのは確実で、その是非をめぐって内外野から議論が巻き起こりそうだ。

 この「検討会」について記者は、都合3度だけ傍聴できなかったが、ずっと取材してきた。初回の会合でいきなりビンボールまがいの発言が飛び出し、第三者管理方式、コミュニティ活動、議決権の要件などについて激論が交わされた。意見がまとまらず、第9回以降2年半も会合が開かれなかったので、空中分解、雲散霧消したものとばかり考えていた。しかし、この空白期間に何かがあったのか、最終的には現場サイドの声は全く反映されず、「コミュニティ条項」を削除するという方向が打ち出された。

 いま、「コミュニティ」はマンション業界の大きなテーマの一つだ。デベロッパーも管理会社も管理組合も自治体などと連携してこの取り組みを強化している。どうしてこのような時代に逆行する、流れを遮断しようという動きになったのか。振り返ってみた。 

◇       ◆     ◇

 検討会は、機能不全に陥った管理組合をどう救済するかがメインテーマと思われたが、第1回会合から各委員と現場サイドの専門委員・オブサーバーとの間で意見の相違が表面化した。

 中でも激しいやり取りが交されたのはコミュニティ形成についてだった。区分所有法にはコミュニティや自治について規定はまったくなく、国交省が作成したマンション標準管理規約の「コミュニティ条項」だけが管理組合の自治・コミュニティ活動に対してお墨付きを与えていた。これが問題視された。

 問題を整理しよう。管理組合と自治会の関係については、前者は区分所有法による明確な法的根拠があり、目的、構成員、禁止事項なども定められている。同法は、「区分所有者は、全員で、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うための団体を構成し、この法律の定めるところにより、集会を開き、規約を定め、及び管理者を置くことができる」(第3条)「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない」(第6条)と規定している。

 一方、地方自治法では「(地縁による団体)は、その規約の定める目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う」(第260条の2第1項)とあり、目的は「地域住民の親睦、福祉、防犯、文化等にかかわる諸活動を行う」と自治会などを規定し、構成員は「区域に住所を有する者で加入を希望する者」となっている。

 このように両者は明らかに異なる団体だ。双方に関する裁判例でも、「町内会費の徴収は、共有財産の管理に関する事項ではなく、区分所有法第3条の目的外の事項」であり、「この町内会費相当分の徴収をマンション管理組合の規約等で定めてもその拘束力はない」(平成19年8月7日、東京簡易裁判所判決)と、代理徴収は無効とされている。

 今回の「検討会」でもこの問題が蒸し返された。当然と言えば当然だ。記者も現行の「コミュニティ条項」は法的な担保力が希薄で、やや無理があると思う。しかし、財産管理の組合活動とコミュニティ活動は車の両輪だ。どちらかが機能しなければ、マンションは極めて住みづらい〝ハコ〟に成り下がる。コミュニティはマンションの財産・生命・文化を守り発展させるエンジンでもある。

 記者は、堂々巡りの白熱した論議を聞きながら、最終的には両論併記で丸く収められるのではないかと思ったが、そうではなかった。福井座長は第9回目の会合で次のように述べている。

 「町内会費の徴集は無効だとまで言われているわけですから、仮に違法な活動に管理費を使っていた場合に、法的紛争が起きて同様の判断が裁判所で相次ぐことにでもなったら、標準管理規約以前のみっともない事態に陥る。そういう意味での安全運転をするという前提で議論いただきたいと思います」

 「安全運転をする」-この言葉に福井氏の強い意志が込められている。これを聞き逃したのはミスだった。具体的にはどのようなやり取りがあったか。少し長くなるが、議事録から引用する。

 自らマンション居住者だという村辻義信委員(弁護士)は、財産管理団体としての管理組合の本質的な目的を理解していない人が多いとし、「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成、これに管理費を充当するんだという、この条項が明記されたことによって、さらに混迷を深めているという状況にある」と、福井座長の考えに概ね賛成であると述べた。

 コミュニティ条項を削除すべきという意見の急先鋒、安藤至大委員(日大大学院総合科学研究科准教授)は、「私は村辻委員のご意見よりもさらに厳格にとらえるべきだと考えております。先ほど、防災の取り組みにバーベキューを組み合わせるという話ですが、これに全員が喜んで参加しているのかということが知りたいですし、また全員が喜んで参加するようなイベントであれば、参加費を本人たちから徴集すれば良いと思います。仮に、防災訓練には参加したいがバーベキューには興味がない人、かつ区分所有者の方からしたら、自分たちのお金が目的外に使われている状況なわけですから、これは明確にすべきです。勝手に流用されては困るという考え方もあるのです。

 また、防災がそれほどまでに大事なのであれば、防災訓練の参加を現時点で、ちゃんと強制して行っているのかについても気になります。全員参加しているのでしょうか。それをせずに、参加できる、そして参加したい人だけで防災訓練を行い、気の合った人たちだけでバーベキューをやるというようなことにもし管理組合のお金を使っているのであれば、それこそまさに目的外使用であり、この最高裁の判例とかの考え方からすれば、もう完全に逸脱していると考えております」と、バーベキューなどの飲食に管理費を充当するのは目的外使用と主張した。

 これらの意見に対して、村裕太専門委員(三井不動産レジデンシャル開発事業本部都市開発二部部長)は、「コミュニティの形成が良好なマンションというものが、よく清掃が行き届いていたりとか、設備の保守、維持がちゃんとできていたりと同等になるぐらい、やっぱり資産価値を高める、もしくは維持するのに必要なソフトだという認識がご購入者の方に強いからだというふうに私ども分譲主としては思っておりまして、逆に、売り主としてはコミュニティの形成に必要ないろいろなイベントなどを企画したりサポートしたりというようなことをむしろ積極的にお勧めしたり、お手伝いをしたりというようなことをやっております」と反論した。

 すかさず、安藤氏は、「今、村専門委員がおっしゃったことが仮に正しいのであれば、別に管理組合がお金を出さなくても、住人全員が自分たちで進んで町内会に参加し、町内会の経費でそのような取り組みをするはずですので、まさに管理組合と町内会とを混同する必要がないということを、ご説明されたのではないでしょうか」と再反論した。

 こうしたやり取りが続き、結局、議論は平行線のまま散会となった。

◇    ◆   ◇

 さて、皆さんはこのやり取りと結論をどう理解されるか。ひと言で言えば、コミュニティ削除派が法律を楯に存続派を押し切った形だろう。

 いずれにしろ、今回の決定は、これまで国交省が示していた標準管理規約(コメント)の「コミュニティ形成は、日常的なトラブルの未然防止や大規模修繕工事等の円滑な実施などに資するものであり、マンションの適正管理を主体的に実施する管理組合にとって、必要な業務である。管理費からの支出が認められるのは、管理組合が居住者間のコミュニティ形成のために実施する催事の開催費用等居住者間のコミュニティ形成や、管理組合役員が地域の町内会に出席する際に支出する経費等の地域コミュニティにも配慮した管理組合活動である」とする見解から180度の転換だ。

 しかし、その一方で、検討会は専門委員やオブザーバーの主張を考慮したのか、自治会活動は合意形成や地域の防犯面、資産価値向上につながる効果は否定できないとし、「政策論からコミュニティ活動は展開すべき」という意味がいまひとつ分からない悩ましい文言が盛り込まれた。

 この相反する結論を600万人の区分所有者はどう受け取るのだろうか。一方で否定され、他方で奨励されれば、また裂き状態に陥るのではないか。

 そもそも、どうしてこんなに議論が紛糾するのかという根本問題について考えないといけない。記者は区分所有法に問題があると思っている。多くの法律には「国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」(マンションの建替え等の円滑化に関する法律)のように第1条に目的規定がある。ところが、区分所有法の第1条(建物の区分所有)は「一棟の建物に構造上区分された数個の部分で独立して住居、店舗、事務所…は、この法律の定めるところにより、それぞれ所有権の目的とすることができる」としか規定されていない。この種の規定は趣旨規定というのだそうだが、やはり哲学がない。 ここに根本原因があるのではないか。

 一つだけ、聞き捨てならないことがあるので言わせていただく。安藤氏が防災活動とバーベキュー活動を攻撃したことについてだ。ここまで言われると、もう完全な自主的な住民の自治活動、コミュニティ活動に対する敵視だ。悪意すら感じられる。

 失礼ながら安藤氏の発言・言葉には険がある。どこか人を小ばかにするもの言いで、喧嘩を売るメディアのディベート番組を観るようで気分が悪くなる。

 どこの管理組合も予算の半分以上は恒常的な建物の維持管理費に消える。少ない予算をやりくりしイベントなどの費用を捻出しているのが実情だ。役員はほとんどボランティアだ。企業の交際費や政治家の政務活動費とは訳が違う。コミュニティ活動が違法な活動であるかのように言われるのには腹が立つ。

 話は横道にそれるが、安藤氏は第三者管理に御執心のようだが、富裕層向けや投資用マンションはいざ知らず、一般的なマンションや機能不全に陥ったマンションの管理組合は専門家などに支払う報酬をどう捻出するのだろうか。飲食費をそのままフィーに充てても足りないのではないか。

 書きだすととまらなくなる。記者の悪い癖だ。もう最後だ。つたない記事に付きあっていただきたい。

 記者も町内会が戦前、住民同士が監視し合い、大政翼賛の一翼を担わされていたことを学んだ。今でも行政の下請け的なことをやっているのかもしれない。自治会が毛嫌いされるのはそんな理由からだろう。

 しかし、冠婚葬祭に代表されるようにわが国の伝統的な文化を継承し、地域ぐるみで様々な問題を主体的に解決し、行政などに街づくりを提案するなど、自治(町内会)活動は、地域社会の活性化に大きな役割を果している。今後もその役割は増大するはずだ。緊急時には公助は当てにできず、自助・共助こそが生死の鍵となることを3.11でわれわれは学んだのではなかったか。

 「自治(self-governance)」とは「自分たちが決めたことは自分たちで守る」という意味ではないのか。安藤氏の主張は、マンション居住者の自治権を奪い、その権限を一部の専門家や富裕層に集中させようという企みではないかと勘繰りたくなる。細かく規制をかけるより、管理組合の創意工夫に任せたほうがマンションの価値はあがる。コミュニティがマンションの価値を計る指標の一つになる時代は必ずやって来る。

「福井先生を連れてきたかった。残念」 管理協理事長、「検討会」を批判(2015?3/13)

 

 

 

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