RBA OFFICIAL
 
2019/06/01(土) 13:20

住宅不可の151ha〝処女地〟新木場にライフサイエンス拠点 三井不の新事業

投稿者:  牧田司

2-2_三井リンクラボ新木場_外観イメー.jpg
「(仮称)三井リビングラボ新木場」完成予想図

 首都圏のJR・私鉄の全駅名を諳んずることができるギネス級の才能の持ち主のアンビシャスの安倍徹夫社長にははるかに及ばないが、小生はマンションや戸建てが分譲された駅はほとんど〝踏破〟している。数えてはいないが、400駅くらいはあるはずだ。

 東京メトロ有楽町線・りんかい線・JR京葉線3駅が利用できる、東京駅から約10分の新木場駅は2度ほど、マンション見学ではなかったが降り立ったことがある。1度目は20年前、貯木場を見るためだった。沢山の丸太があり、小さいころ見た筏師を思い出した。もう一度は、木造中高層建築物「木造会館」を見学するためだった。

 そして一昨日(5月30日)、驚いたことに新木場は地区計画で「マンションは不可」になっていることを三井不動産関係者から聞いた。

 工業専用地域(工専)でも調整区域(条件付きだが家も店舗も建つ)でもあるまいし、東京駅から電車で10分の交通利便なエリアで住宅建築を不可とする地区計画などはあり得ないと思ったが、区のホームページと担当者に確認したらその通りだった。

 平成11年11月15日付で従前の用途地域・工専を準工業に変更し、なおかつ「新木場・辰巳三丁目地区 地区計画」を定め、「木材関連をはじめとする多様な生産・流通機能と商業・業務機能などが共存できる複合地区の形成を図る」目的に適さない住宅や風俗系建築物、廃棄物処理場を不可とした。

 網をかけたエリアは江東区新木場一丁目、新木場二丁目、新木場三丁目及び辰巳三丁目の約151haだ。規模は、約180haの昭和記念公園には負けるが、約115haの皇居を上回る広さだ。

 試しに、区のホームページで住民登録をしている人がいるかどうかも調べた。何と74世帯88人が〝住んでいる〟ではないか。男女別では71人:17人。圧倒的に男性が多い。

 この不可思議を都市計画担当者に伝えたら「既存不適格? それはあり得ない。もともと工専だから、住んでいる人がいるとすればNG(罰則はないそうた)」と話した。このことを住民登録担当に伝えたら、広報に回され、広報担当の方も答えられなかった。つまり、住民登録と都市計画法はリンクしていないことは明らかだ。

 都市計画担当者から話を聞いて、地区計画を決定した平成11年のころ、当時の江東区長とデベロッパーの間で大喧嘩したのを思い出した。区長は、激増するマンション開発に小学校などのインフラが整備できないと激怒し「マンションなど蹴とばしたい」と都の都市計画に関する会合で発言した。工専が解除されるのを見越して土地を購入していた大手デベロッパーは色をなくし、色めき立った。新木場を「住宅不可」としたのは知らなかった。(個人的には〝何でもあり〟の準工用途が圧倒的に多い同区には同情するが…)

2-5_三井リンクラボ新木場_地図.jpg
新木場の位置図(〝海の孤島〟ではあるが都心に残された〝処女地〟であることが分かる)

◇       ◆     ◇

 ここまではプロローグ。都市計画法ではありえない住宅不可の、駅前に行かないと飲食店はなく、フーゾクもない151haもの広いエリアに男女比71:17の88人の方はどのような生活をしているのか、職業は何か興味をそそられないわけではないが、本当に書きたいのはこれからだ。

 5月30日、三井不動産は記者発表会を行い、オフィスビル、住宅、商業施設、ホテル・リゾート、物流施設に続く、新しいアセットクラスの不動産事業である「賃貸ラボ&オフィス」事業を開始すると発表した。

 「三井のラボ&オフィス」は、これまで日本橋を中心に進めてきた一般社団法人ライフサイエンス・イノベーション・ネッ トワーク・ジャパン(LINK-J)と連携した「コミュニティの構築」、イノベーションによる新産業の創造・育成につながるエコシステムを構築するための「場の整備」、およびライフサイエンス系ベンチャー企業へのLP投資をおこなう「資金の提供」の取り組みをさらに一歩進めるもので、「本格的なウェットラボ」(創薬や再生医療等の研究者が液体気体等を使って実験を行う場所のこと)と「オフィス」が一体化した施設の賃貸事業のことだ。

 具体的な取り組みとして「(仮称)三井リビングラボ葛西」「(仮称)三井リビングラボ新木場」を開設し、柏の葉でも計画していることを明らかにした。

 「葛西」は第一三共の延べ床面積約678坪の研究棟を賃借(マスターリース)する。2019年9月竣工。

 「新木場」は駅から徒歩11分、同社が土地を賃借し、ラウンジ、会議室、共通実験機器室なども利用可能な6階建て延べ床面積約2,280坪の事務所棟を2020年1月に竣工する。ワンフロア30坪から最大480坪まで賃貸可能。

 会見に臨んだ同社常務執行役員でLINK-Jの理事を務める植田俊氏は「この種の事業は欧米ではけた違いの規模で行われているが、わが国には市場そのものがない。具体的な事業規模は現段階で申し上げられないが、マーケットメークし、当社の6番目の新しい事業に育てたい。『コミュニティ』の構築、『場』の整備、『資金』の提供を3本柱とし、わが国がライフサイエンス産業における世界に冠たるアジアナンバーワンの地位を確立することに貢献する」と話した。

IMG_7522.jpg
右から植田氏、三枝氏、LINK-J理事 事務局長・曽山明彦氏

◇       ◆     ◇

 小生はライフサイエンスのことはちんぷんかんだが、同社ライフサイエンス・イノベーション推進部長・三枝寛氏などによると、米国ボストンには新木場をはるかに上回るライフサイエンス拠点があるという。2025年の先端医療・ライフサイエンス市場を約2兆円と予想した富士経済のレポートもある。

 さて「新木場」に戻す。東京駅から10分の至便な位置に皇居を上回る約151haにも及ぶ土地に「住宅不可」の地区計画の網をかぶせてきたからこそ乱開発を防止してきた。〝海の孤島〟というよりは都心に残された最後の〝処女地〟だ。

 地価はどうか。地価公示は坪当たり約100万円(容積200%として1種50万円)で、〝陸の孤島〟晴海の坪470万円と比べると5分の1だ。

 同社がいくらで賃借したかは分からないが、賃料は都心一等地の数分の1ではないか。同社の発想力には舌を巻くほかない。湾岸開発は同社の十八番だ。

◇       ◆     ◇

 以下は、いわばエピローグ。同社が3年前、ベンチャー共創事業に関する記者発表会を行った際の同社取締役専務執行役員・北原義一氏(現同社代表取締役副社長執行役員)の感動的な名演説を紹介する。

 北原氏は「当社の事業の柱であるオフィス、商業施設、分譲住宅を野球に例えるなら3番、4番、5番のクリーンアップ。しかし、これが20年先、30年先、永遠に続くわけではない」と切り出し、「ダーウィンは『変化に順応できるものが生き残る』といったが、それだけでは十分でない。変化の後追いだけでは進歩はない。そのためには、異端、異能を重視し、柔軟性のある社会に変えないといけない」「社会を切り開くのは既存のベンチャーの専売特許でもない。当社のオフィス・商業施設のネットワークは約5,500社の50万人、60万人にのぼる。こうしたオフィスワーカーのベンチャースピリットを覚醒させ、化学反応、爆発を誘引したい。そこから新しい産業が生まれるかもしれない。わたしはワクワクしている」「もう一つ重要なのは、短期的利益を求めず、中長期的視点で育てていくということだ」などと語った。

 ひょっとしたら、菰田正信社長も北原副社長も第4、第5(第3は心当たりあり)の〝東京ミッドタウン〟候補に「新木場」を上げているのではないか。10年先には〝東京ミッドタウン新木場〟構想が発表される可能性があるのではないか。

 江東区の都市計画担当者は「オフィス? もちろん可能。地区計画の変更? 手続き上は可能ですが、まずありえない。ホテル計画の相談があったが、インフラの整備ができず立ち消えになった。都市再生特区? 10年くらい先のスパンであればありうるかもしれない」と話した。

 冒頭の貯木場に戻る。あれから20年。木材の輸入形態が丸太から製品に変化したことなどにより、貯木場はいまほとんど未使用状態のようだ。筏師は観光地でしか見られなくなった。

三井不動産 〝ワクワクする〟発表会 ベンチャー共創に50億円投資(2016/2/24)

木造とコンクリートの見事な調和を図った「木材会館」(2012/10/2)

 

rbay_ayumi.gif

 

ログイン

アカウントでログイン

ユーザ名 *
パスワード *
自動ログイン