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2023/07/18(火) 18:19

住宅セーフティネットを考える 「住宅確保要配慮者」は400万世帯でも少ない

投稿者:  牧田司

 厚生労働省、国土交通省、法務省による第1回「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」(座長:大月敏雄・東京大学大学院工学系研究科教授)が行われたのをきっかけに、住宅セーフティネットについて改めて考えてみた。

 まず、「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(セーフティネット法)で定める「住宅確保要配慮者」とは何かについて整理する。

 「住宅確保要配慮者」とは、①低額所得者(月収15.8万円以下)②被災者(発災後3年以内)③高齢者④障害者⑤子ども(高校生相当まで)を養育している者のほか⑥住宅の確保に特に配慮を要するものとして、外国人のほか中国残留邦人、児童虐待を受けた者、ハンセン病療養所入所者、DV被害者、拉致被害者、犯罪被害者、矯正施設退所者、生活困窮者、海外からの引揚者、新婚世帯、原子爆弾被爆者、戦傷病者、児童養護施設退所者、LGBT、UIJターンによる転入者なども該当するとされている。

 国土交通省などの資料によると、①低額所得者(月収15.8万円以下)は約1,300万世帯②被災者(発災後3年以内)は約5,800世帯③高齢者は1,889万世帯④障がい者は約411万世帯⑤子ども(高校生相当まで)を養育している者は約1,147万世帯⑥障害者90万世帯、外国人240万人、生活保護受給世帯160万世帯。このほかセクシュアル・マイノリティ(LGBT)は人口の7~8%と言われている。

 このマクロデータからは「住宅確保要配慮者」は見えてこない。低額所得者や高齢者であっても住宅に困っていない世帯は相当数にのぼっているからでもあるのだが、「高齢者」「外国人」「障がい者」を理由に入居を拒否しようとする大家、それを容認する仲介不動産会社には特権的な権限が付与されているわけでもないにも関わらず、全国のコンビニ約57,000店舗の2倍以上もある約13万の宅建業者に生活・住宅困窮者対策の一端を担わせようとする国と、賃貸料の滞納の心配がないセーフティネット住宅は大家・不動産会社にとっても大きなメリットがあり、その利害関係が複雑に絡み合っていることが実態を見えづらくしている。もう少し具体的にいろいろなテータを見てみよう。

 令和2年の国勢調査によると、わが国の世帯数は5,583万世帯で、学校の寮・寄宿舎、病院・療養所などの入院者、社会施設の入所者などが居住する「施設などの世帯」を除く「一般世帯」を所有関係別にみると、「持ち家」が3,372万世帯(全体の61.4%)ともっとも多く、「民営借家」は1,633万世帯(29.7%)、「公営の借家」は190万世帯(3.5%)、「給与住宅」は155万世帯(2.8%)、「都市再生機構・公社の借家」は75万世帯(1.4%)となっている。

 総務省の平成30年の住宅・土地統計調査によると、住生活基本計画に定める最低居住面積水準未満(単身25㎡、2人30㎡、3人40㎡、4人50㎡)以下の世帯は全世帯の6.6%、353万世帯で、所有関係別でみると持ち家は10.3%、民営借家は18.5%となっている。最低居住面積水準未満の80.0%を民営借家が占めている。

 民営借家1,530万戸の世帯人数は2,641万人、1住宅当たりの延床面積は45.57㎡(持ち家は119.91㎡)。単純計算すると1戸当たり居住人数は0.73人となり、空き家が多いことをうかがわせる。空き家は845万戸(空き家率13.6%)で、「賃貸用の住宅」が433万戸(総住宅数に占める割合6.9%)、民営の空き家は360万戸、空室率は23.6%だ。

 総務省の調査には面白いものもある。総数670万世帯の家計を支える者の通勤時間を所要関係別、延べ床面積別、建て方別に調べたもので、全体では1時間未満は86.9%(自宅・住み込みは0.9%、1時間以上は12.9%)となっている。

 持ち家は、総数218万世帯のうち通勤時間1時間未満は81.2%で、自宅・住み込みは0.9%、1時間以上は18.6%。延べ床面積70~99㎡では、1時間未満は77.8%と低く、逆に1時間以上は21.9%を占めている。

 民間借家はどうか。総数367万世帯のうち延べ床面積が29㎡以下の比率は25.4%(持ち家は6.6%)で、通勤時間1時間未満は89.5%、自宅・住み込みは0.6%、1時間以上は10.6%。延べ床面積70~99㎡では1時間以上が13.5%となっているように、面積が増えると通勤時間も増える傾向を示している。

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 令和2年の国勢調査によると、「ひとり親と子供から成る世帯」は500万世帯(全体の9.0%)で、うち子どもが15歳未満は131万世帯だが、厚生労働省が令和3年11月に実施した「全国ひとり親世帯等調査」結果は母子世帯と父子世帯〝差〟が浮き彫りにされている。

 世帯数は、母子世帯が119.5万世帯(母の平均年齢41.9歳)に対し、父子世帯は14.9万世帯(父の平均年齢46.6歳)。一桁異なる。ひとり親世帯になった理由は、母子世帯は離婚が79.8%、死別が5.3%、父子家庭は離婚が69.7%、死別が21.3%。

 就業状況は、母子家庭が86.3%、父子家庭が88.1%とそれほど差はないが、うち正規職員・従業員では母子家庭が48.8%、父子家庭は88.1%、うちパート・アルバイトは母子家庭は38.8%、父子家庭は4.9%となっている。

 世帯の平均年間収入(同居親族を含む世帯全員の収入)は母子家庭が373万円で、父子家庭が606万円。国民生活基礎調査による児童のいる世帯の平均所得を100として比較すると、母子家庭は45.9、父子家庭は74.5となっている。

 養育費の取り決め状況は、「取り決めをしている」が母子世帯で46.7%、父子世帯で28.3%となっており、取り決めをしていない理由は、母子世帯では「相手と関わりたくない」がもっとも多く34.5%、次いで「相手に支払う意思がないと思った」が15.3%で、「相手に支払う能力がないと思った」が14.7%。

 一方、父子世帯では「自分の収入等で経済的に問題がない」が22.3%ともっとも多く、「相手と関わりたくない」が19.8%、「相手に支払う能力がないと思った」が17.8%となっている。(この問題に深入りしないが、〝愛と憎しみは紙一重〟ととうことか。自由に別れられ、再婚できる環境を整備すべきだ)

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 国土交通省の平成30年の「住生活総合調査」では、持ち家への住み替え意向を持つ子育て世帯の課題のトップは「資金・収入の不足」で、子どもの年齢にかかわらず64.4~71.3%(全世帯平均は63.6%)に達している。借家への住み替えを希望している子育て世帯もほぼ同様で、「資金・収入の不足」「希望エリアの物件が不足」を課題にあげている。

 借家における住居費負担に対する評価を見ると、「ぜいたくはできないが、何とかやっていける」が52.1%ともっとも多く、次いで「ぜいたくを多少がまんしている」が23.1%、「家計にあまり影響がない」が16.7%、「生活必需品を切りつめるほど苦しい」が8.1%となっている。

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 令和5年3月現在、住宅扶助を受けている世帯は被保護世帯全体約164万世帯の85.9%に当たる約141万世帯となっている。

 支給に当たっては家賃限度額が定められており、東京23区(1級地)の単身は53,700円、2人世帯は64,000円だ。大半のセーフティネット登録住宅が郊外部であることからも分かるように、この額で借りられる23区の賃貸マンションは足立区などごく一部に限られるはずだ。つまり、生活保護世帯は居住地を自由に選べないという問題がある。

 居住地が自由に選べないのは生活保護世帯に限ったことではない。23区の新築分譲マンション坪単価は300万円を突破しており、10坪(33㎡)で3,000万円以上、20坪(66㎡)で6,000万円以上だ。世帯年収500万円台の取得限界を超えている。安価で良質なマンションを購入できる層もまた限られている現実がある。

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 以上、住宅セーフティネットを巡る現状について書いてきたが隔靴掻痒。いろいろなデータから平均値をはじき出しても実態に迫ることは容易ではない。

 とはいえ、当初、国土交通省が令和3年3月末の目標としていたセーフティネット登録住宅数17.5万戸は圧倒的に少ないといわざるをえない。

 民営借家1,633万世帯から最低居住水準未満の282万戸と、基本性能・設備仕様が劣り、老朽化や間取りの陳腐化などによって市場競争力を失った空き家360万戸(国が買い取り補修して貸し出すのも一法だとは思うが)を除いた約990万戸(世帯)を対象とし、住宅困窮者の実態に照らし合せれば、セーフティネット住宅の目標戸数は400万戸くらいに設定すべきではないか。

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 今回の記事を書くにあたって、平山洋介・神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授(当時)の著書「マイホームのかなたに」(筑摩書房、2020年3月刊)と「『仮住まい』と戦後日本」(青土社、2020年刊)を参考にさせていただいた。

 平山教授は「マイホームのかなたに」で次のように指摘している。

 「留意すべきは、多彩な『カテゴリー』を『列挙』すればするほど、住宅セーフティネットの対象が『特殊』で、その構築が普遍性を持つ施策ではないことを示唆する効果が生まれる点である。住宅確保要配慮者の長大なリストの作成は、住宅困窮の範囲を拡大するのではなく、むしろ狭め、セーフティネット政策に『ピースミール・アプローチ』を当てはめる意味を持つ」(233ページ)

 「住宅困窮を『カテゴリー』化する技術は、住宅政策のあり方についての論議を『階層化』『不平等』『再分配』などのコンセプトから遠ざけることで、〝脱社会化〟し、さらに〝脱社会化〟する(平山2017)。重視されるのは、貧困者、ホームレスの人たち、DV被害者などの住宅改善にどのように対応するのかというテクニカルな問いである。それは、住宅システムの市場化を『自然化』する力と表裏一体の関係をつくる。ここでの関心は、『階層化』社会における『不平等』と『再分配』ではなく、均質かつ広大な市場空間の『内』に参加できず、『外』に排除された『特殊』かつ多様な『カテゴリー』の人びとに対する『ピースミール・アプローチ』の工夫に向けられる。住宅問題の研究者と専門家、さらに運動家の一部は、障害者、母子家庭などの『カテゴリー』ごとに細切れになったグループの住宅状況とそれへの対策の技法に関する専門的な検討に専念し、住宅困窮の社会・政治力学に対する興味を失うように導かれる」(同書234~235ページ)

 平山教授は「『仮住まい』と戦後日本」で次のように述べている。

 「住宅セーフティネット法の2017年改正に向けて…『救済に値する』人たちの範囲をいわば極限にまで狭める方向が示された。事務局(国土交通省住宅局)の試算によると、住宅確保要配慮者は、約28万世帯であった…最低居住面積水準未満『または』高家賃負担の世帯数を計算すると、収入分位25%以下では277万、同25~50%では65万、計342万になる。『かつ』と『または』では、セーフティネットの対象の規模に12倍以上もの差がある」(同262~263ページ)とし、「最低居住面積水準未満『かつ』高家賃負担のグループは、『または』の場合に比べ、極めて小さくなる。このトレードオフを利用した住宅確保要配慮者の量の試算は、巧妙であった」(同263ページ)

 平山教授の指摘は正鵠を射ていると思う。検討会では、セーフティネット住宅の5年間を総括し、その政策は正しかったのか、セーフティネット住宅の質について論議していただきたいし、登録住宅848,846戸をどう評価するのか、空室率2.3%の意味するものは何か、なぜ大東建託など一部の管理会社による登録が突出しているのか、「大家の安心」も大事だろうが、住宅困窮者の声も反映してほしい。

 そもそも、人口が加速度的に減少し、グローバル化している社会にあって、1世紀も昔の賃貸住宅契約を墨守し、〝入居を拒んでも〟経営が成り立つ民間賃貸住宅市場は普通ではない。この問題にも踏み込んでほしい。

問題山積 要配慮者の居住支援 大家の安心、安否確認、支援法人などテーマ(2023/7/4)

 

 

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