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2023/07/29(土) 19:49

増大する不動産&不動産業向け融資 「今後気を付けて見ていく」日銀・植田総裁

投稿者:  牧田司

 日本銀行・植田和男総裁は7月28日、会見を行い、金融緩和策の柱である「イールドカーブ・コントロール(YCC)」の運用を柔軟化し、これまで定めてきた長期金利の上限幅「0.5%程度」の基本を維持しつつ、「1.0%」まで容認すると発表した。

 会見で、記者団の「一般物価もそうだが、都内23区のマンション価格が1億円を突破したように資産価格の上昇はバブルの様相を呈しているのではないか」という質問に対して、植田氏は「都心部のマンション価格はものすごく上昇しているが、かなりの部分は個別要因によるものだ。それにしても不動産投資、不動産業向け融資などのデータはかなり高い水準で推移しており、今後気を付けて見ていきたい」と述べた。

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 YCCの柔軟な運用がわが国の経済、物価にどのような影響を及ぼすのか記者は分からないが、欧米などが利上げに踏み切ったことと無関係ではないはずだ。ここでは、植田氏が「今後気を付けて見ていきたい」と述べた不動産価格について考えた。

 日本銀行のデータによると、金融機関の不動産業向け融資はこのところ増え続けており、2023年3月末の融資残高は98兆2,521億円(前年同期は92兆4,286億円)となっており、全融資残高に占める割合は17.0%に達している。個人による貸家業へも27兆7,242億円(前年同期は27兆7,278億円)と高い水準が続いている。双方を合わせると全融資残高の実に21.8%を占める。

 国土交通省の「令和4年度 民間住宅ローンの実態に関する調査」では、令和3年度の個人向け住宅ローンの新規貸出額は20兆7,948 億円となり、前年度から9,811億円、2.0%増加した。令和3年度末の貸出残高は191兆5,725億円で、令和2年度末より9兆9,224億円増加している。

 不動産経済研究所の調査によると、2022年の首都圏マンション供給戸数は2 万9,569戸(前年比12.1%減)で、1戸当たり平均価格は6,288万円(同0.4%上昇)、坪単価は313.8万円(同1.6%上昇)となった。平均価格は4年連続、坪単価10年連続のアップで、平均価格、坪単価ともに最高値を更新した。

 東日本レインズのデータによると、東京都の2022年度の中古マンション成約件数は15,590件(1992年度比316.6%)、坪単価は335.4万円(同131.1%)、価格は5,827万円(同136.0%)、専有面積は57.34㎡(同107.0%)となっている。

 坪単価は、過去30年間でもっとも低かった2001年の140.2万円から約2.4倍、価格はもっとも低かった2000年の2,409万円の約2.4倍に上昇している。

 これらの数値からすれば、1980年代後半の「土地神話」が生きていたバブル期に近づきつつあるといえなくもないが、当時と現在では大きな違いがある。当時は、金融緩和を背景にだぶつく資金は株と不動産投資に向かった。〝狂乱地価〟〝土地・マンション転がし〟という言葉に象徴されるように、投機が投機を呼ぶ異常な世の中になった。日経平均株価は1989年(平成元年)12月29日の大納会で史上最高値38,957円44銭を付けた。都内の一等地のマンション坪単価は2,000万円、3,000万円に上昇し、価格が10億円以上の〝ネオ億ション〟の造語も生まれた。「広尾ガーデンヒルズ」は瞬間的に坪3,000万円の値を付けた。

 現在はどうかというと、海外からの投資マネーが流入し、国内の富裕層などが所得税や住民税、贈与税、相続税の節税対策として不動産を購入するケースも増えてはいるが、基本的には実需が市場を支えている。バブル期はほとんどなかった共働きが一般化した今では、低金利効果とともに高額物件の取得を可能にしている。さらに、単身者やDINKSなど新たな需要層が現在の市場を支えている。

 さて、今後どうなるかだが、マクロデータだけで判断すると、首都圏マンションは新築も中古も一般的な世帯の取得限界を超えている。しかし、都心部の坪単価1,000万円超の物件の売れ行きは堅調であるように、富裕層向けはまだまだ伸びる余地はあると記者は見ている。近い将来、坪単価は2,000万円超ところが3,000万円を突破するのではないか。

 いまタマゴ1パックの値段は306円で、2021年の217円から4割以上上昇しているそうだが、コンパクトマンションの坪単価はこの1~2年間で400万円は500万円へ、500万円は600へ上昇している。年率で2~3割というすさまじい上昇率だ。投資向けはそれよりさらに高い。

 もう一つ、市場を左右する外資の動向だが、これはよく分からない。わが国への直接投資は増加しており、オフィス、ホテル、レジデンス、物流などは海外から見ても有望市場ではないか。

 となると、植田氏が「今後気を付けて見ていきたい」というのは、不動産市場の何を見るのだろうという疑問もわいてくる。過熱すれば、かつて行った総量規制という蛇口を締めるような挙に出ることはないと信じたい。

 

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