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2023/08/15(火) 17:44

長谷工総研「CRI」2023年下期のマンション市場見通し/カバー率、工期を考える

投稿者:  牧田司

着工・供給.png
国土交通省 住宅着工統計から

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住宅着工統計、CRI、レインズデータから作成

 長谷工総合研究所の「CRI」最新号540号(8月号)は、「首都圏 近畿圏 分譲マンション市場動向」を特集し、2023年上半期と下半期の見通しを紹介している。総括として、首都圏の上半期の販売初月販売率は70%を上回り、購入者の多くが選択する変動型住宅ローン金利は低位で推移していること、賃上げの動きも購入マインドに好影響を与えていることなどから、販売状況の見通しでは下半期も販売は堅調に推移し、首都圏の通年供給戸数は31,000戸と予測している。

 詳細はCRIを読んでいただきたいが、注目点は大幅な価格(単価)上昇だ。首都圏上半期の供給戸数は10,502戸で、分譲坪単価は前年比38.9%アップの436万円、平均価格は同41.1%アップの8,873万円となり、ともに過去最高値となった。主な要因として、都心部で大規模物件の供給があり、都内23区の供給比率を46.7%(前年36.5%)に高め、坪単価も同49.4%アップの635万円となったことをあげている。

 ここでは、マンションの基本性能・設備仕様の退行はさておき、CRIで触れられていないことを中心に記者なりの考えをまとめてみた。

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着工統計、CRIから記者作成

 まず、先行指標であるマンション着工戸数と供給戸数の乖離(記者はカバー率と呼ぶ。以下同じ)について。CRIは、総戸数200戸以上の大規模物件は、着工から分譲までの期間が延びる傾向にあるとし、1年超の物件比率は2012年が31.1%だったのに対し、2022年は60.7%に上昇していると指摘している。着工=供給ではなく、タイムラグを考慮に入れないといけないということだ。しかし、着工された物件が途中で工事中止になり、供給されないことはまずありえない。

 その着工と供給の関係を図示した。2009年から2022年のマンション着工戸数は首都圏が823,304戸、近畿圏が325,652戸、合計1,148,956戸で、首都圏:近畿圏は71.7:29.9となっている。一方、供給戸数は首都圏が543,325戸、近畿圏が276,660戸、合計819,985戸で、首都圏:近畿圏は66.3:33.7となっている。着工戸数に占める供給戸数割合(カバー率)は首都圏が66.0%、近畿圏が85.0%となっている。

 なぜこのような結果になっているか。関係者はご存じのはずだが、首都圏の調査対象には専有面積が30㎡未満は除外されており、近畿圏は含まれているからだ。着工比率は首都圏71.7%:近畿圏29.9%なのに、供給比率は首都圏66.3%:近畿圏33.7%になっているのはこのためだ。

 問題は、着工戸数から供給戸数を引いた首都圏279,979戸、近畿圏48,992戸はどうなったかだ。記者は、着工戸数の2割近くが30㎡未満で、約15%が地権者向け・優先住戸とみている。カバー率は好況期で着工が増加したときは下がり、不況期で着工が減少したときは上昇する傾向にある。景況感を判断するにはこのカバー率や価格(単価)動向、在庫数をチェックする必要がある。好例は2008年と2009年だ。カバー率がもっとも高かったのは2009年の90.8%で、もっとも低かったのはその前年の2008年の43.4%だ。リーマン・ショックの影響により中堅デベロッパーが相次いで破綻し、市場が混乱したことを数値は示している。

 次に、市場規模について。マンション着工戸数、供給戸数、平均価格、カバー率などから推計すると、金額ベースでは、過去もっとも供給が多かった2000年(95,635戸)は約4.7兆円で、2022年は約3.2兆円だ。着工・供給が激減しているものの、金額ベースではそれほど落ち込んでいないことが分かる。

 中古マンション市場はどうか。東日本レインズのデータによると、2022年の成約件数は35,429件で、過去最多だった2021年の39,812件を下回ったものの、11年連続して3万戸台を維持した。1戸当たり平均価格は前年比10.5%上昇の4,276万円となり、過去30年間で最も高く、坪単価は前年比12.4%上昇の221.9万円となり、こちらも過去30年間で最高価格になっている。金額ベースでみると、2000年は約5,200億円だったのが、2022年は1.5兆円と2.9倍に拡大している。

 これらの数値から、新築と中古を合わせた市場規模は、2000年が約5.2兆円であるのに対し、2022年は4.7兆円と推測される。リーマン・ショック前に戻りつつあると見ることができる。

 問題はこの先どうなるかだ。新築マンション着工・供給戸数は社会経済動向のほか、高値圏にある価格水準、住宅ローン金利動向などから判断して漸減するのは間違いない。

 中古マンション市場はいま一つよく分からないのだが、在庫件数は成約件数のほぼ同数で、在庫の1戸当たり平均価格も過去30年間で最高の4,064万円になっており、市場では高値警戒感も浮上している。新築と連動しているので注視したい。

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建設物価調査会「建設物価 建築費指数」

 とはいえ、新築価格が下がる要因はほとんどない。日本建設業連合会(日建連)の「建設資材高騰・労務費の上昇等の現状」パンフレット(2023年7月版)によると、全建設コストに占める割合が50~60%を占める建設資材物価は2021年1月と比較して26%上昇し、全建設コストを13~15%引き上げている。全建設コストの3割を占める労務費も上昇しており、全建設コストは3%上昇。この29か月間で全建設コストは16~18%上昇しているとしている。現在も躯体、仕上げ、設備など幅広い分野で納期遅延が発生し、職人不足による工期への影響が出ており、ウクライナ情勢次第では、さら幅広い資材の納期遅延や逼迫が発生する恐れがあるとしている。

 また、建設物価調査会の2023年7月の「建設物価 建築費指数」では、集合住宅(鉄筋コンクリート造)の工事原価指数は2015年を100とした場合、123.1(木造住宅は131.3)となっており、2020年比で20ポイント近く上昇。日建連のパンフレットを裏付けている。

◇        ◆     ◇

 以上述べたように、建築費の上昇は顕著だが、消費者の住宅取得意欲は旺盛で、今後も堅調な市場が続くと記者も見ている。

 いまひとつ分からないのは工期だ。国土交通省は「適正な工期」を徹底させることを求めており、他業種と比べて圧倒的に高い中小企業比率、常態化している長時間労働、生産性・営業利益率の低さ、人材不足、低賃金など建設業の働き方改革は喫緊の課題とされており、その一環として2024年4月からは「時間外労働の上限規制」の適用も実施される。

 これらはコスト上昇の要因になるはずなので、実態はどうなっているか調べようと思ったが、そのようなデータはない。(かつて長谷工コーポレーションは、工期を最大約40%短縮する「マンションEC工法」を開発した)

 データがないどころか、「適正な工期」を徹底させるためには大きな壁があることを、国土交通省の「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査」(2023年5月31日発表)結果は示している。

 注文者から提案された工期について、「妥当な工期の工事が多かった」と回答した建設企業は66.6%であったものの、「短い工期の工事が多かった」は29.2%を占めた。休日の取得状況については、「4週6休程度」が44.1%でもっとも多く、「4週8休以上」は8.6%にとどまっている。

 適正工期を確保するための有効な方法として、発注者の81.0%は「受注者が、発注者に施工に必要な工期を説明すること」をあげたのに対し、建設企業を対象とした調査では76.0%が「注文者の理解が重要」と回答した。

 ここに〝同床異夢〟であり、発注者と受注者の綱引きの構図が読み取れるのだが、ことは容易でない。監視役の国交省の手加減次第で揺れ動く。その背後には消費者の価格下げ圧力もある。

 同省は、全建設プロセスにICTを導入するプロジェクト「i-Construction」により、これまでより少ない人数、少ない工事日数で同じ工事量の実現を図り、2025年までに建設現場の生産性2割向上を目指しているが、どうなるか…。

 

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