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2023/09/09(土) 20:20

性犯罪に加担し隠蔽してきたマスコミの罪は大きい ジャニーズ問題を考える

投稿者:  牧田司

 自動車保険金を不正に請求していた問題で、中古車販売大手のビッグモーターが特別調査委員会の調査報告書を公表したのは7月5日だった。また、前社長が長期にわたって反社会勢力と関係を持っていたことに関して、東証プライム市場に上場している三栄建築設計が第三者委員会の調査報告書を公表したのは8月15日だった。

 そして8月29日、故ジャニー喜多川氏の性加害を巡り、ジャニーズ事務所の「外部専門家による再発防止特別チーム」による調査報告書が公表された。

 記者はエンターテイメントには全く関心がなく、ジャニーズ事務所がどのような会社組織なのか知らなかったのだが、少しは知るべきだろうと思い、その報告書を読んだ。報告書は70ページ以上にわたるもので、読み進むのもためらわれるほどおぞましい性加害の実態がつづられている。

 報告書が指摘する「20歳頃から80歳代半ばまでの間、性加害が間断なく頻繁かつ常習的に繰り返された事実は、ジャニー氏に顕著な性嗜好異常(パラフィリア)が存在していた」「メリー氏はジャニー氏より4歳年長の姉であり、戦前、戦中、戦後の日本とアメリカでの暮らしの中で、幼い頃から姉弟で苦楽を共にしてきた間柄である。ことにジャニー氏が2歳のときに母親が他界してからは、メリー氏は母親代わりとなって末弟のジャニー氏に愛情を注いでおり、両者の関係は姉弟というよりも母親と息子のようであった」ことを初めて知った。

 そして、注目したのは「芸能事務所の経営トップでもある芸能プロデューサーが、その芸能事務所所属の中学生・高校生を中心とする未成年の同性のタレント候補(又はタレント)に対して1970年代前半から2010年代半ばまでの間の長期間にわたって性加害(強制わいせつ罪等に該当し得る犯罪行為)を繰り返し行い、その被害者数は多数に上るであろうという、極めて悪質な事件」を暴けなかった背景には「マスメディアの沈黙」があると指摘していることだ。 

 報告書は「ジャニー氏の性加害の問題については、過去にいくつかの週刊誌が取り上げてきたものの、2023年3月にBBCが特集番組を報道して、その後、元ジャニーズJr.が性加害の被害申告の記者会見を行うまで、多くのマスメディアが正面から取り上げてこなかった」とし、「テレビ・新聞等の日本の主だったマスメディアが性加害の事実を報道せず、その批判にさらされないという状況の下、性加害の実態を徹底的に調査してジャニー氏を解職するなど再発防止を図ることや被害者を救済することを怠った」と批判している。

 4時間以上にわたった9月7日のジャニーズ事務所の記者会見も視聴した。東山紀之新社長は「人類史上最も愚かな事件」と述べた。どこかの記者の方が屋号を存続させることに対して、「スターリン株式会社やヒットラー株式会社に匹敵する」と指摘したのに、東山氏は明快に答えることはなかった。「人類史上最も愚かな事件」に加担し、隠蔽し続けてきた「マスコミの沈黙」に言及する記者は、この記者の方を除きほとんどいなかった。

 その一部始終を各局はテレビドラマのように延々と垂れ流した。会見を視聴していて、東山氏や前社長のジュリー氏が悲劇を演じる役者にみえた。茶番劇ではないかと。

◇        ◆     ◇

 この問題に関するマスコミの社説、コメントもチェックした。以下の通りだ。

 「メディアも真価を問われる局面となった」「これまでの経緯の検証をしないままジャニーズに関わり続けることは、朝日新聞を含め、もはや許されない」(9月9日付朝日新聞社説)

 「国際社会に向けて発信された国辱的な『事件』である」(8月8日付産経新聞主張)「(報告書の)この厳しい指摘には、抗すべき言葉もない。産経新聞をはじめとする新聞、テレビがこの問題の報道に及び腰であったことは事実である」(8月31日付同)

 「多くの未成年者が被害にあう中で、メディアとしての役割を十分に果たしていなかったと自省しています。より深く真実に迫ろうとする姿勢を改めて徹底し、取材や番組制作に取り組んでまいります」(9月7日付NHKコメント)

 「『(報告書で)マスメディアが正面から取り上げてこなかった』などと指摘したことを重く受け止め、性加害などの人権侵害は、あってはならないという姿勢で報道してまいります」(9月7日付日本テレビコメント)

 皆さんはどう読まれたか。朝日新聞はやや踏み込んでいるが、みんな何だかよそ事のようにとらえている。「国辱的な『事件』」を起こしたのはマスコミ自身ではないのか。

 作家・作家・辺見庸氏は著書「言葉と死」(毎日新聞社、2007年刊)でマスコミの「社説」について次のように書いている。

 「ごくまれな例外を除き、新聞の社説というものが発する、ときとして鼻が曲がるほどの悪臭。読まなくても、べっして困ることはないのだし、中身のつまらぬことは分かりきっているのだから、いっそ読まずにおけばいいのだけれど、ひとたび向きあってしまえば、必ず鼻につく、独特の嫌み、空々しさ、絵にかいたような偽善、嘘臭さ…。あれは、いったい、なにに起因するのだろうか。…世すぎとして言説をもてあそぶ者たちの、無責任な論法と卑怯な立ち居振る舞いを、なによりも新聞社説が象徴していると、まずは難じたくなる。あの古臭く酸化した表現の土壌では、言説のおおかたが、つとに根腐れしているのである」(214ページ)

 辺見氏は同著で次のようにも指摘する。「ひとつの芝居が、もはや喜劇の域を超えて悲劇に変じつつある。メディアは、ここは敢えて(アジサイの)花色を変えず、時代の病理を執拗に摘出すべきなのだが、反対に、時代とどこまでも淫らなチークダンスを踊るばかりなのである」(212ページ)「アジサイの花言葉も、そういえば、『高慢』であった」(213ページ)

 これら今回の3件の事件に共通するのは、一人の権力者とその同族の暴走を、誰も止められなかったということだ。順法精神など欠片もなく、ガバナンスは全く機能しておらず、取締役も任務を懈怠していたことが白日の下にさらされたわけだ。こうも矢継ぎ早に信じられない事件・犯罪が起きると、これはもう氷山の一角ではないかと思えてくる。なんともやるせない。

 もう一人、記者がもっとも好きな作家・丸山健二氏の最新作「BLACK HIBISCUS Ⅱ」(いぬわし書房)の一節を紹介する。

 「経済優先の基本に端を発する 非道徳性と違法性にくるまれた厳命を受けたからには 自らを欺くしかないという 勤め人たちの憐れな立場が繁栄の裏に透けて見え」(321ページ)-本質を突いたアイロニーに絶句するほかない。

 

 

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