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2024/01/15(月) 20:14

神宮外苑再開発 全エリア全樹木データ 保存・移植・伐採と移植難易度の関係は不明

投稿者:  牧田司

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 神宮外苑地区まちづくり計画の肝は、東京都の「公園まちづくり制度」だ。おおむね50年以上経過した「未供用区域」の面積が2.0ha以上存在することが適用要件となっており、神宮外苑の計画地約28.4haには秩父宮ラグビー場を中心とするエリア約4.7haが都市計画法の「未供用」となってきた。実態として「共用」であろうと「未供用」であろうと問われない。法律とはそのようなものだ。

 この問題に関連するので、令和4年2月9日に開催された第236回東京都都市計画審議会(会長:原田保夫・東日本建設業保証社長)の神宮外苑地区地区計画(64.3ha)に関する議事録を紹介する。

 青山佾委員(東京都農業会議会長)は次のように語っている。

 「東京都の公園まちづくり制度という制度を今回活用して、特にラグビー場と野球場を入れ替えるという形で、特に観客の多い野球場を青山一丁目駅という地下鉄3線があるところに帰りやすいという形で変えたというような絶妙な配置計画だと、私はそう思います」「今はやはり東京都の公園まちづくり制度の趣旨にあるように、民間による都市開発の機会を捉えて公園を守っていく、あるいは充実していく、あるいは利活用できるようにしていくという考え方が私は大切なんだと思います」

 これに対して、原田あきら委員(東京都議会議員)は次のように反論している。

 「今、青山先生は、今は民間の力を使って公園を作る時代だとおっしゃいましたが、この計画は正に公園の環境を民間に切り売りするような、そういう計画になっているじゃないかと私は指摘をしたんです」「今回、公園まちづくり制度で。そこに公園の中から容積率が移転されて、公園を見下ろす超巨大ビルができると。悪魔の錬金術ですよ」

 (この日の都計審には専門家として青山氏のほかに横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院教授・松行美帆子氏が出席し、千葉大学大学院園芸学研究院教授・秋田典子氏、日本女子大学家政学部住居学科教授・定行まり子氏、ビジネス・ブレークスルー大学副学長・経営学部長教授・宇田左近氏は欠席。発言したのは青山氏のみ。審議会委員の果たしている役割についてはいずれ記事にしたい)

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秩父宮ラグビー場 保存12本 移植46本 伐採37本 合計95本

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 秩父宮ラグビー場に植わっている樹木は95本で、内訳は保存12本、移植46本、伐採37本。伐採される樹木の中で最多はカイヅカイブキの12本。樹高平均は保存が8.6m、移植が3.9m、伐採が7.1m。移植不可19本のうちヒマラヤシダー、サワラなど巨木が大半を占める。

 現在の秩父宮ラグビー場は日本スポーツ振興センターが土地所有者で、現在、明治神宮が土地所有者の第二球場を中心とするエリア約4.3haに移転する。新ラグビー場は、鹿島建設を代表幹事とする三井不動産、東京建物、東京ドームの4社が建設することが昨年決まった。7階建て延床面積約7.0haとなる。最終完成予定は2034年5月末。

 これに伴い、新しいラグビー場敷地は日本スポーツ振興センターが、現在の秩父宮ラグビー場敷地は明治神宮が所有(権利変換)することになる。

 現在の秩父宮ラグビー場には新しいホテル併設の14階建て野球場が建設される。

4列のイチョウ並木 保存128本 移植0本 伐採18本 合計146本

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 神宮外苑のシンボルである4列のイチョウ並木は全木146本が保存されることが決まっている。しかし、日本イコモスはイチョウ並木西側の10本は衰退が著しい・衰退の兆候かみられるとし、ほとんどを健全木と判定した全木調査は「重大な『虚偽の報告』」とし、再審を要求している。

 ラグビー場に通じる舗道に植わっているイチョウ18本については、移植が検討されているが、日本イコモスは「データシートにおける樹木医の診断の項は『移植不可』となっている」と指摘している。

 興味深いのは樹高で、施設に近接する西側は平均22.3mなのに対し、東側は22.9mと高くなっている。これは、東側のイチョウ並木はさらにその東側に植林帯があるためと思われる。

イチヨウ並木の東側 保存289本 移植2本 伐採38本 合計329本

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 このエリアは保存される樹木が圧倒的に多い。ほとんど再開発の影響を受けないようだ。

テニスコート北側 保存6本 移植35本 伐採105本 合計146本

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  テニスコート北.pdf

 保存されるのは樹高20mのメタセコイア、15、10mのクロマツなど6本のみ。伐採される67本のカイヅカイブキをはじめ105本はほとんどか移植不可と判定されている。しかし、秩父宮ラグビー場のカイヅカイブキ20本は移植可能として移植され、移植が難しい10本は伐採されるように、その基準は不明。写真はカイヅカイブキ

テニスコート場内 保存12本 移植8本 伐採52本 合計72本

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  テニスコート場内.pdf

 保存されるのは高木のイチョウ、マテバシイなど12本。伐採される52本のうち樹高15mのシイノキ3本を除いた樹木の樹高平均は3.8m。施設建設の支障木として伐採されるのもやむを得ないか。

野球場 保存134本 移植16本 伐採93本 合計247本

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  野球場一塁.pdf

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  野球場三塁.pdf

 野球場一塁側と三塁側は、一塁側は176本のうち保存は99本、移植は14本、伐採は63本。三塁側は67本のうち保存は35本、移植は2本、伐採は30本。ここでもカイヅカイブキが17本保存される一方で、41本が伐採される。「移植不可」と判定された樹木も多く保存されることになっているなど保存・移植・伐採の基準はまったく分からない。

 整備後は約1.5haの中央広場など新たな植林地となる。

第二球場 保存14本 移植46本 伐採60本 合計120本

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 整備後は新ラグビー場となる第二球場は、樹高が10m超のシイノキ8本など14本が保存されるほか、樹高16mのヒマラヤシダー5本、樹高10m以上のケヤキ12本など60本が伐採される。樹高が3mのモクセイは16本が移植され、移植が難しい5本は伐採される。写真は新ラグビー場完成予想図

建国記念文庫 保存58本 移植50本 伐採41本 合計149本

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  建国記念.pdf

 既存樹120本のうち保存は58本、移植は50本、伐採は41本。貴重樹とされるヒトツバダコ34本のうち5本は伐採される。このほかヤマザクラ12本全て、シイノキ21本のうち11本がそれぞれ伐採される。

軟式野球場 保存381本 移植81本 伐採260本 合計722本

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  軟式西側.pdf

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  軟式野球東側.pdf

 過去35年間に年間6回、少なくとも200回はRBA野球大会の取材で訪れている〝軟式野球の聖地〟が芝生広場やテニスコート場、駐車場に変わるのは何とも残念だが、これも時代の流れか。伐採樹木は260本に上る。

伊藤忠通り 保存0本 移植0本 伐採149本 合計149本

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  伊藤忠.pdf

 伊藤忠商事ビルのエリアは、149本すべてが伐採される。この中にはほとんど樹高10m以上のクスノキ24本も含まれる。その他の樹木の樹高平均は6.5m。

 ビルは地区計画変更により地区面積1.6ha、容積率1,150%、高さ190mのビルに建て替えられるが、都市計画公園外となる。

◇        ◆     ◇

 事業者のPDFによる全木調査データをエクセルに変換し、ようやく記事にまとめることができた。通算すると約2週間、時間にして50時間以上かけた。正確を期すため何度も集計のやり直しを行ったが、間違いもまだかなりあるような気がする。樹木にも読者の皆さんにも謝るほかない。

 樹木は生き物だし、向こう10年もかかるプロジェクトだ。全木調査はエクセルでも公表し、日本イコモスも要求しているように最新のデータを更新すべきだ。そうすれば素人でもいろいろな角度で分析することができる。

 評価したいこともある。事業者は、昨年7月から昨年末までQ&Aの形で375件の質問を受け付け(意見は92件)、一つひとつ答えてきた。月を経るごとに質問、意見は減少している。全て出尽くした感を受ける。

 そこで事業者に提案だ。記者は基本的には再開発に賛成だ。日本イコモスなどが「虚偽の報告」と批判している部分すべてに同意しているわけではない。みどり率を25%から30%へ、オープンスペースは21%から44%へ、樹木は既存の1904本から1998本に増加することを評価したい。

 事業者が公表している伐採予定の556本(全木調査には反映されていない)のうち、伊藤忠の149本、新しい球場やラグビー場建設のために〝支障木〟として伐採せざるを得ない樹木、さらにはみどり環境にそれほど影響を及ぼさない低中木を除けば、樹齢100年超の巨木は200本くらいではないか。

 その大半は軟式野球場に存在する。外周部の巨木はそのまま残し、駐車場とテニスコートを地下にしてはどうか。そうすれば雨が降ろうが雪が降ろうがヤリが降ろうが全天候型だ。グラウンド部分を芝生張りの広場にするのも結構だが、お金持ちが楽しそうにテニスをしているのを横目に眺めるしかない庶民の感情を考えて頂きたい。広いだけの広場は誰も利用しないという調査報告書を読んだことがある。

 施設の地下化の好例もある。三井不動産レジデンシャルの「パークシティ浜田山」も「HARUMI FLAG」も駐車場を地下化した。地上は緑で溢れている。「浜田山」や「HARUMI FLAG」のようになることを〝見える化〟〝見せる化〟の取り組みが必要だ。やろうと思えば容易なはずだ。

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絵画館のヒマラヤシダー

 

 

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