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2024/03/10(日) 08:49

嘘が嘘でなくなる狂った世界赤裸々に表現 下板橋「カフェ百日紅」3月末で閉店へ

投稿者:  牧田司

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「カフェ百日紅」

 午後3時過ぎ、阪急阪神不動産「ジオ板橋大山」のモデルルーム見学取材の帰りだった。場所は東武東上線下板橋駅近く。一服しようと飲食店などを探したが見つからず、地元の人に聞いてやっと「カフェ百日紅」にたどり着いた。「タバコを吸いたいのですが…」と声を掛けたら、店主と思しき和服姿の女性が「どうぞ。ワンドリンクの注文をお願いしますが」と承諾してくれた。小さなテーブルが4脚、満席でも6人くらいしか入れない5坪くらいの店だ。

 勧められた椅子に座ろうとしたら、だしぬけに壁全面に貼られた毛筆書きの「失禁」「終夜」「昏睡」「降臨」「白夜の天使」「異食」「吐き気」「夢幻」「騎虎」…おどろおどろしいカードが目に飛び込んできた。1枚660円の値も付いていた。

 小生は最近、難しい漢字を覚えようと「魑魅魍魎」「憂鬱」「跳梁跋扈」「顰蹙」「躊躇」「慇懃」「饒舌」「暗澹」「韜晦」「畢竟」「朦朧」「麤」「甕」「龜」「竈」「麒麟」「鼠」「孑孑」「檸檬」「躑躅」「玉蜀黍」「蒟蒻」などをノートに書き出しているのだが、さすがに「失禁」「吐き気」「異食」にはどきりとした。〝また来ますと〟一瞬考えたが、たばこの誘惑が勝った。

 ビールを頼もうとしたら、ビールはなし。メニュー表にあったウイスキーのロックを一杯注文した。「モンキーショルダーMonkey Shoulder」だった。700円。記者は以前、「バランタイン BALLANTINE」を4日に1本空けていたが、このスコッチも苦みが強くとても美味しい。

 一服吸い、店内を眺めた。壁、棚、床の至る所にカードや装飾品、小物、写真などが展示されており、本棚には聞いたことがない作家の小説、漫画、R指定のエロ本(失礼)が並べられており、自由に読めるようになっていた。いま20年ぶりに読んでいる小説「存在に耐えられない軽さ」(集英社文庫)と同じ、訳の分からない世界が広がっていた。

 物は試しだ。「白夜の天使」のような読みたい本はないか探したら、帚木蓬生「アフリカの瞳」(講談社、2004年刊)と「インターセックス」(集英社、2008年刊)が床の箱に無造作に置かれていた。値段は発刊当時のまま、それぞれ1,900円。

 帚木氏は、昨年亡くなられた作家・加賀乙彦氏と同じ精神科医で好きな作家の一人だが、最近作は読んでおらず、安かったら購入しようと聞いたら、「いいえ、この箱に入っている本はお好きな方に差し上げています」とのことだった。これ幸いと頂くことにした。ただでは申し訳ないので、もう1杯ウイスキーを頼み、タイトルと帯に惹かれて「作家逃亡飯」(星海社、2020年刊)も頂くことにしたので、さらにもう1杯。〆て3杯2,100円(お勘定したら割り引いてもらった)。Amazonと比べればはるかに安い。

 記事化することを申し入れたら、「結構ですが、店は3月いっぱいで閉めます。母の看病がありまして…」とのことで、3月7日(木)~3月25日(日)まで「百日紅夜市」と題するフィナーレ―イベントを行っている。多くの作家の作品が展示されるようだ。

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◇        ◆     ◇

 「作家逃亡飯」は、フライさんによるイラスト漫画が表紙で、歌番組に登場するような若い女性が描かれており、赤と黒の帯には白抜き文字で「星海社激怒。『こんな同人誌許さん!商業化してやる!』と挑発的な文字が踊り、前書きのあとのカルロ・ゼン著「作家軽飯」冒頭には「お願いごと 端的に結論から参りましょう。編集者並びに出版社の皆様、お読みになるのは此処までにしましょう。皆様がこの拙い同人誌から得られる情報に有益なものなど何一つありません」「煮詰まったルサンチマン、どうしようもない退廃、怠惰の極みである本著なぞ賢明にして聡明なる方々へどうしてご覧いただく必要があるでしょうか」「一般の皆様、このように拙い代物であることをご承知おきくださいませ。万が一にも編集者の方々に内容を問われた場合は、『読むだけ時間の無駄だと思います』と強く仰ってください」(15~16ページ)とある。そして、津田彷徨氏のあとがきには「太田が悪い。」と締めくくっている。太田とは、出版した星海社の太田克史氏のことのようだ。

 強烈なブラックユーモア、アイロニーではあるが、最近の出版界の凋落ぶりを見ると、嘘を書くのが商売のお二人の作家は〝本当〟のことを言っているのではないかと思えてくる。

 現実社会が狂っているからだ。〝ナチからの解放〟のために他国を侵略し、庶民が払う税金の10倍以上の金を受け取りながら、基本中の基本である「CAT=Compliance(コンプライアンス)・Accountability(アカウンタビリティ)・Traceability(トレーサビリティ)」を果たさない政治家がおり、その政治家に投票する愚民(投票行動を起こさない小生はクズ同然か)が多数派を占めているではないか。「存在に耐えられない軽さ」を読んでいるのは、1968年のソ連軍によるチェコスロヴァキア侵攻が舞台になっているからだ。

 嘘が嘘でなくなり、虚と実があいまいになり、白と黒の垣根も取り払われ、生と死の意味も分からなくなる-生きづらい世の中になってきた。

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