RBA OFFICIAL
 
2022/11/27(日) 22:43

「まちづくりGX」は都市局のメイン事業になるか 国土交通省の会合を傍聴して

投稿者:  牧田司

IMG_4988.jpg
21回都市計画基本問題小委員会(国土交通省 合同庁舎3号館)

国土交通省は1125日、第21回都市計画基本問題小委員会を開催し、まちづくりのグリーン化について議論した。

政府は今年6月、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」を発表し、新しい資本主義に向けた計画的な重点投資として①人への投資と分配②科学技術・イノベーションへの重点的投資スタートアップの起業加速及びオープンイノベーションの推進GXGreen Transformation=グリーン・トランスフォーメーション)及びDXDigital Transformation=デジタル・トランスフォーメーション)への投資-の4つを掲げ、では今後10年間に官民協調で150兆円規模のGX投資を実現すると謳っている。政府は7月、首相を議長とする「GX推進会議」を設置し、国土交通省も9月、斉藤鉄夫国交相を本部長とする「国土交通省グリーン社会実現推進本部」を設立している。

今回の小委員会はこのような経緯を経て開催されたもの。会合を振り返って同省都市局都市計画課課長・鈴木章一郎氏は「これまで緑に関する取り組みは制度設計も含めて弱かったのではないかという反省があり、世の中の価値観が変わってきたのを受け、なるべく多くのプレーヤーの方に参加していただこうというのが今回のテーマの底にあった。委員の方々から多くの示唆を頂いた。携帯の話も頂いたように、緑が多機能であるがゆえに、緑の定義を含めてわれわれの頭も整理しないといけないと痛感した」と総括した。

GXは、脱炭素社会を目指す文脈からすれば、Green (グリーン)=緑ではなく、多義的な意味を持つ。都市計画の観点から具体的にどのようなGXの取り組みを行うかが大きなテーマになっている。

        ◆     ◇

オンラインも可能だったが、リアルで傍聴した。同省から配布された資料は55頁もあり、日本政策投資銀行の「ESG投資・インパクト投資の潮流と評価について」(10頁)と参考資料「13頁」合わせると78頁にもわたる膨大なものだった。資料冒頭に都市緑地のグリーンインフラとして23の機能(効果)が記載されていた。「緑の価値」が余すところなくフォローされていると思った。GXのテキストになるはずだ。

これらの機能(効果)については誰もが認めるところだが、現実はどうかというと、緑被率(みどり率)は年々下がり、生物多様性は喪失されつつあり、都市農業は生活の糧として成り立たなくなり、森林・林業は危機に瀕している。

これを劇的に転換するにはどうしたらいいのかが今回の「まちづくりGX」のテーマだ。論点は①都市の緑地の確保や向上を図るための民間資金導入の可能性について②森林への都市の貢献のあり方について③市街地整備と一体となったエネルギーの面的利用について④自治体における「まちづくりGX」の位置づけについて-の4項目。

黒澤幸太郎・専門委員(むつ市都市整備部都市計画課長)は「『まちづくりGX』は市民に説明しやすい。国土交通省都市局のメインの事業になる」とエールを送ったが、記者は④の自治体の「まちづくりGX」に対する認識の薄さが大きな壁になると感じた。村木美貴委員(千葉大学大学院工学研究院教授)も「(何かは聞き取れなかったが)日本は欧州と比べ2周くらい(地球規模なのか400mのトラックか)遅れている。〝見える化〟と言われても、見に行かないと見えないではないか」と指摘した。

配布資料もそのことを裏付けている。例えば、都市計画区域設定を行っている自治体(n1,375)に対する国土交通省が行ったアンケート調査。2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みについて自治体に聞いたところ、「目標なし」は66%にのぼっている。

また、市町村マスタープランにおける緑地保全・緑化推進の位置づけの設問でも、立地適正化計画で「位置づけなし」が5770にのぼり、緑の基本計画に立地適正化計画に係る記載がある市町村は5.2%(36692)にしか過ぎない。

記者も、これまで都市公園や街路樹、緑被率(みどり率)などについて取材してきた限りでは、首都圏自治体のこの種の取り組みは全然進んでいないどころか「緑の価値」について全く認識していないと思わざるを得ない。都市公園がどのように利用されているか実態を把握しておらず、どこにどのような樹種の街路樹が植えられているかも答えられず、墓標のように強剪定されることに何の痛痒も感じていない担当者が多すぎる。千代田区は、健全な街路樹を「枯損木」(「枯損木」の言葉すら知らない職員も多い)として処分を決定した。

国土交通省がいくら旗振りしても、自治体が積極的に取り組まないと前に進まない。絵に描いた餅だ。どなたかの委員が「自治体頑張れ」と叱咤激励した。(記者は、同省が令和2年に立ち上げた、個人参加資格も含めた多様な主体の参画による「グリーンインフラ官民連携プラットホーム」に期待している)

中川雅之・臨時委員(日本大学経済学部教授)もこのあたりの現状を踏まえてか、「テーマが多岐にわたり一般的すぎる。都市計画決定部局として具体的にどうすればいいか論点を整理すべき。森林への貢献と言われても都市と森林の関係性を明らかにしないと論議は進まない」と指摘した。

さらに、横張真・臨時委員(東京大学大学院工学系研究科教授)も一口にグリーンと言っても文脈は様々。多様な概念をきちんと整理しないといけない。『まちづくりGX』も、個別の役割や機能の高度化ばかりを追求するのでなく、携帯情報端末のようにオールインワンであることの特性を伸ばすよう、その施策のあり方にかかわる発想の転換が必要」話した。

        ◆     ◇

 記者は、この種の会合で決まって海外との比較が論じられるのに辟易している。外国は中国とモンゴルしか知らないし、日本語しか話せないので劣等意識もあるのだが、わが国のあらゆる社会・経済指標は先進国の中で最低レベルだと指摘されると、それがどうしたと言いたくなる。

だが、しかし、政府のGX・DXに関する資料の中に「米国市場の企業価値評価においては、無形資産(人的資本や知的財産資本の量や質、ビジネスモデル、将来の競争力に対する期待等)に対する評価が大宗を占める。日本市場では、依然として有形資産に対する評価の比率が高く、企業から株式市場に対して、人的資本など非財務情報を見える化する意義が大きい」とあったのには〝ガラパゴス〟と揶揄されても仕方ないと思った。村木委員の手厳しい批判も心地よく響いた。

村木氏のほかにも「GXの見える化」が遅れているという指摘が相次いだ。「ESG投資・インパクト投資の潮流と評価について」話した日本政策投資銀行ストラクチャートファイナンス部・井栄階一氏も「私見」としながら「ESG投資家は定量的かつ客観的な評価を重視する」とし、わが国にはそれが欠けていると指摘した。

このことと関連する例を一つ。欧米では樹木などのグリーンの価値をを定量的に計る「i-Tree」が定着しているようだが、わが国は一部の研究家でしか流通していない。鈴木都市計画課長が「緑が多機能であるがゆえに、われわれの頭も整理しないといけないと痛感した」と話したように、数えきれないほどあるグリーン・みどりの価値を誰もが分かる定量的な指標で示さないといけない。

        ◆     ◇

 斉藤大臣と幹部の方にお願いが一つある。小生は、扇千景氏が国交大臣に就任したとき、希望していた文部大臣などではなかったことから「冷や飯を食わされた」と語ったのに腹を立て、就任記者会見の会場で「冷や飯とはどういう意味か」と詰め寄ったことがある。今でも国交省と職員を冒涜するものであり、即辞任に値する暴言だと思っている。

 その点、国交大臣を務められた齊藤氏の先輩、公明党の冬柴鐵三氏は立派だった。退任するとき国交省の職員を「わが国のシンクタンク」と称えた。

 前書きが長くなった。何を言いたいかといえば、そんな優秀なシンクタンクが働きやすいよう国交省の本館である合同庁舎3号館に喫煙所を復活していただきたいということだ。

 隣接する2号館の駐車場わきに喫煙所はあるのだが、3号館から喫煙所までは往復で68分かかる。喫煙時間を34分とすると10分以上だ。16回利用すると1時間を超える。これは職員にとっても国交省にとっても大きな損失だ(喫煙中に名案が浮かぶこともあるが)。

 いったい、どれくらいの損失か計ってみた。写真を見ていただきたい。左は25日の会合が始まる午後5時前の灰皿だ。目視したところ吸い殻は40本くらいか。水に沈んで見えない層もあるはずで、その数は少なく見積もっても80本はある。ちょうど灰皿の水を入れ替える時だった。作業している方に聞いたらほぼ2時間置きで1日4回だという。

 右の写真は、取材を終え帰るときの午後7時過ぎだ。やはり同じくらいの吸い殻が捨てられていた。

 そこで計算した。灰皿は全部で8つ。2時間ごと4回掃除すると80×8×4=2,560本だ。これを労働時間に置き換えると2,560本×10分÷60分=427時間だ。職員の労働時間を8時間とすると、実に427÷853人分だ。一人年間200日働くとすると53×20010,600人分(来庁者含む)の貴重な時間と莫大な金額が浪費される計算だ。これに、タバコが吸えないことによるストレスをお金に換算したら…これも〝見える化〟していただきたい。

IMG_4982.jpg IMG_5006.jpg
17時前の吸い殻(左)と19時過ぎの吸い殻(合同庁舎2号館で)

健全な街路樹を「枯損木」として処分 問われる住民自治 千代田区の住民訴訟(2022/11/12)

 


 

 

 

rbay_ayumi.gif

 

ログイン

アカウントでログイン

ユーザ名 *
パスワード *
自動ログイン