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2022/11/12(土) 15:56

健全な街路樹を「枯損木」として処分 問われる住民自治 千代田区の住民訴訟

投稿者:  牧田司

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神田警察署通りⅡ期道路整備区域のイチョウ(左は「テラススクエア」の公開空地の樹木)今年5月撮影

 東京都千代田区が進めている「神田警察通り」の街路樹であるイチョウ並木の伐採工事の是非を問う住民訴訟の第1回口頭弁論が11月8日東京地裁であり、伐採工事の中止を求める住民ら原告3人は、「区は私たちと3回話し合いの機会を持ったと主張いているが、単なるアリバイ作りにしか思えない」「伐採決定は全くの寝耳に水。区には『住民の声』を聞くシステムや機能が働いていない」「区職員の虚偽の答弁に基づく議会決定は無効。誰のためのまちづくりか」とそれぞれ述べた。次回は2023年1月17日13:30から703号法廷で行われる。

 口頭弁論後、原告側は記者会見を行い、訴訟代理人弁護士・大城聡氏は「区の行ってきたことには重大な瑕疵がある。住民の声は反映されず、住民自治が無視されている。極めて前代未聞の事態」と区を批判。虚偽答弁によって議決された決議は無効、違法であり、健全なイチョウを「枯損木」として伐採するのは、地方自治法2条14項、地方財政法4条にも違反すると主張した。

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 最初に旗幟を明らかにしておく。記者は原告でも被告の側でもないが、街路樹の味方だ。まずは、20代の女性原告の口頭弁論の一部を紹介する。

 「『人中心のまちづくり』を謳っていながら、こうした地域住民を分断してまでなぜ木を伐らなくてはならないのでしょうか。街に『賑わい』さえあれば、住民間の溝が深まり続けても良いのでしょうか。なぜ区民が『まちづくり』に参画できないのでしょうか。私たちは道路拡張工事に反対しているのではなく、ただ一期工事でそうしたように、イチョウを残して道路整備をしてほしいだけです。なぜ立派な前例がありながら、同じような工事を使用としないのでしょうか。環境まちづくり部の職員には、いったい誰のためにまちづくりをしているのか今一度考えて頂きたいです」

 「今回の沿道整備にあたり、区は当初イチョウの木を保存した上で整備を進めるとしていました。しかし、ごく一部の地元住民とデベロッパーのみが参画している沿道整備推進協議会の中で一方的に当初の計画を変更し、伐採の意向を決めました。さらには、区自らがガイドラインに定めた意見公募や住民説明会などを一切行わず、計画の変更を区民に周知することはありませんでした。区議会に対しては虚偽の答弁を行うなどし、故に区議会はその誤った情報に基づき本件を議決しました。事業者である大林道路との工事請負契約書には、樹木診断結果に反し、二期区間のイチョウが『枯損木』と記載され、工事契約が締結されました」

 この原告の「誰のためのまちづくりか」との訴えには、日ごろ再開発事業などを取材している記者はドキッとしたのだが、大きな争点になりそうな「枯損木」について。

 「枯損木」であるかどうかは樹木医の診断を受けて決定するのが一般的で、千代田区も事前に診断を受け、健全であることを確認している。にもかかわらず、区の担当者は「枯損木」として住民に説明し、工事契約書に記載したことの是非が問われている。

 原告側は、不要な支出を禁じる地方自治法2条14項(地方公共団体は、その事務を処理するに当っては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない)、地方財政法4条(地方公共団体の経費は、その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない)を新たな盾として行政の不法行為を難じるようだ。

 この問題について、先の住民監査請求に対する監査結果は「契約書に添付された種別内訳書の『種別・細別・内訳』欄には、『枯損木』との記載があるが、これは東京都積算基準(道路編)の施工単価を適用したことからその施工単価名称(枯損木伐採工)を引用したものである。また、同じ契約書に添付された図面には『枯損木』とではなく『高木』と記載されており、本件街路樹が『枯損木』ではないという点については、本件工事契約の発注者である区と請負者である大林道路とが共通認識に立っていたものであって、本件工事契約に錯誤による瑕疵があったとはいえない」と住民の訴えを棄却している。

 区の担当者は「神田警察通り沿道整備推進協議会」で「枯損木」と説明し、その後「枯損木」でないことを認めている。工事業者との契約では「高木」としているから瑕疵はないと主張している。

 イチョウの立場からすると、これは都合のいいように言葉を使い分ける二枚舌、三枚舌といわざるを得ない。監査委員が「錯誤による瑕疵」はなかったというのを言い換えれば「確信犯による不法行為」だ。どうして「支障木」としなかったのか。これならまだ一理ある。

 健全な街路樹を「枯損木」として殺処分することはあるのかについて、東京都と「つくばの財産である街路樹を守り育てていく」と五十嵐立青市長が宣言しているつくば市にも聞いた。そのような事例は双方ともないということだった。千代田区のケースはやはり異例のようだ。

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 もう一つ、原告の「『神田警察通り沿道賑わいガイドライン』が街路樹伐採に都合のいいように改変され、区議会での虚偽答弁に使われた」という主張も大きな争点になりそうだ。この「ガイドライン」は法的根拠があるのかどうかという問題だ。

 区は、当初ガイドラインに盛り込まれていた「豊かに育った既存の街路樹を活用する(白山通りのプラタナス・共立女子前のイチョウなど)」の文言を、誤字脱字の訂正のように軽微な変更事項として課長権限で「など」を削除した。この是非が問われている。

 これも難しい問題だ。行政が定めるガイドラインには条例、その他の法令条項が明示され、行政や住民に対して命令・禁止する権限を有するものも少なくないと解されるが、今回の「ガイドライン」はそれに該当するのか。

 記者は、「等(など)」は法的に例外を設けない、すべてを捕捉する極めて行政側に都合のいい助詞だと思う。区が「など」を削除したのは、例外を認めないという強い意志が働いたからだと考える。これを原告らは突き崩すことができるか。

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もう一人の原告の口頭弁論を一部紹介する。

「私が疑問に思うのは、そもそも行政が区民の意見を聞いた、とする『神田警察通り沿道整備推進協議会』とはどういうものだったかという点です。沿道協議会は、13の町会長及び商店会や観光協会からの代表者、有識者2名、行政担当者など合計21名で構成され、その委員は千代田区長が任命(略)果たしてこの沿道協議会で了承したことが、『住民の総意』であったかどうかということです。(略)沿道協議会には『住民の声』を聞く十分なシステムや機能がなかったのではないかと思われます」

 任意団体である町内会会長が果たして住民代表になりうるかという問題だ。これも難しい問題だ。ただ、「協議会」は「沿道整備推進」と名付けられているように、沿道整備を推進するのが目的だ。だからこそ、区と区の別動隊である都市再生機構が樹種の変更の必要性を訴え、住民アンケートも街路樹伐採を誘導するような中身になっている。

 一連の「協議会」の議事録などを読む限り、町内会は上意下達の区の下請け機関になり下がっていと言わざるを得ない。街路樹伐採に賛成の人だって、都合のいいように利用され、利用価値がなくなると「枯損木」「支障木」としてごみのように捨てられる可能性もあるといったら失礼か。ある原告は「街路樹伐採に反対する人と賛成する人に分断されたという意味では双方とも被害者。加害者は千代田区」と話した。これは本質をついている。

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 馬鹿馬鹿しくて書く気にもならないのだが、イチョウ(果実)が臭いとか、落ち葉が排水溝を防ぐとかの意見について。

 確かにイチョウの実は悪臭を放つ。しかし、イチョウを含めた街路樹の果たしている役割をもう一度冷静になって考えて頂きたい。「臭い」というのであれば、もっとも「臭い」のはわれわれ人間ではないか。小生は今でも恥じているのだが、かつてわれわれ日本人は「臭い」といってニンニク臭のする人を嫌悪、排除した。「臭い」「汚い」「醜い」などはむやみやたらに用いるべきではない。人は死ねばみんな死臭を放つではないか。

 落ち葉の処理に困るというが、サクラの花と同様、イチョウほど散り際が見事な落葉樹はそうない。受忍責任について考えて頂きたい。

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 神田警察通りの賑わい創出について。

 記者は前途多難だと思う。この通り面する施設を西から東に向かって列挙すると、共立女子学園・防災センター・学術センター-学士會館・興和一橋ビル-テラススクエア・神田税務署・神田警察署-錦町トラッドスクエア-寿ビル・正則学園・錦城学園-神田スクエア・竹橋スクエア-島津製作所などだ(千代田通りまで)。

 これらのうち、総合設計制度などの適用を受けて道路側に公開空地を設けているのはテラススクエア、錦町トラッドスクエア、神田スクエアくらいだ。あとは、総合設計制度ができる前だろうからやむを得ない部分もあるが、ほとんどが道路と街に背を向け、敷地いっぱいに建物を建てている。賑わいを生み出す飲食・商店も少ない。ヨウコウザクラを植えても賑わうのはほんの1~2週間だ。桜が散れば閑古鳥が鳴くのではないか。

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 長くなるのでもうやめるが、最後に沿道協議会で発言された住民の声を紹介する。

 「私は、祖父が明治34年に、この地に製函業をはじめまして、それから、震災、戦火を免れまして、ずっとここに住んでおります。私が生まれまして、80年弱になりますが、私はこの木とともに、生活してきたと思っております…皆さん、どんなにこの木に思いを込めて頑張って復興なさったんだろうなって、そういう思いが近頃すごく思うんです。それを、それだけ見守ってくれたイチョウを、じゃあ邪魔だから、いらないからって伐るのはとってもいたましいと思います…あんなに今までの歴史を見守ってくれた木々を、このまちの歴史がなくなってしまうんじゃないかと、ものすごくそれが悲しいです。だから皆さんいろいろ、思いはおありだと思いますけれど、ともかく、その木のためにでも、少しでも議論を重ねて、何か妥協点を見出していけたらなって思います」

 「我々は、いつも日陰にいる者ですから、いつも思うことは(イチョウを)残していただきたいなと思っているだけです」(車椅子利用者)

 記者はこの「我々は、いつも日陰にいる者」の言葉に肺腑をえぐられた。と同時に、今回の裁判では「雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋ラズ イツモシヅカニワラッテヰル」(青空文庫)、そして〝伐れ、伐るな〟の罵詈雑言にも泰然として聞き流す物言わぬ街路樹の尊厳が認められるかどうかだと思っている。

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色づくことも許されず6mくらいで強剪定されているケヤキ(久喜市・南栗橋駅近くで)

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狂っているのは人間か 〝手足〟をもぎ取られ発狂しそうなケヤキ(同上)

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