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2023/07/04(火) 21:04

問題山積 要配慮者の居住支援 大家の安心、安否確認、支援法人などテーマ

投稿者:  牧田司

厚生労働省、国土交通省、法務省による第1回「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」(座長:大月敏雄・東京大学大学院工学系研究科教授)が73日行われた。

検討会は、①住宅確保要配慮者のニーズに対応した住宅を確保しやすくする方策住宅確保要配慮者が円滑に入居でき、かつ適切な支援につなげるための方策入居後の生活支援まで含めた、住宅確保要配慮者に対する居住支援機能のあり方大家等が安心して貸せる環境整備のあり方-を検討するのが目的で、今後4度の会合を開き、今年秋ごろを目途に中間とりまとめ(案)として発表する予定だ。会合で各委員がそれぞれ4分間意見を述べた。以下、発言順に紹介する。

井上由起子氏(日本社会事業大学専門職大学院教授)大家が安心して貸せる市場、入居者の連絡先、安否確認、入居後の居住支援など福祉サービス、セーフティネット制度の仕切り直しが必要

常森裕介氏(東京経済大学現代法学部准教授)要配慮のニーズは多様化している。生活と住まいを一体として支援していくため、法が求めている目的に照らし合せ、居住支援法人や利用者の状況などの情報を開示する必要がある

中川雅之氏(日本大学経済学部教授)欠席

三浦研氏(京都大学大学院工学研究科教授)協議会、居住支援団体・法人の半分が赤字、ボランティアを強いられている。きちんと財源を確保し、緊急時には公営住宅を活用できるようにすべき

矢田尚子氏(日本大学法学部准教授)大家が安心して貸せる市場は確立されているのか。死後の残置処理など新たな制度も必要

奥田知志氏(全国居住支援法人協議会共同代表副会長)住宅のハコとソフトを一体化するため、各省庁が連携して横櫛を入れ、プレーヤーが赤字を出さなくても済むようなビジネスモデルの構築に期待したい

早野木の美氏(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会主任研究員)消費者センターでは2,200名のスタッフが対応しているが、消費者の相談ごとをどこに紹介していいか分からない。600か所ある相談窓口とうまく連携できないか

荻野政男氏(日本賃貸住宅管理協会常務理事)外国人の居住支援を中心に研究してきたが、最近は高齢者の居住支援にも力を入れている。エリアマネジメント手法の導入、家賃債務保証制度の確立も必要

岡田日出則氏(全国宅地建物取引業協会連合会理事)当協会は会員10万超を擁するが、要配慮者の情報が不足しており、共同生活になじめるかも不明。居住支援法人の赤字は限界

三好修氏(全国居住支援法人協議会共同代表副会長、全国賃貸住宅経営者協会連合会前会長)オーナーは高齢化しており、お金を掛けなくて貸したいという意向が強い。そのため、高齢者や外国人に貸すことに躊躇する。生活保護費プラスアルファの支援の仕組みが必要

出口賢道氏(全日本不動産協会常務理事)川崎市で死後1か月以上経過した高齢者の死亡事例があった。処理するのに50万円。どうしたらいいか、頭を抱えている

金井正人氏(全国社会福祉協議会常務理事)コロナ禍の特例貸付額15,000億円のお金を配るのに精いっぱい。要配慮制度は大きな絵を描いて進めるべき。国の予算(国土交通省のセーフティネット住宅支援など約135億円、厚労省の生活困窮者自立支援など744億円)は適切か

稲葉保氏(全国更生保護法人連盟事務局長)刑務所出所者は大家に拒否されがちで、居住場所を確保するのに苦慮している

林星一氏(座間市福祉部参事兼福祉事務所長兼地域福祉課長)様々な給付金事業と生活支援事業の連携を図ることが必要

加藤高弘氏(名古屋市住宅都市局住宅部長)セーフティネット住宅制度の〝見える化〟が欠かせない。環境整備が必要

各氏の意見を受け、大月氏は「皆さんのご意見は広範囲にわたり、どれもが極めて重要で、ゆるがせにできない問題ばかり。しっかり精査したい」と述べた。

        ◆     ◇

 201710月に住宅セーフティネット制度がスタートして約5年。記者は5年間を総括して制度設計は適切であったか、問題点、課題はどこにあるかなどが論じられものと期待していた。前段で各委員の意見を紹介したように、また、大月座長も「どれもが極めて重要」と語ったように問題は山積していることが分かった。

 しかし、率直な感想を述べれば期待外れ。セーフティネット登録住宅は確実に増加しているものの、公表されているのはマクロデータのみで、詳細なデータは示されておらず、居住者の属性は杳としてしれない。

 国土交通省の資料によれば、セーフティネット登録住宅の住戸の床面積は30㎡未満が7%あり、50㎡未満は58.2%、60㎡未満は実に92.2%に達している。居住人数は不明だが、国が定める最低居住水準、誘導居住水準を確保しているのかどうかを知りたい。

家賃については、5万円未満住宅が全国では19%、東京都では1%とあるのみだ。家賃と広さは切り離せない。せめて坪賃料くらい示してほしい。

建て方についても、戸建ては0.1%しかなく、ほとんどが共同住宅なのはなぜかもその理由を知りたい。

86万戸の登録住宅の空室率は2.3%というのは信じられない数字だ。登録住宅の詳細なデータはないので想像するほかないのだが、市場競争力のない遠隔物件、老朽化した質の劣る木造アパートの比率は高いはずで、にもかかわらず空室率が低いのは、要配慮者のニーズがそれほど高いのか、それとも〝近傍同種家賃〟のお陰、家賃補助(生活保護世帯などは支給額から天引きされているはずだから、結局は大家保護)があるためか。憲法が保障する「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」とどう整合するのか。

このような本質に迫る論議を期待したいのだが、流れからしたら今後の会合でもこれらについて丁々発止の論戦が展開されそうもない。「大家の安心」「安否確認」「残置処理」などか中心になるのではないか。

最後に、摂南大学現代社会学部教授・平山洋介氏の著「『仮住まい』と戦後日本」(青土社、2020年刊)の一文を紹介する。

「生活困窮者の住む場所の確保に関し、政府および自治体は、民間セクターに依存し、公的資金の使用を抑えようとする。このため、住宅・施設の建物の状態を改善・維持するために、行政が用いる手法は、もっぱら規制になる。ここから生じるのは、規制を緩めると、住宅・施設が劣化し、規制を強めると、住宅・施設の維持に必要なコストが増え、困窮者の住む場所を保全できないという矛盾である。そして、行政それ自体が、生活困窮者の受け入れ先として、制度上の定義が明確とはいえない、民間セクターのローコストかつ劣悪な住宅・施設を利用してきた点に注意する必要がある」(330ページ)

 セーフティネット住宅 登録件数が激増 制度の前進と受け止めていいのか(2023/6/29

 

 

 

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