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2023/12/10(日) 21:02

樹木を避けて再開発は可能のはず 「神宮外苑地区まちづくり」をまたまた問う

投稿者:  牧田司

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神宮外苑軟式野球場(11月3日写す) 

 これまで、「神宮外苑地区まちづくり」について機会あるごとに記事にしてきた。今回は暇に飽かせて、事業者が公表している膨大な「既存樹木調査データ」に依拠しながら言い足りなかったことを書き記すことにした。

 既存樹木調査データは85ページにもわたるPDFデータで(どうしてExcelデータとしても利用できるようにしないのか)、再開発エリアのA~Cエリア(秩父宮ラグビー場~銀杏並木東)509本、野球場三塁側83本、野球場一塁側288本、第二球場147本、テニス場北コート167本、テニス場室内コート・御台場西143本、建国記念文庫162本、伊藤忠ビル周り150本、軟式野球場西側445本、軟式野球場東側281本の合計2,375本の既存樹木がそれぞれ連番、樹種名、樹高、幹周、葉張や樹形・樹勢・大枝幹の欠損・傷・枝伸長量・梢端の枯損・枝葉の密度・平均評点・評価結果(AからDまで4段階)などの活力度、保存の必要性、移植の可否、備考(外観からの特徴や特筆すべき点)が記載されており、保存、移植、伐採の判断が下されている。

 これらの樹木のうち伐採されるのは743本で、内訳は建国記念文庫の森周辺41本、第二球場周辺54本、神宮球場周辺98本、ラグビー場周辺50本、絵画館前187本、いちょう並木周辺等7本、テニス場周辺157本、伊藤忠商事東京本社ビル149本となっている。

 伊藤忠ビル周りには樹高10m超、幹周150㎝前後、葉張5mのクスノキのほかマテバシイ、シラカシ、ヤマモモなど常緑樹が多いのだが、全てが伐採される。備考には「ツリーサークル(直径2.5m)内に位置する。建物からツリーサークル縁までの離隔距離1.2m。根鉢確保と作業エリア確保が困難」「大枝(西側)が、切断されている。樹冠上部が、1階部分のネットに接触し、損傷あり。地下の植栽帯に位置する。擁壁が、幹芯から1.7mの距離にある」「小枝に、刈り込み剪定による、枯損が、多数あり」など記載されている。

 こんなことを書くと、再開発に反対する人からは袋叩きに遭うのだろうが、青山通りに面した事務所棟(敷地面積約13,170㎡、容積率1,150%、建物高さ190m)の樹木伐採はやむを得ないと記者は考えている。

 事務所棟は都市計画公園エリアではない。あらゆる開発行為がそうであるように、事業に支障をきたす「支障木」として伐採すると堂々といえばいいではないか。残す気などないのに「現在エリア内にある樹木は上記の調査結果や樹木医の見解をふまえ、事業者として保存・移植・伐採の別や移植難易度を判断しております」(事業者)などと思わせぶりな表現をするから誤解を招く。〝雨ニモマケズ 風ニモマケズ 雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ 慾ハナク 決シテ瞋(いか)ラズ イツモシヅカニワラッテヰル〟樹木に難癖をつけ、粗探しをしてどうする。樹木医にも失礼だ。

 それより、やはり問題なのは軟式野球場西側445本、軟式野球場東側281本、合計726本のうち187本の巨木を伐採する計画だ。

 事業者は「今回の計画で、今の時代に即した姿・形で創建当時の広場空間を復元し、『開かれた外苑』というものを継承して行くために、柵で囲まれた空間ではなく、神宮外苑を訪れる誰もが自由に往来できる広場を再整備する計画」としているが、ここにある樹木の多くは樹齢100年超のはずだ。「柵に囲まれた」などと利用者を動物園の禽獣扱いすることには断固反対するが、軟式野球場がなくなるのはやむを得ないと考えている。時代は変わった。

 しかし、伐採される187本の樹木は、これまでのRBA野球大会の取材を通じ何度も目にしている樹木だ。畏怖すら覚える巨木をなぜ伐採しなければならないのかの説明はされていない。

 既存樹木調査データからいくつか紹介する。軟式野球場西側の「つば九郎ハウ巣」の近くには現在、「活力度」Aの5本のユリノキが植わっている。このうち樹高18m、幹回24cm、葉張10mの樹木は「樹勢が良く、適度に剪定管理されている。根鉢ぎりぎりだが、場内移植であればチャレンジ移植は可能である」として移植可能としている一方で、このほかの樹高20m、幹周34.9cm、葉張12.0mの樹木は「根元周辺に構造物が多く、根鉢確保が困難である。幹芯から建物までの離隔距離1.5m、ブロック塀控え柱までの離隔距離1.1m、ブロック塀までの離隔距離2.5m」などとあり、理由を示さず伐採することになっている。

 また、同じ西側の現在はヤクルトスワローズの屋内練習場になっているところには22本の樹高9m、幹周10cm前後、葉張3m、「活力度」Bのヒマラヤシダーが植えられているが、全て伐採される。「備考」には「頂端部が、切断されている。刈り込み剪定による、片枝樹形(西側の中央部・下部の枝がない)であり、内部の小枝に枯れ枝が目立つ。建物が0.5m(西側)の距離にある。植桝内にある。 縁石の押し上げ(小)あり」とある(頂端部を切断したのは人間だ。ヒマラヤシダーに罪はない)。

 軟式野球場東側には樹高20m、葉張25mの「活力度」Bのイチョウがあるが、「根元に、コフキサルノコシカケの子実体あり。幹(南側)に、打音異常(小) H1.0m~2.0mあり。幹(東側)H2.1mに、開口空洞10×5×10/25あり。株立ちの幹分岐部が、全て入り皮である。大枝(南側)に、腐朽あり。露出根に、樹皮欠損あり。株立ちで、立派な樹である」とされているが、これもまた理由は示されずに伐採される。

 その隣には樹高14m、幹周170cm、葉張6mの2本のシラカシがあるが、これも「樹形に乱れがあり(樹幹傾斜、樹冠に偏り、下枝が高い)、大枝に開口空洞・腐朽あり、移植樹として不適である」として伐採される。

 一方で、このシラカシの隣には樹高18m、幹周158cm、葉張7mのムクノキがあるが、「幹(南側)H6.0mに、開口空洞50×10あり。他に開口空洞が2箇所あり。幹に大枝枯損あり。露出根の切断部に、樹皮欠損あり。過去に、ぶつ切り剪定されている。下枝が高い」とあるものの保存されるようだ。

 みなさん、いかがか。事程左様に樹木に敬意を払っているようで、その実、刺身のつま扱いだ。樹木診断と再開発計画は何の関連もない。

 話は横道にそれるが、同じような事例がある。千代田区の神田警察通りの街路樹であるイチョウ30本が伐採されることになっているが(うち数本は伐採された)、千代田区は樹木医の診断ではほとんどが健全木であるにも関わらず、道路整備事業では「枯損木」として死刑に処することを決めた。

 この神宮外苑や千代田区の事例に学んだのか、東京都は同じ轍を踏まないことにしたのか、「バリアフリー日比谷公園プロジェクト」では「整備工事は樹木を避けて実施する」ことを打ち出した。神宮外苑でも樹木を避けて整備することは可能だと思う。創建時は西洋庭園だったというではないか。直線的でシンメトリックな公園も美しいが、アシンメトリックな曲がりくねったわが国の伝統的な広場のほうがずっといいと記者は思う。

 まだ時間はある。〝絵画館前広場は樹木を避けて整備する〟と打ち出していただきたい。三井不動産の街づくりはたくさん見学取材している。他のデベロッパーに勝るとも劣らない。依怙地を張らないで、都民の声に耳を傾けてほしい。

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