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2023/12/28(木) 10:51

パークシステムの復活はあるか 都市再生は可能か 「川」を考える

投稿者:  牧田司

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玉川上水

 今年はわが西武ライオンズの山川選手に翻弄された1年でもあった。チームは5位に終わったが、過去のことは忘れよう。来季に期待しよう。悪夢を断ち切るためにも、単純にして明快な真理-それなしには生きられない山と川、とくに「川」について考えてみた。

◇        ◆     ◇

 国土交通省が特に重要と定め指定するわが国の一級水系は109水系、一級河川は14,079本、都道府県知事が指定する二級水系は2,713本、二級河川は7,029本、市町村が指定する準用河川は14,314本となっている。全国に一級水系がないのは沖縄県のみで、政令指定都市で一級河川がないのは福岡市のみであることから分かるように、ほとんどの都市は河川流域に存在する。

 川は、安全に水を海に運び(治水)、飲料水をはじめ農林水産、工業などあらゆる産業を支え(利水)、親水・公園・リクレーションなどわれわれの生活を潤し、生物多様性にも大きな役割を果たしている。小説や音楽などの舞台になり、絵画、写真などの題材にもなる。

 記者は、かつてはアユやハヤ、カニなどが面白いように獲れた、現在でももっともきれいな川の一つとして知られる三重県の宮川・一ノ瀬川流域で生まれ育った。まずまず人間らしい生き方をしてきたのも、その豊かな自然環境のお陰だと思っている。

 成人してからも、マンションや分譲戸建てなどの取材を通じてかなりの川を紹介してきた。「川」のワードで過去10年間の記事を検索すると、東京都だけで多摩川の40件を筆頭に、仙川24件、日本橋川24件、玉川上水23件、神田川18件、国分寺崖線18件、石神井川11件、隅田川10件、目黒川8件、荒川5件、渋谷川4件などがヒットする。川が分譲住宅などの販売促進の役割を果たしていることが分かる。

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六郷用水

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 皆さんは「渋谷駅南方から天現寺橋までの2.4kmを流れる二級河川。渋谷ストリーム北辺の『稲荷橋』地点を起点とし、広尾、麻布の台地下を流下して、芝公園の南側を通り、東京湾に注ぐ」(Wikipedia)渋谷川をご存じか。名前だけなら知っている人は多いだろうが、水源はどこか、どこに注ぐかを知っている人は少ないはずだ。記者は考えたこともなかった。

 知ったのはつい先日(12月17日)、千葉商科大学環境情報科学センター主催のシンポジウム「神宮外苑の歴史的文化的資産の価値を守る-イチョウ並木と100年の森-」だった。中央大学研究開発機構教授・石川幹子氏(イコモス日本国内委員会理事/東京大学名誉教授)は、渋谷川の水源は新宿御苑(高遠藩)・明治神宮内園(井伊家下屋敷)・明治神宮外苑(青山練兵場)の公園三部作と玉川上水の余水であると報告した。

 石川氏は共著「岩波講座 都市の再生を考える」(岩波書店、2005年刊)の第4章「公共空間としての公園・緑地」で、渋谷川について「消失した川、コンクリートで固められた貧弱な川からは、想像もつかないような巨大な緑地を水源林として有していることが分かる」(105ページ)とし、「水と緑の回廊」(渋谷川パークシステム)の再生シナリオを<新宿御苑地区><明治公園地区><原宿地区><代々木公園、宇田川地区><宮下公園地区><渋谷駅周辺><渋谷駅-恵比寿駅周辺><広尾病院、慶應幼稚舎、北里大学周辺><白金、麻布十番、三田小山町><麻布十番、赤羽橋、金杉橋、東京湾河口>の10の地区別に描き、「川は、失われたとはいえ、公共空間としての得がたい特質を保持している。この貴重な資産を軸に、断片的に存在する公共の緑地や、地区ごとのルールをつくることにより生み出されるささやかな緑地などを結び付けることにより、新しい公共空間を生み出していくことができる」(109ページ)と述べている。

 そして、「100年をかけて失ってきた都市の自然の回復には、100年のヴィジョンに裏打ちされた夢と、実現に向けての緻密な歩みが必要である。これからの公共空間は、公の空間という土地所有の呪縛から解放され、『多くの人びとの安全と生活の質の向上、さらには地球環境の持続的維持のため、複雑で零細な土地利用の中から、互いに分かち合いつつ生み出される集合体としての空間』という考え方に変容していかなければならない」(111~112ページ)と締めくくっている。

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渋谷川

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渋谷川

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 同著の第2章「都市再生の理念と公共性の概念の再構築にむけて」では、蓑原敬氏は「現代の日本社会の中で、都市、地域の再生を図るためには、日本の地域計画、都市計画を本来の姿に戻すことが不可欠である。また、住宅政策の根本的な見直し、住まい街づくり政策への転換が不可欠である。だが、都市計画を巡る日本社会の仕組みみの現状は、これを阻む構造になっている」(29ページ)と問題提起し、「口当たりのよい総論的な言説を繰り返し、各論への介入を不可避にする実態の変革を避けた表面的な表現だけを重ね、各論の段階では常に既往の制度の部分的な手直しでお茶を濁してしまい、総論で掲げた目標はいつの間にか消え失せているのが日本の行政構造の現実である。それが、この20年間、日本の都市が『非人間的、反社会的、そして自然破壊的な面が目立っている』ことに繋がっている」(33ページ)と指摘。「新たな、住まい街づくり政策の確立と国土計画法、都市計画法、建築基準法集団規定を一体化した、都市田園法と街並み計画法の策定が必要である」(56ページ)と説く。

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石神井川

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石神井川

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 石川氏が力説する「パークシステム」の復活はあるのか、蓑原氏がいう「本来の姿」を取り戻すことができるのか。

 記者などは、渋谷川や日本橋川を見るにつけ、建物は押しなべて川に背を向け、深い擁壁の底に沈み、流れているのかどうかも判別できない、黒い水面にブクブクと泡立つ不気味な光景に絶望するしかない。〝死の川〟そのものだと。

 「本来の姿」を取り戻す道のりも険しいと言わざるを得ない。千代田区の神田警察通りの道路整備計画、二番町地区地区計画、神宮外苑まちづくり計画に関する会合を傍聴したり審議会の議事録などを読んだりしたが、法的手続きに瑕疵がなければ、住民はもちろん議員や委員などの声はただ聞き置くだけの扱いを受けるのを嫌と言うほど知らされた。官僚主導は貫徹されている。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし」(方丈記)

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小松川親水

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玉川上水

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玉川上水

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日本橋川

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