報道では知っていたが、「渋谷川・古川の河川再生」事業により暗渠から姿を現した渋谷川を初めて見た。
きっかけは、小田急電鉄の素晴らしい「BONUS TRACK」を取材し、わが京王線もこのような線路跡地を活用したウォーカブルな街づくりを行ってほしいと記事に書いたところ、東急線沿線に住む同業の記者の方から東急東横線の線路跡を活用・再生した遊歩道があると連絡をもらったためだ。この記者の方にはお礼申し上げる。
早速、ネットで調べた。東京都のホームページには次のようにある。少し長いが引用する。
「渋谷川・古川は、渋谷区内の新渋谷橋~天現寺橋の2.4kmが渋谷川、港区内の天現寺~浜崎橋先の河口までの4.4kmが古川と呼ばれている二級河川」で、「かつては下流部では舟運が栄え、上流部は水車が見られるような田園の中ののどかな川であり、唱歌『春の小川』のモデルになるなど人々に親しまれた川でした。
しかし、早い時代から流域の都市化が進み、川沿いには家屋やビルが密集して建ち、川沿いを歩けず、護岸は深い掘り込み式となり、水量が少ないこと、悪臭を放っていること等から、人々の川への関心が失われ、まちは川に背を向けるようになってしまいました。
このため、渋谷川・古川の一部は、蓋をかけ下水道として整備を進める計画となり、渋谷川の上流部と支川は暗渠化され下水道幹線となってしまっています。
近年、人々の価値観が多様化し、うるおいややすらぎを求めるようになり、川は都市の中の貴重な水辺空間として見直されるようになりました。
また、河川法が平成9年度に改正され、治水、利水に加え、環境に配慮した河川整備の推進が提唱されたことを受け、渋谷川・古川を地域に親しまれる川に再生していくため、さまざまな取り組みを進めています」
いつが基点かは分からないが、再生事業の期間は概ね30年間とされているので、向こう10年間くらいはかかるのではないか。
「渋谷ストリーム」から写す
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見学したのは整備済みの「Aゾーン」。2018年に竣工・開業した「渋谷ストリーム」を出発点に渋谷川沿いの遊歩道を歩き、保育所、ホテル、飲食などの複合「渋谷ブリッジ」の前を右に折れ、山手線の線路を渡り八幡通りに出て、東横線代官山駅まで。普通に歩けば20分くらいだろうか。記者は途中、「渋谷ブリッジ」の雰囲気のいいカフェ&バーでビールを一杯飲み小休止し、ゆっくり歩いたので小一時間かかった。
もちろん、田舎育ちの記者は〝春の小川はさらさら流る 岸のすみれやれんげの花に 匂いめでたく 色うつくしく…〟の春の小川が復活するとまでは思わなかったが、期待は小さくもなかった。
結論から先に言えば、渋谷川と遊歩道は期待が大きかった分だけ失望もまた深かった。京王線には勝つかもしれないが、「BONUS TRACK」には負けると思う。
渋谷川沿いの総延長約600mの東横線の線路跡地の遊歩道には、東横線に使われていた高架橋、レールなどのオブジェやベンチが所々に配置され、サクラなどの樹木も植えられてはいたが、渋谷川そのものはとても「川」と呼べるものではなかった。
川幅は広いところで10m以上あったが、護岸はコンクリで固められているために水生植物が生える余地などまったくなく、しかも水面までは数メートルもありそうな深さで、水面もまた泥の川と大して違わない薄墨を垂らしたような平板ななりをしていた。流れているのかどうかも判別できなかった。
「貴重な水辺空間」も十分とは言えない。擁壁によって水辺に近づけないようにしているのは他の東京の川と同じだ。事故防止、治水を最優先するからこのような結果になる。川辺を散策できる東京の川・谷は等々力渓谷、国分寺崖線、矢川、玉川上水、善福寺川、多摩川、荒川くらいではないか。
清流復活水を活用した「壁泉(水景施設)」が擁壁からちょろちょろと水が流れていたが、せめて国道246号線の騒音にかき消されないほどのせせらぎの音くらいの演出があっていい。
もう一つ気になったのは「川に背を向ける建物群」だ。記者は2008年、日本橋川下りを取材したことがある。その時、「川岸はコンクリート塀になっており、ビルから川を眺めるような設計にはなっていなかった。日本橋川に東京の汚濁を全て注ぎ込もうとするように見えた。こんな悲しい光景は改めなければならない。川ばかりか、川沿いに建つ日銀本館、野村證券ビル、三菱倉庫ビル、日証館などの歴史的建築物も泣いている。建物は後ろ側から眺めるのが美しいといわれているはずだ」と書いた。
渋谷川も遊歩道が整備された西側はともかく、東側は渋谷川の擁壁に接するように中高層建築物が櫛比し、絶壁のように迫ってくる。
かなり手厳しいことを書いたが、渋谷区や東急線が嫌いなためではない。区内には公園の再生ではいい見本がある。「宮下パーク」だ。若者でごった返している。
都は渋谷川・古川の河川再生に数百億円を投じるようだが、今からでも遅くない。もう一度街づくりについて沿道の地主らと協議すべきだ。
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代官山では、野村不動産が分譲中の2つのマンション現地もみた。代官山駅から徒歩4分の八幡通に面した12階建て「プラウド代官山フロント」75戸と、その隣接地で駅から徒歩6分の4階建て「プラウド代官山テラス」20戸だ。全て億ションで、全95戸に対して約半分が成約済み。坪単価は900万円弱。
「フロント」の八幡通りを挟んだ対面では、「代官山アドレス」に隣接した「代官山東急アパートメント」の建替え事業が進行中だ。事業主は東急不動産で施工は竹中工務店。10階建て延べ床面積約21,875㎡。2021年3月着工予定。分譲なら坪1,000万円台に乗るか。
2016年の土木学会デザイン賞を受賞した東急電鉄「ログロード」が最高によかった。東急東横線の地下化に伴い創出された細長い上部空間約3,464㎡に建設された全5棟延べ床面積約1,874㎡の商業施設で、建物外壁に木造(レッドシダー)を採用したデザインにしばし見惚れた。
「ログロード」
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