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2018/09/18(火) 11:18

チーム匠がグランプリ 初参加の三井ホームはトーナメント制す 第1回「カベワン」

投稿者:  牧田司

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第1回「壁-1(カベワン)グランプリ」(埼玉・ものつくり大学で)

 昨年度の第20回で終了した「木造耐力壁ジャパンカップ」に代わって新たに企画された第1回「壁-1(カベワン)グランプリ」が9月15日~17日、埼玉県・ものつくり大学で行われ、参加した12体の耐力壁が予選を戦い、勝ち残った8体による決勝トーナメント戦の結果、チーム匠(アキュラグループ+東大木質材料学研究室+篠原商店)の「一位の壁」がグランプリを獲得、従来の「ジャパンカップ」を含めて初参加の三井ホームGT「G-WALL HD」が、トーナメント戦を制した。

 グランプリは、性能(耐震性+デザイン性)を材料費や環境負荷費で割った数値がもっとも大きかった耐力壁に贈られる。トーナメントは強さのみで競われる。

 トーナメント常勝軍団のポラスグループのポラス暮し科学研究所は参加しなかった。

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ジャッキで引き合うトーナメントでは敗退したが、グランプリ優勝した「チーム匠」の壁(左)

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 耐力(体力)、知力、気力、忍耐力、想像力、生産力…などあらゆる「力」で劣る記者は、だからこそこの種の「力」の差がはっきり出るイベントが大好きで、今回の「カベワン」は「ジャパンカップ」を含め10回目くらいの取材になる。

 取材の第一の目的は、「ジャパンカップ」から「カベワン」に衣替えしたのはなぜかを聞き出すことだった。

 これまで「ジャパンカップ」を主導してきた東大大学院木質材料学研究室教授・稲山正弘氏は「若い人に交代したほうがいい。わたしは引退。一出場者(チーム匠)として参加していく」と話した。

 稲山氏からバトンタッチを受けた「カベワン」代表で東大大学院 農学生命科学研究科 生物材料科学専攻 助教・落合陽氏(32)は「稲山先生も還暦(60歳)。スタッフの高齢化も進み、マニアックになりすぎていたことを反省し、今後は広く一般の方に木造建築のよさと技術を発信し、人材も育成することに貢献したい」と語った。

 従来と大きく変わったのは、耐力壁の大きさだ。これまでは柱は4本で、柱と柱の間は一間(910ミリ=1P)、つまり3Pだったのを、柱を3本に減らし2Pにした。

 これによって狭いスペースでも組み立てることができ、コスト的にも抑えることができるようになったという。

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落合氏(左)と稲山氏

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 準々決勝戦は波乱含みで始まった。過去の「ジャパンカップ」で何度も総合優勝している稲山氏と落合氏もチームの一員として参画しているチーム匠の「一位の壁」がKAMAGIC「ねじと斜材と平成最後の夏」に初戦で敗れた。

 稲山氏は「壊れていない。ジャッキを引ききった時点の数値が下回った。あと10センチあったら勝っていたはず」と悔しさをにじませ、落合氏は「それぞれの接合部分に力を分散するつもりだったが、1カ所に集中してしまった」と敗因を分析した。

 「一位」が「平成最後の夏」に敗れるという何とも形容しがたい結果に記者は戸惑ったが、結局は、チーム匠がデザイン性やコストなどが評価され逆転勝利した。

 驚いたのは、2×4の三井ホームがトーナメント戦で大活躍したことだ。

 配布されたパンフレットの触れ込みがすごい。「K-1グランプリに金肉ムキムキの野獣が殴り込み!『ホゾ? ヌキ? ナンダソレハ? 』木造技術を圧倒的な金力で破壊してやる!(『金』は〝metal〟なのか〝money〟なのか…)」と挑発し、「当社オリジナル木ねじによる耐力壁『Gウォール』を壁-1用にアレンジしました。シンプルなツーバイフォー耐力壁で挑戦」とあった。

 「金」は金物=金がかかるという意味のようで、その威力をまざまざと見せつけた。耐力を示す数値では65キロニュートンという、かつてポラスがマークした最高値に並んだ。

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三井ホームGT「G-WALL HD」のメンバー

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解体された壁を前に話し込む稲山氏

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 過去数度の優勝を飾っているポラスグループのポラス暮し科学研究所はノミネートしなかった。関係者は「若手中心の大会になると聞かされていたので、ポラス建築技術訓練校だけを参加させた」と〝敵前逃亡〟は否定した。

 その訓練校チームは予選を8位で突破、準々決勝戦に勝ちあがったが、予選2位の「ねじと斜材と平成最後の夏」に負荷30キロニュートンの時点で敗れた。

 チームを代表してプレゼンした池畑蓮氏(18)は「ノミとかマルノコの扱さえ知らなったわれわれが日本家屋を彷彿とさせる壁を造った。無謀にも金物を使わずチャレンジした。温かい目で見てほしい」と思いのたけを訴えた。

 チームは敗退し、みんな落ち込んでいると思いきや、メンバーの一人、奈良雄也氏(18)は「そんなことはありません。闘志がわいてきた」と前を向いた。

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壁の前でプレゼンする池畑氏(左端)

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解体作業(左)とそのメンバー

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 「美しいもののみが機能的である」と語ったのは丹下健三だ。だがしかし、わが国は、美しくて機能的なその壁をイチジクの葉っぱのようにせっこうボードで覆い隠さないと建てられない。

 実行委員会には是非ともこの不可思議な問題にも踏み込んでいただきたい。どうせ隠さないとだめなのだから、デザインなどどうでもいいという暴論も正論に聞こえるし、準々決勝戦で敗れるチームがどうしてグランプリを獲得し、圧倒的な力持ちの壁が覇者になれないのか。耐震評価とデザイン評価の配点はどうなっているのか、材料費などのコスト計算はどうなのか-よく分からない。

 三井ホームに依頼したら、「G-WALL HD」が送られてきた。材料はベイマツ、カラマツ、スギの集成材。確かに他チームとは全く異なる。これが軸組工法と枠組工法の違いだ。三井ホームは強さで他を圧したが、グランプリを逸した。デザインの評点が低かったのか、コストなどが高かったのか、現段階で詳細なデータは発表されていないので何とも言えないが、〝美は単調にあり〟(瀬戸内晴美は「美は乱調にあり」)も真理だと思う。同社の足立区の老人ホームの工事現場も見たが、とても美しかった。

 グランプリに輝いた「チーム匠」の壁は、縦貫にシラカシを用いているのが特徴。関係者は「シラカシはほとんど流通していない。マキにしか利用されない。需要はあるはず」と話していた。

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三井ホームGT「G-WALL HD」

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ポラス建築技術訓練校の壁(左)と勝利した法大宮田研究室の壁

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