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2023/08/26(土) 05:43

全て流通材、組子格子耐力壁を現しで表現 AQ Group「8階建て純木造ビル」見学会

投稿者:  牧田司

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建築中の「8階建て純木造ビル」

 AQ Groupは8月25日(金)、さいたま市で建築中の新社屋「8階建て純木造ビル」の構造現場見学会を開催した。今年9月10日予定されている上棟式を前に、純木造のよさを理解してもらうのが目的で、1階と6階部分がメディアに公開された。また、建築中のビルをメイン会場にした総勢15,000人の「夏休みの木育課外授業 つくろう!木育フェス」も同日実施した。

 「8階建て純木造ビル」は 市場に流通している住宅用のプレカット材を採用し、特殊金物を用いないで地場の工務店が在来工法で建築するわが国初の試み。木材使用量は約3,655㎥(木造住宅300~400棟相当分)、国産材はヒノキ、カラマツなど全体延床面積の7.7%、CO2排出量は非木造の2分の1以下、炭素貯蔵量は約2,578t-co2(スギ約5,104本相当)、11mスパン、階高3800ミリ、天井高3000ミリなどが特徴。耐用年数はRC造と同様の47年の評価を取得する予定。

 見学会で宮沢俊哉社長は、「今から100年前に関東大地震が起こり、わたしが生まれた1949年には伊勢湾台風に見舞われ、以来、木造禁止令のごとく、わが国の建築物は鉄やコンクリが中心になった。現在は、木造は世界的に注目を浴びている。大工の一人として、わが国の伝統的な在来工法を広めるのが天職・使命として新社屋の建設を決意した。経営者としては不安だらけ、大きな挑戦だが、トライ&エラーを繰り返しながら、コストの壁、工法の壁、偏見の壁を乗り越え、木造建築物を普及させていく。コストは一般的な鉄骨造と比較すると同じか、やや高くなる程度」と語った。

 わが国の木造建築研究の第一人者で、同社の木造建築技術向上に大きな役割を果たしてきた東京大学大学院教授・稲山正弘氏は、「大規模木造ビルとしては昨年4月に完成した免震工法の大林組のビル(11階建て延床面積約3,502㎡の「Port Plus大林組横浜研修所」)があるが、木造軸組工法による耐震構造のビルとしては今回が日本初。阪神・淡路大震災クラスの震度7を想定した5階建て実大実験でも完全性が確認できた。特殊金物を使わず、在来技術と流通材を使用した8階建て6,000㎡超のビルというのが最大のポイント。4階までは2時間耐火、4階以上は1時間耐火で、組子格子耐力壁を室内現しデザインとして採用している。耐力壁は一見してきゃしゃで細いものに映るが、20トンの重量に耐えられる」と話した。

 ビルの基本設計・実施設計を担当している野沢建築工房担当者は建築概要を説明し、コストのかかる特殊金物を用いず、大臣認定が少ないサッシ・外壁・区画貫通部材の少なさ、スプリンクラーを設置せず法令の範囲内で現わしを実現した苦労などを紹介した。

 施設は、JR大宮駅からバス約15分、さいたま市西区三橋5丁目に位置する敷地面積約9,000㎡(約2,700坪)。本社ビルは敷地面積約5,424.46㎡、木造軸組工法による耐震構造の延床面積約6,076㎡。基本・実施設計は野沢正光建築工房。構造設計はホルツストラ。施工は田中工務店、伊佐建設。このほかショールーム、実験棟、宿泊体験棟6棟合計の総延床面積は約11,200㎡。着工は昨年9月。完成予定は2024年春。

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左から宮沢氏、稲山氏、野沢建築工房担当者

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見学会会場となった1階部分

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完成予想図

◇        ◆     ◇

 いま、木造による集合住宅、ビル建築が脚光を浴びており、大手ゼネコンやデベロッパーが〝覇権〟を争っている。一方で、AQ Groupは非上場、施工の田中工務店は埼玉を本拠とする地場建設業者だ。耐力壁に使用している木は埼玉県産材や国産材だ。これが嬉しいではないか。

 宮沢氏は、今回のビルには「耐力壁ジャパンカップ」「カベワンGP」などで培った技術の一部を注ぎ込んだと語ったが、それは「組子格子耐力壁」に表れていた。稲山氏は「きゃしゃで細い」とも話したが、どうしてどうして、これが強い。特殊金物をたくさん用いた耐力壁と互角の争いをしたのを記者は何度も見ている。写真を見ていただきたい。何かに似ていないか。六角形、ハチの巣、ハニカム構造だ。(坂茂氏が設計した芝浦工大のレストランにもこのハニカム構造が採用されていた)

 コストについて。この種の見学会では、必ず鉄やコンクリとの価格が話題に上る。誰もが知りたいことではあるが、記者はもうそんな論議はなしにしたほうがいいと思う。

 木造メーカーは鉄やコンクリと比べて安いことを全面に掲げてきた。しかし、考えてみれば、あらゆる商品は価格が安ければいいかということではない。価格に見合う価値があるかどうかで判断するのが普通だし、そもそも木造と鉄、コンクリはそれぞれ特徴があり、単純比較などできないはずだ。例えていえば、ペットは犬か猫か、ナイフとフォークを使って食べる肉と手づかみで食べるウルメイワシのどっちが美味いか、ワインか日本酒かを論じるようなものだ。文化と趣向の違いだ。

 もうそんな不毛な論議はやめて、木造であれば、燃やしてもCO2を空気中に増やすことにならず、炭素を固定する脱炭素社会・カーボンニュートラル社会の実現に欠かせない資源であり、国産材の利用はわが国の森林・林業の再生・活性化に貢献しており、さらにまた外観・内観が人にもたらす心理的効果などを定性的かつ定量的にきちんと図るモノサシを確立すべきだと思う。

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国産材を採用したハニカム構造の「組子格子耐力壁」

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工事中の6階部分

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6階部分の天井

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接合部分

わが国初の「5階建て純木造ビル」/「カベワンGP」7度目V アキュラホーム(2022/11/15)

木造の英知結集 日本初 現し8階建て 特殊金物用いず低コストで建設 アキュラ本社ビル(2021/10/28)

 

 

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