アキュラホームが川崎住宅公園に11月5日オープンしたわが国初の「5階建て純木造ビル」モデルハウスを見学した。一般流通材とプレカット技術で建設できる「普及型純木造ビル」のモデル棟で、①混構造ではない木造軸組工法による5階建て②免震構造ではなく耐震構造で特殊金物を使用していない③実物大耐震実験で強度を実証-しており、組子格子デザインの構造壁や柱を極力「現し」で表現しているのが特徴。
モデルハウスは木造ビルを普及させるために開発したもので、木造軸組工法による5階建て延べ床面積約439㎡。1階が店舗、2階が事務所、3階が賃貸住宅、4・5階がオーナー向け専用住宅を想定した複合ビル。
同社は、今後1年から1年半の間に同様のモデルハウスをさいたま市、錦糸町などで建設し、木造ビルの普及を目指す「Re:Treeプロジェクト」を本格化する。さいたま市で着工した純木造の8階建て新社屋は2年後に完成する。
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同社はモデルハウスオープンに先駆け11月4日メディア向け見学会を行っており、同社常務執行役員・井草健二氏が約40分にわたって説明・質疑応答した。そのビデオを視聴した。
井草氏は冒頭、木造の歴史について触れ、13万戸の家屋が全壊、44万戸が焼失した関東大震災と、1959年の伊勢湾台風の被害をきっかけに、「木造禁止令のような規制が進んだ結果、木造は劣勢に回った」と口火を切り、「この20年間は、技術者や学者などの取り組み・研究により歪んだ部分、世界観を是正する時代で、『仕様規定』から『性能規定』に変化した時代」と述べた。
そして、関東大震災から100年を迎えた今年は、地球温暖化防止、脱炭素社会実現に向けた「黎明期」と話し、「さらに改善を進め、向こう2年間で木造ビルは本格的に普及する」と語った。
一方で、本格普及のためには、「コストの壁」「工法の壁」「偏見の壁」の3つの壁を乗り越えるのが課題で、コスト的には、今回のモデルハウスは鉄やコンクリとほぼ同様ではあるが、工期が予定より延び労務費がかさみ、無駄な柱や梁もあるとし、競争力を高めるためには構造計算をできる設計者の育成も欠かせないと語った。
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木造ファンの記者も、井草氏が語ったように「純木造ビル」が日常の街並みになることを願っているのだが、一つお願いしたいことがある。木造の「断熱性」「調湿性」「快適性」「デザイン性」などの「優位性」のエビデンスデータを各社で共有し、定量的に示すことで〝見える化〟を図ることだ。
同社の施設では、さいたま北支店とつくば支店がある。社員の病気が減ったとか生産性が向上したなどのデータは集まっていないのか。
同社は11月11日、ものつくり大学(埼玉県行田市)が主催して10月22日、23日に行った第5回「カベワンGP(壁‐1グランプリ)」にアキュラ・チーム匠として参加し、通算7度目のトーナメント優勝を達成したと発表した。
同社グループの耐力壁は、「柔よく剛を制す」をコンセプトに開発した「檜三四郎」で参戦。面材を使用せず、木材は国産材のヒノキとシラカシにより3本の横枠と4本の縦貫で構成され、横枠への縦貫のめり込みにより、高耐力と高い靭性を兼ね備えたもの。
「カベワンGP」は、東京大学・稲山正弘教授が阪神淡路大震災の後、木造は弱いという偏見を払拭し、構造耐力の向上や技術者の育成などを目的にスタートした前身の「木造耐力壁ジャパンカップ」から計25年間続く大会。今年はハウスメーカー、ゼネコン、大学や専門学校の研究者グループなど10組が参加した。
同社グループの耐力壁開発に加わっている稲山教授は「埼玉県でアキュラホームの新しい8階建ての社屋が着工しました。この社屋は耐震構造を純木造で実現しています。『耐力壁ジャパンカップ』からチーム匠でやってきた経験が、高強度の耐力壁の開発の礎となって8階建てに至っている」とコメントしている。