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2023/11/21(火) 20:05

〝美は現しにあり〟木と鉄骨のハイブリッド実現 野村不&清水建設「溜池山王ビル」

投稿者:  牧田司

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「野村不動産溜池山王ビル」

 野村不動産と清水建設は11月21日、「野村不動産溜池山王ビル」のメディア向け竣工内覧会を行った。野村不動産溜池ビルの建て替えプロジェクトで、同社の事業企画・監修のもと、清水建設の「シミズ ハイウッドⓇ」を活用し木質建築部材と鉄骨造を合理的に組合せ、心地よい無柱の木質オフィス空間を実現したもの。竣工前に一棟賃貸借契約が完了している。

 「シミズ ハイウッドⓇ」は、同社の「スリム耐火ウッドⓇ」「ハイウッドビーム」「ハイウッドスラブ」「ハイウッドジョイント」を鉄骨造と合理的に組合せる独自の構法。今回のオフィスでは21m×18m(最大天井3.6m)を実現した。構造材はカラマツで、現しのスキは主に長野県産材。

 この構法により、木の使用量(約470㎥)を最大化させた木質オフィスを実現し、建設時のCO2排出量約125を削減するとともに、木材が成長段階で吸収するCO2約285tを固定化している。令和3年度の国土交通省サステナブル建築物先導事業にも採択されている。

 物件は、東京メトロ溜池山王駅から徒歩1分、港区赤坂1丁目に位置する敷地面積約690㎡の9階建て。構造は鉄骨造一部木造。竣工は2023年10月31日。設計監理・施工は清水建設。監修は野村不動産。

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オフィス内

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1階エントランス

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外観

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◇        ◆     ◇

 エントランスに入った途端、合成の芳香剤が入り混じっていることは瞬時にかぎ分けられたが、得も言われぬ本物の木の香りが鼻腔を満たし、その香りは年は取っても衰えを知らないわが繊細な心をそっと撫で、あるいはぎゅっと鷲掴みし、そしてゆるゆると頭にのぼり、記憶としてとどまった。霧のように消えることはなかった。

 壁といえば、隈研吾氏の〝十八番〟でもある、見る角度によって刻々と表情を変えるランダムな本物の木を用いた縦格子のデザインと、これまた本物の観葉植物が配されていた。前の取材が長引き、内覧会開始の時間には15分くらい遅れてはいたが、この時点で取材の目的の半分は達成されたと確信した。

 案内されたのは2階だったか。これまでも木質空間はたくさん見ているが、壁と柱と天井は明らかに〝現し〟仕上げで、そのデザインの美しさに息を飲み、言葉を失った。伊勢神宮の施設は、全てが木曽から切り出したヒノキでできており節など一つもないが、ここもそうだった。(後で聞いたら長野県産材のスギノキだった)

 施工したのは清水建設だった。清水施工の木造建築物といえば、2019年竣工のわが国初の〝見た目〟木造高層建築物「三井ガーデンホテル神宮外苑の杜プレミア」を思い出すのだが、同社木質建築推進部部長・水落秀木氏は「当時の課題をクリアするため相当の研究を重ねた。相当進化している」と語った。また、同社プロジェクト設計部2部設計長・大栁聡氏は、「担当して3年。苦労も大きかったが出来栄えに満足している」と話した。

 素人の記者は難しい技術的なことは分からないし、これまで見てきた木造建築物と比較して〝最高〟かどうかは判別しかねるが、〝現し〟の美しさに舞い上がった。

 いつもそうだが、メディア関係者は鉄やコンクリと比較してコストはどうだとか馬鹿馬鹿しい質問を相も変わらず繰り返したが、美しいものを見て、どうして美しいと言えないのか。木には木の、鉄には鉄の、コンクリにはコンクリのそれぞれ特徴を持つ。比較すること自体が間違っている(小生は木造ファンだか)。高いとか安いとかを考えるのは二の次だ。

 「現しにしないといけないというのは木造コンプレックスの裏返し。木の性能、コストなど科学的・合理的なことのほうが大事」と昂然と言い放った三井ホームの小松弘昭氏にまた怒られるかもしれないが、やはり〝美は現しにあり〟といいたい。

 ただ一つ、首をかしげざるを得なかったものがある。1階ラウンジのテーブルは、野村不動産の「プラウドギャラリー新宿」と同じ本物の観葉植物が配置されており、天井はスギの現しで素晴らしいのだが、写真のようにぶら下げられているのは明らかにフェイクグリーンだった。これを指摘したら、同業の記者の方は何の反応も示さず、水落氏は一言も発しなかった。野村不動産都市開発第一事業本部建築部長・齊藤康洋氏は微笑を浮かべながら「課題」と話した。

 画竜点睛とまではいかないが、フェイクグリーンは価値を半減させると記者は思っている。この前、三菱地所はリニューアルした本社オフィスをメディアに公開したが、フェイクだらけだった6階はほとんど全てが過剰と思えるほどの本物の観葉植物で満たされていた。

 ギョッとしたものもあった。取材の帰りだ。エントランスの目の前にプラタナスの街路樹が植わっていた。何と、根元近くの胴から枝葉が突き出ているではないか(胴吹きと呼べるのか)。ビッグモーターとは逆だ。肥しをどんどんやったわけでもないのだろうが、少なくとも1年以上は剪定していないはずだ。港区さん、これは何とかしたほうがいい。

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左から齊藤氏、大栁氏、水落氏

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天井部分(きれいに写っていないのはカメラのせい)

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天井からぶら下がっているのはフェイクグリーン

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エントランス前のプラタナスの街路樹

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