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2023/12/19(火) 12:36

氷の微笑、根回し、考え方更新、都市公園とは…神宮外苑を考えるシンポ 千葉商大

投稿者:  牧田司

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左から原科氏、石川氏(千葉商大丸の内サテライトキャンパスで)

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左から藤井氏、Rochelle氏(千葉商大丸の内サテライトキャンパスで) 

 千葉商科大学環境情報科学センターは12月17日(日)、「神宮外苑の歴史的文化的資産の価値を守る-イチョウ並木と100年の森-」と題する対面&オンライン形式によるシンポジウムを同大学丸の内サテライトキャンパスで開催。同大学学長で日本不動産学会会長・東京工業大学名誉教授の原科幸彦氏が趣旨説明、中央大学研究開発機構教授・石川幹子氏(イコモス日本国内委員会理事/東京大学名誉教授)が基調講演をそれぞれ行い、藤井英二郎氏(千葉大学名誉教授)、Rochelle Kopp氏(経営コンサルタント/神宮外苑問題の署名活動代表)を加えた4氏がパネル討論会を行った。

 冒頭、原科氏は「神宮外苑は都市公園です。樹木伐採は停まっているだけで、危険な状態。神宮外苑は公共空間ですが、この10年間、密かにことが進み、民間企業の利潤追求の場に使われようとしています。これはおかしい。カーボンニュートラルを実現するため環境に配慮した都市開発を行うのが基本。都市開発事業者、不動産開発事業者の責任は、公園緑地を減らす都市開発はできないということです」と切り出し、神宮外苑の果たしてきたCO2固定化など公共的な役割ついて語り、SDGsの観点からも再開発計画は大量のCO2を排出し、歴史的文化的価値を無視するものであり、イコモス本部が緊急アラートを発したにもかかわらず応えようとしない事業者の対応を批判した。

 続いて登壇した石川氏は、論点として①移植すれば、森を守ることができるか、本数が増えればいいのか②危機に瀕するイチョウ並木を公明正大、科学的調査に基づいて論議すべき③江戸・東京の400年の歴史をどう考えるか④社会が分かち合う社会的共通資本(コモンズ)とは何か-を示し、〝見えないところを見なさい〟という恩師の教えを紹介しながら、フィールドワークで調査した神宮外苑のシラカシ、スダジイ、ヒトツバダゴ(なんじゃもんじゃ)、イチョウ並木などの惨状などを報告し、環境影響評価書には虚偽があり、間違いは正すべきと主張した。また、新宿御苑(高遠藩)・明治神宮内園(井伊家下屋敷)・明治神宮外苑(青山練兵場)は公園三部作であり、19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍した折下吉延のパークシステムを紹介しながら、社会的共通資本(コモンズ)を維持しなければならないと語った。

 藤井氏は、神宮外苑創建に関わった職人の土壌改良、根回しなどの技術を「素晴らしい」と称え、「過去の歴史の年輪を刻んでいる情報を謙虚に受け取るべき」とし、一変して新国立競技場に話を転じ、「実態はひどすぎる。担当者も工程表も設計担当も、施工も悪い。オリンピックが無観客だったのが幸いした。大勢の世界の人々に恥をさらすところだった」と皮肉った。

 Rochelle氏は、「緑に尊敬していない。〝更新〟という言葉を使い、古い樹木を若い樹木に植え替えようとしている。ひどい。これを人間に言ったら大問題になるでしょ。樹木をモノとしか考えていない。何度も何度もそのようなことが伝えられるとそれが力となる。樹木に対する考え方を更新すべき」と訴えた。

 このほか、シンポに参加していた大方潤一郎氏(東大名誉教授)は、風致地区のただし書き、地区計画制度の問題点などを指摘した。

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「神宮外苑の歴史的文化的資産の価値を守る-イチョウ並木と100年の森-」シンポジウム(千葉商大丸の内サテライトキャンパス)

◇        ◆     ◇

 記者は、いつものように〝街路樹の味方〟として今回のシンポジウムをリアルで視聴した。嬉しかったのはRochelle氏の話だった。10年以上前から「街路樹が泣いている」の見出しで記事を書いてきた甲斐があった。神宮外苑のイチョウは雄株か雌株か垂乳根(雄株にできるのか)も見られるので、古木ではないにしろ立派な成木だが、人間に例えれば志学15歳か破瓜の16歳か芳紀18歳の伸び盛りの神田警察通りのイチョウを死刑宣告した千代田区こそ無期懲役刑(記者は戦争が最たるものだが、人が人を合法的に殺すことには同意しない)に処すべきだと思っている。Rochelleさん、「RBA」ホームページから「街路樹」「都市公園」などで検索していただくと200件以上の記事がヒットするはずです。

 藤井氏のスピーチは複雑な気持ちで聞いた。隈研吾ファンだからだ。完成した新国立国技場を何度も見たが、建物本体はともかく植栽計画にはがっかりした。プアそのものだ。藤井氏が「貧困」と語ったのだから間違いない。

 Rochelle氏と藤井氏もそうだが、石川氏が何を話すかをリアルで聴くのが今回の取材の最大の目的だった。イチョウ並木の毎木調査を行い、現存植生図など一連の報告書、提言、要望書を主導したからだ。何千本もある樹木データが頭の中に詰まっているはずで、一部でもいいからその中を覗き見ようと思った。

 石川氏は最初、厳しい表情を崩さなかった。最高の写真を撮ろうとデジカメのシャッターを押し続けた。10分間くらいか。ことごとく空振りに終わった。石井氏は視線をそらした。これは一筋縄ではいかないぞと覚悟を決めた。

 それでもしつこく迫った。石川氏もあきらめたのか、講演が半ばに達したころから表情を崩し始め、それからというもの、微笑は最後まで絶えることがなかった…微笑…と、突然、何の脈絡もなしに「氷の微笑」のシャロン・ストーンと重なった。気難しい学者からいっぺんにファンに変わった。(農学者に惹かれるのはなぜか)紹介する1枚はその一つだ。

 石川氏は、「わたしはあきらめない。一言いいたい。なぜマスコミは事実を報道しないのか」と締めくくった。肺腑をぐさりとえぐられた。

 新しい発見もあった。石川氏の配布資料には秩父宮ラグビー場の所有者は「国」と書かれていた。ご本人にも確認した。現在もそうだという。事業者は新ラグビー場の土地・建物所有者は独立行政法人日本スポーツ振興センターと「想定している」と公表している。つまり、現在の秩父宮ラグビー場の土地・建物の権利は新ラグビー場に移転し、代わりに現在の秩父宮ラグビー場の土地・建物は明治神宮所有になるものだと理解していた。すでに所有権は移転・交換しているのではないかと(新ラグビー場もまた「未供用」になるのか=だとすれば多額の税金が減免されることになるはずだ)。

 そうでないとつじつまが合わない。国が所有する土地に、六大学や東都大学野球大会が行われるので公共性は高いとはいえ、プロ野球球団の本拠地とし、営利を目的にしたホテル建設などありえないからだ。いま、この点について関東財務局に問い合わせたところ、土地・建物の権利者は日本スポーツ振興センターとの回答があった。

  そこで、日本スポーツ振興センターに聞いた。石川氏の資料も関東第無極の回答もその通りで、記者の推測も的は外れていない。都市再開発法に基づく市街地再開発事業の権利変換手続きはこれから行われる模様だ。

 今回のセミナーで唯一、腑に落ちなかったのは原科氏が最初と最後に「神宮外苑は都市公園」と2度も話したことだった。都市公園と都市計画公園は似て非なるものだと思う。神宮外苑が都市公園だったら、このような再開発計画は俎上に上らなかったはずだ。事業者も「公園を整備するものではない」と明言している。

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神宮球場(12月13日撮影、以下同じ)

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イチョウ並木

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この木は何の木か(スダジイか)

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