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2016/09/08(木) 00:00

またまた「街路樹が泣いている」 千代田区 街路樹伐採で賛否両論

投稿者:  牧田司

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伐採されることになっている「白山通り」のイチョウ(ごみもなくなるのか)

 先日、記者が以前書いた記事「街路樹が泣いている」を読まれたという千代田区の方から次のようなメールが届いた。

 「今の千代田区では『自転車道整備・歩道整備』の名目で、『神田警察通り』の共立学園横の樹齢80年以上のイチョウの木を全て伐採する計画が持ち上がっております。『街路樹は道路の付属物』の実例です。
 街路樹が泣いている状態です。またこの様な貴重な樹木を伐採するという重要な行政行為が区民には伝えられないのです。
 区議会への説明でも『歩道を整理!』と課長が議員に説明して、予算は通りました。しかし実施の段階で区民・在勤者の知るところになり、今は休止の状態です。区民からの『樹木を保存して、活用する』陳情も出たばかりです。今都内ではオリンピック関連で同じような、街路樹の伐採が多く行われております。
 オリンピックを目途に緑を増やすことが重要なのに、逆行している状態です」

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伐採される「神田警察通り」のイチョウ(共立女子大前で)

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確かに異形であるイチョウ

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「神田警察通り」

◇       ◆     ◇

 早速、取材することにした。この方が指摘する「神田警察通り」の伐採計画は、神田錦町から神田駅までの4車線一方通行道を3車線にし、歩道空間を現行の2.7~3.5mを4mに拡幅し、自転車走行空間を整備するものだ。

 平成23年から計画が進められており、第1期工事については昨年から地元と協議を始めており、今年3月の議会で議決されている。計画では共立女子大学と一橋大学施設の間のイチヨウ32本とプラタナス5本を伐採することになっている。

 伐採のために今年7月、イチヨウの枝落としを行ったところ、「切らないで」「かわいそう」「何の説明もなく伐採するのは問題」という声が上がったため工事は中断したままになっている。区は引き続き住民にしっかり説明していくと言っている。

◇       ◆     ◇

 現地を歩いた。計画の主旨はよくわかる。近接する神田神保町界隈は再開発による大規模な店舗・事務所・マンションなどが整備され、また〝食の街〟として人気になるなど、大学の街・古本屋の街が一変したのに対し、神田警察通りは駅から少し離れており、沿道には共立大学、学術総合センター、神田警察署、神田税務署、正則学園、錦城学園、博報堂など外部の人にはなじみがない施設やビルが建ち並び、賑わいの点で大きく差をつけられている。その危機感が背景にあるのだろう。

 イチョウの大木は確かに見事だ。真冬ならともかく、緑の葉が真っ盛りの7月に枝落としすれば「かわいそう」という声が上がるのも当然だ。行政サイドに配慮が欠けていたというほかない。しかし、「全然知らなかった」という住民側にも問題がある。計画は5年も前から始まっている。〝街を自分たちでつくっていく〟主体者意識が欠如していると言わざるを得ない。

 区内にはこのほかにも2カ所で街路樹の伐採計画がある。一つは、御茶ノ水駅から駿河台下までの区道「明大通り」の歩道空間を整備する目的で実施されているものだ。その第1期工事分としてプラタナスなど34本が伐採されることになっている。もう一つは、水道橋駅から神保町交差点までの都の「無電柱化電線共同溝工事」により全体の約4割50本のイチョウが伐採される計画だ。

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「神田警察通り」に面した安田不動産「テラススクエア」の公開空地

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総合設計制度により確保された公開空地の池には鯉や金魚が泳いでいた

◇       ◆     ◇

 「明大通り」のプラタナスの伐採については、今年6月15日に行われた区の企画総務委員会の議事録には次のようなやり取りがある。一部を紹介する。区民の代表である区議の街路樹に対する認識がよくわかる。

 道路公園課長 現状のプラタナスが大変樹高が高くなりまして、落ち葉ですとか、あるいは毛虫といった、そういうものが沿道で、実際、非常に困るという問題がございまして、そういう意味では、高くならず、葉張りが余り広がらないということでございまして、そういう特徴があって、今回設定したマグノリアというところは、高さは8メートルほどで抑えられて、なおかつ、木の形、樹形が比較的横に広がらないという特徴、さらに花が咲くという特徴もございまして、選定にふさわしいというところで、地域にご提案したところでございます。

 A委員 …このプラタナスはもう寿命なんですか。年期が来ているの。それとも、生きている木を取っちゃうんですか。…こういう街路樹に関する思想的なというか、物の考え方とか、美観、ゆとり、潤い、品格、そして防火・防災、そういったことも含めた未来をどう描いていくかということについては、詰めが我々が甘かったと思う…何というか、詰めの甘いというか、熟度の甘いというか、そういうところで、やってしまえば簡単なんですけれども、木が高いんですよ、落ち葉が、毛虫がというふうに言われると、全くどうなのかなということは残るので。…このマグノリアで契約しているんでしょうから…まちの人たちは全く知らないわけですし、明治大学だって、あそこ、何ですか、カルチェラタンにしようと言っているわけですし。だったらば、その通りのイメージとして、定着したプラタナスを維持したほうがいいのか、切ったほうがいいのか、あるいは新しく植えたほうがいいのかということについては、やっぱり地元を挙げて協議して確認をすべき事項だと思うんですよね。…

 委員長 議案第31号、歩道拡幅工事「明大通りI期」請負契約について賛成の方の挙手を求めます。〔賛成者挙手〕

 委員長 賛成全員です。よって、議案第31号は可決すべきものと決定いたしました。

 都道「白山通り」の無電柱化については、平成26年6月4日の企画総務委員会でも論議されているが、担当課長は「『白山通り』につきましては、東京都が管理する都道でございます。現在、図の水道橋駅から神保町交差点までの間の約700メートル区間、オリンピックのマラソンコースに指定されておりまして、コースの中で唯一、無電柱化されていない状況にございます。そこで、オリンピック開催に向けまして、ここにつきましては都市計画道路の拡幅整備の予定が入っておりますが、それに先行して無電柱化を行うというものです。……地域もおおむねそれで了解を得ているということでございます」と答えており、イチョウの伐採についてはまったく論議されていない。

 これらのやり取りから判断して、明大通りや白山通りの街路樹の伐採については区議からはほとんど異論が出ていない。「このプラタナスはもう寿命なんですか」という質問が飛んでいるが、この委員の方は現地を見ていないのでは。樹幹を見れば寿命でないことは一目瞭然だ。せいぜい数十年だ。人間なら妙齢にも達していない。プラタナスについての知識がないからこのようなチンプンカンな質問しかできないのだ。

 われわれは都市計画は100年の計と学んだ。その物差しもかなぐり捨てて、100年、200年のスパンで成長する樹木のことも全然考えずに、目先の利便性だけを最優先してマグノリア(これはこれで美しいが)に変更するのは理解できないが、みんなが決めたことだろうからそれはそれでいいのだろう。明大カルチェラタンの歩道に敷かれていたレンガをはがしたのは誰だっけ。

 落ち葉や毛虫について。落ち葉は断じてゴミではない。肥料になるしやがて土にかえる。たき火の材料にして焼き芋を焼くのもよいではないか。毛虫が湧くのはまだ健全ということだ。むしろ毛虫を食べる小鳥が住めなくなってきたことを憂慮すべきだ。

 「白山通り」の街路樹について。水道橋駅から神保町交差点までは古本屋も多いが飲食店も多く、植栽枡・緑地帯にはバイクや自転車が置かれ、ゴミも散乱している。やはり醜い。町内会や商店主などで論議し、きれいにすべきだ。

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「明大通り」のプラタナス

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明大キャンパスから駿河台下に向かう通りのプラタナス

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 東京都は平成17年度「街路樹充実」事業で、当時の都内における街路樹本数48 万本(国道2万本、都道約16万本、区市町村道30万本の合計)を100万本に倍増していくことを打ち出した。計画は順調に進んでおり、平成23年度末には中木を含めて79万本に増加。都道の街路樹本数は39万本に達し、「魅せる街路樹」を目標に掲げる。

 「幹周90cm以上の大径木の街路樹は、都市に『うるおい』や『やすらぎ』を与えるだけでなく、ヒートアイランド現象の緩和や大気浄化機能にも大きな役割を果たしている」としながらも、「数々の役割を担っている街路樹は多くの課題も併せて抱えているのが現状」とし、「2020年の東京~大震災を乗り越え、日本の再生を牽引する~(平成23年12月)」で「大径木再生大作戦」事業を打ち出し、大径木を『元気で生き生きとした街路樹』に再生していくこととしている。

 さらに、「平成26年度 大径木再生指針」には次のような記述がある。

 「街路樹の中には、東京の顔、地域の顔として親しまれているものも多い。また、東京都が街路樹管理を担う前から存在する樹木については、地域住民の関心の深いことが多い。こうした街路樹については地元住民等の意見に十分留意する必要がある。街路樹についての住民の意見は一つとは限らず、例えば直近の住民は落葉などの問題とも関係して伐採や更新に理解を示す一方、やや離れた場所の住民や一般通行者は伐採や更新に反対するといった場合も少なくない。このような傾向は景観的、歴史的価値の高い街路樹を抱える地区や、近隣住民の街路樹への関心や思い入れの強い地区ではいっそう強くなることが多い。

 このような地区における街路樹の管理については、個別・地域的な事情に充分配慮しながら計画的に行うことが必要不可欠であり、『街路樹防災診断』の結果からそのまま措置方法を決めるのでは不十分である。個別・地域的な背景にも留意して措置方法を検討する必要がある」

 また伐採や剪定がスムーズに行われている例として、住民協議会、杉並区、東京都の三者による「中杉通りケヤキ並木連絡会」をあげ、「丁寧な事前説明、意見聴取や管理の試行を行って地元住民の理解を得ることにより、安全等の観点から必要な伐採や剪定がスムーズに行われている」としている。

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よく管理されている「白山通り」の街路樹と植栽枡

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水道橋駅に近い「白山通り」

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伐採されるイチョウ

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都のお知らせ看板

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