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2024/01/28(日) 21:38

住宅団地再生 産・官・学・民連携を 大和ハウス 講演会に630人参加

投稿者:  牧田司

 大和ハウス工業は1月27日、主催:高齢者住宅財団・高齢者住宅協会の共催として「団地再生シンポジウム」を奈良県にある同社グルーフみらい価値共創センター「コトクリエ」で開催した。住宅団地の現状と課題を明確にし、住民、有識者、企業人による対話を通じて、持続可能な住宅団地の実現を目指した解決の糸口を探るのが目的。オンライン視聴者310人を含む約630人が参加した。記者はオンラインで視聴した。

 講演会の冒頭、国土交通省近畿地方整備局長・見坂茂範氏がわが国の住宅団地は約3,000団地あり、全人口の15%が居住しており、多くが50年を経過し建物と居住者の高齢化が進み、空き家も発生していることから、行政、有識者、産業界が連携して団地再生に取り組むことが重要と挨拶した。

 この後、国土交通省大臣官房審議官(住宅局担当)・宿本尚吾氏と、東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授・大月敏雄氏、大和ハウス工業リブネスタウン事業推進部東日本統括グループ長・作田千佳氏がそれぞれ講演。

 宿本氏は、「大和は奈良県だからと思っていましたが、そうではなかった。ネオポリス幼稚園もあった」などと、自ら奈良市学園大和町生まれであることを紹介。住宅団地の現状については、少子高齢化の影響が顕著に表れており、用途規制が厳しいことなどの課題があると話した。住宅市場の現状と課題、方向性については、住宅団地はインフラが整っているところが多く、二地域居住、テレワークなど新しい住まい方、多様な働き方、新技術、DX、リフォーム、・リノベーションなどを触媒として化学変化を起こすことに期待したいと述べた。地域再生法により資金面の応援も行っていくと語った。

 大月氏は、住宅生産振興財団主催の「住まいのまちなみコンクール」の審査委員を第4回から務めており(第16回から現在の19回まで審査委員長)、表彰を100回、その数倍のインタビューをこなしてきた経歴を示し、具体的事例として2017年から関わっている八王子市めじろ台の再生を紹介。団地憲章からマスタープラン作成、多世代交流拠点、コミュニティカフェなどの居場所の開設などを支援してきたことを話した。今後は企業にも働きかけていく予定だという。

 作田氏は、同社が過去に開発した60か所の大規模住宅団地「ネオポリス」の団地再耕に向けた「リブネスタウンプロジェクト」を2014年から8団地で行っていることを紹介した。

 講演会の後では、同社代表取締役社長・芳井敬一氏も参加して「ネオポリスサミット2024~ネオポリスの再耕に向けて~」が開かれ、翌日28日には「コトクリエ」見学会も行われた。

◇        ◆     ◇

 八王子市めじろ台は何度か取材したことがある。京王不動産が中心となって開発した100ha以上の京王線めじろ台駅周辺に広がるニュータウンだ。市内では昭和40年代から60年代前半にかけて大規模住宅開発がたくさん行われていたが、駅から徒歩圏の住宅地はここしかなかったことから人気を呼んだ。バブル期には価格は1億円を超えたのではなかったか。現在は、65歳以上の高齢者の人口比率は4割を超え、他の団地と同様の様々な課題を抱えているようだ。大月氏の講演は団地再生に関わる関係者にとても参考になったのではないか。

 作田氏の講演では、「最初は(話を持ち込んでも)戸惑いを見せる方も多く、何度も足を運び、現地に泊まったり住むようにしたりするうちに心を開いてくれるようになった」旨の話をしたのが気になった。

 なぜか。居住者に戸惑いを覚えさせる理由がある。デベロッパーの〝顧客優先〟は空念仏で、〝事業離れ〟という言葉が業界にあったように、どれだけ多くの戸数をどれだけ短期間に販売するかが問われた時代だった。居住者にしてみれば、手助けをしてほしいときには何もしてくれず、もう先が短い年寄りを相手にまた一儲けを企んでいるのかと疑心暗鬼に陥るのは当然だ。

 もう一つ、喫緊の課題であるはずの団地再生が進まないのは、支援体制が整っていないからだ。国土交通省の報告によると、「住宅団地」は、管理組合のようなまち全体の様々な課題を考える主体がなく、再生に向け動き出すきっかけづくりが難しいことなどから、何らかの再生の取り組みを実施している100ha以上の大規模住宅団地(全国496件)は約2割(95団地)しかないことが報告されている。業界内では平成10年あたりから再生の取り組みが必要と言われていた。

 だが、リブネスタウンプロジェクトは始まったばかりだ。苦労は伴うだろうが、粘り強く訴えれば、いつかは心を開いてくれるはずだ。全国の団地再生モデルになるよう頑張ってほしい。

 それにしても他のデベロッパーはどうしているのだろう。約3,000か所の住宅団地の事業主体はUR都市機構(旧日本住宅公団)や都道府県住宅供給公社などの公的機関が約半数、残り半数は民間だ。記者は同社以外に団地再生に名乗りを上げている企業を寡聞にして知らない。SDGsの目標12の「つくる責任 つかう責任」はどこにいったのか。等閑視などしていられないはずだが…。

 再生モデルはある。記者が「奇跡の街」と呼ぶ山万の「ユーカリが丘」だ。京成上野駅から約1時間、開発面積約250ha(予定含む)、世帯数約8,100世帯、人口約19,000人の街だ。1971年に開発を着手してから53年を迎えたが、まだまだ発展途上。人口は増え続けている。〝千年優都〟をテーマに掲げ、この先50年を見据えた新たな約100万坪の「ミリオンシティ構想」を打ち出している。

 同社は、大阪発祥の総合繊維卸売業だが、昭和39年に本社を東京に移転したときから退路を断ち、開発業に専念している。他のエリアでマンションなどを分譲することもあるが、年商102億円(令和4年)はほとんど「ユーカリが丘」のはずだ。社員122人(同)の相当数が「ユーカリが丘」に住んでいるとも聞いた。

 大月氏は「来年も…」などと話した。どうやら毎年「コトクリエ」で団地再生サミットを同社は開催するようだ。今回は真冬なので取材を断念した。開催時期は爛漫の春か、万葉集に詠まれている秋の七草などが花咲く秋にしていただければ参加するのだが…。

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