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2021/08/31(火) 17:38

〝夜明け〟はやってくるのか〝再耕〟は可能か 大和ハウス 団地再生勉強会

投稿者:  牧田司

 大和ハウス工業は8月30日、わが国の郊外型住宅団地の現状と課題、今後の展望などを探る「郊外型住宅団地再生」をテーマとした第15回「業界動向勉強会」をオンライン形式で行った。

 各地の団地再生プロジェクトに関わっている東京大学大学院工学系研究科建築学専攻教授・大月敏雄氏が「郊外型住宅団地再生について」と題した講演を行ったほか、同社上席執行役員 リブネスタウン事業推進部長・原納浩二氏などが登壇し、同社の取り組み姿勢や事例などを紹介した。

 大月教授は、全国の先進的な成功事例を紹介するとともに、山万の「ユーカリが丘」は例外としながら、かつての開発手法であった「つくり逃げ」「売り逃げ」「焼き畑」などについても言及。「終わりのない」団地再生の道のりは平たんではないが「夜明け」はやってくると締めくくった。

 原納氏は団地再生が急務になっている社会背景について、住宅ストックは世帯数をすでに上回り、世帯数は2023年をピークに減少に転じ、2033年に住宅ストックの約9.4%、約650万戸が活用されないと予測されていることや、地価下落、少子高齢化、都市部への人口集中、空き家空き地の増加などの社会課題が山積していることを指摘した。

 同氏はまた、1962年から「ネオ(新しい)+ポリス(都市国家)」を全国で61か所、総開発面積3,114ha、総区画数67,884区画を開発した開発者責任として、ネオポリスを「再生」するのではなく、再び「耕す」ことで社会課題を解決する「リブネスタウンプロジェクト」を同社の重要なSDGs戦略として位置づけており、今年4月1日には「リブネスタウン事業推進部」を立ち上げたと説明。

 先行して取り組んでいる「上郷ネオポリス(横浜市)」(1972年開発、700区画)と「緑ケ丘ネオポリス(三木市)」(1971年開発、5,600区画)に加え、「阪急北ネオポリス (兵庫県川西市)」(1974年開発3,950区画)、「阪南ネオポリス(大阪府河南町)」(1972年開発2,360区画)、「豊里ネオポリス(三重県津市)」(1977年開発2,300区画)、「加賀松ヶ丘団地(石川県加賀市)」(1976年開発1,460区画)、「所沢ネオポリス (埼玉県所沢市)」(1970年開発483区画)、「取手北ネオポリス(茨城県つくばみらい市)」(1979年開発382区画)の8か所でまちづくりモデルを展開すると語った。

◇      ◆     ◇

 バブルが崩壊するまでは「土地神話」を信じて疑わなかった記者は、バブルをあおった一人として責任を感じており、大規模郊外ニュータウンの再生には大きな関心を持っており、取材も行ってきた。

 今回講演された大月教授もそうだが、多くの先生は自らが先頭に立ってフィールドワークを行い、団地再生に取り組んでおられる。東京藝術大学准教授・藤村龍至氏は故郷・埼玉県の疲弊する「鳩山ニュータウン」を見るに見かね、誰も手を挙げなかった鳩山町コミュニティ・マルシェの指定管理者に名乗り出たほどだし、「上郷」再生にもかかわった明治大学教授・園田眞理子氏はそれかあらぬか、生まれ変わったように髪の毛が真っ白になられた。頭が下がる。

 原納氏もまた「開発責任」を口にされた。大月氏も指摘したが、デベロッパーの「売り逃げ」「事業離れ」は死語になっていないはずだ。それを実践していたらマンションも戸建て団地もここまでひどくなっていなかったに違いない。

 だが、しかし、大月氏と原納氏の話はあまりにも楽観的に過ぎる、というのが記者の率直な感想だった。

 再生可能なのは、同社が開発したような当初から良好な住環境が整備された限られた団地で、全国に3,000団地あるといわれる郊外大規模団地はそんな恵まれた条件のものはむしろ少ないのではないか。

 極端な例かもしれないが、記者は10年前、昭和40年代半ばに開発された都心から50キロ圏の約1,800戸の団地を見学取材したことがある。1戸当たりの敷地面積は約20坪、建物は15坪だ。前面道路幅は4メートルあるかどうかだ。開発業者はバブル崩壊前に破綻している。

 見学する前に恐れていた惨状を目の当たりにして言葉も出なかった。人口は半減し、55~65歳以下の予備軍も含めれば高齢化比率は49%に達し、限界集落そのものだった。空き家(物置)・駐車場だらけで、出来損ないの歯抜けのトウモロコシ状態だった。

 あまりにも悲惨な状態だったので、記事は場所・団地名が分からないように書いた。居住者や地域の方に迷惑を掛けたくなかったからだ。記事にはアクセスが殺到し、場所を教えてほしいという問い合わせも相次いだが、小生は沈黙を貫いた。今でもその場所を特定した人はいないはずだ。

 そんな経験をしているので、「一部の恵まれた団地以外の再生など絶望的ではないか」と質問した。原納氏は「そうは思わない。国土交通省は本格的に取り組み始めたし、(土地の)所有責任を問う自治体も増えている。時間も体力(資金力)も必要だが、知恵を出し合えばそのような団地でも再生は可能」と語った。

 この回答に勇気をもらったような気もする。もう少し涼しくなったら、またこの団地を訪ねレポートしたい。〝楽観的に過ぎる〟という感想が訂正でき、その団地名を公表できればいいのだが…。

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