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2024/03/28(木) 00:03

セーフティネット登録住宅90万戸の96%は1社に集中 氷解した疑念と深まった謎

投稿者:  牧田司

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ROOFLAG

記者はずっと分譲マンションや分譲戸建てを取材してきたからでもあるのだが、賃貸住宅にはいいイメージを持っていない。入居者がもっとも大切な顧客であるはずなのに、敷金、礼金、原状回復など時代遅れの商習慣を墨守し、大家・投資家の利回りを優先し、コストを下げるために居住面積を圧縮し、遮音・断熱などあらゆる基本性能・設備仕様レベルを落とす(だからこそマンションが売れるのだが)。あろうことか、高齢者を理由に入居を断る。レオパレス21の不祥事で賃貸業界への疑念は頂点に達した(この会社は好きになれず、一度も取材したことがないのは幸いだった)。

 その賃貸事業分野で断トツの大東建託も取材したことはこれまでほとんどなかった。発祥は名古屋なので、わが故郷・三重県の三交不動産などと共に応援したい気持ちはあったが、取材の間口を広げようとは思わなかった。

 ところが先日行われた、大和ハウス工業と同社との賃貸住宅の「災害における連携及び支援協定」締結発表会を取材して、同社の見方を修正しなければならないと思った。同社代表取締役社長執行役員・竹内啓氏は、有事に備えた防災訓練を日ごろから行っていると語った。その取り組みは半端でなかったからだ。

 竹内氏の話を聞きながら、後述する住宅セーフティネット制度のことが頭をよぎった。その場で取材を申し込んだ。この日(322日)実現した。場所は、同社の賃貸住宅未来展示場「ROOFLAG」だった。約1時間半、施設を見学し、セーフティネット住宅について大東建託パートナーズ事業戦略企画室メディア戦略課次長・宍戸敏之氏に話をきいた。同社に対する疑念は払しょくされたが、セーフティネット制度に対する疑問、謎はより深まった。

 まず、同社に対する見方から。「ROOFLAG」は、東京メトロ豊洲駅から徒歩11分、江東区東雲一丁目に2020年に完成した木造&RCの混構造4階建て本棟と、木造(2×4工法&CLT)モデルハウス2棟から構成されている。

 本棟アトリウムの天井には国内最大級という三角形のCLT屋根が張られていたのには圧倒された。枚数は128枚、体積は500㎥という。展示室にはCLTの模型もあった。このほか同社の理念・顧客主義などを紹介するコーポレートゾーン、歴史を紹介するヒストリーゾーン、ラウンジなどを見て回った。

 CLT2×4のモデルハウスは、木の素材をふんだんに用いたオーナーズモデルルームや16×16サイズの浴室も提案するなど分譲仕様の提案も行っている。断熱、遮音など構造に力を入れていることが一目瞭然の仕掛けも施されている。

 この時点で、同社に対する疑念は取り払われ、全国に617拠点(2024年4月)を張り巡らせ、賃貸住宅完工が41,238戸/年、賃貸仲介件数23,877件/年、賃貸累計管理戸数1,230,339戸、入居率98.0%(2022年)など圧倒的数字を誇る理由が少しは分かった。

 本題のセーフティネット住宅について。宍戸氏は「319日現在、全国の登録戸数は895,982戸に対して、当社の戸数は855,483戸、比率は95.5%。当社管理建物情報は、国土交通省の協力のもと、毎月25日前後にシステム通じて各自治体への申請(登録・変更)を行っています。賃貸住宅の仕様や性能は、国が定めた基準に沿って決定していますが、当社は、35年間サブリースで管理・運営を行っているため、35年間入居者様に選ばれ続ける建物にする必要があります。それが空室リスクの低減にも繋がることから、一定水準以上の建物性能は必要であるということを、オーナー様にご説明しています。また、マーケティングデータに基づき、社内基準に則り物件の立地ごとの事業性をきめ細かく見極めてオーナー様にご提案しているので、立地や地域性によって一概にパターン分けされるということでもありません。入居審査においては、当社の社内審査チェックに通れば高齢者や外国人、障がいを理由に差別することはありません。敷金もなく、ハウスクリーニング代金として46万円をお預かりしますが、高耐久仕様にしているため、退去時の原状回復はこの範囲内でほとんど収まっています。高齢入居者様のご逝去や、残置物の処理なども相続人の協力を得ながら問題なく対応しております。入居者様の属性の公表については、国からの要請があればご協力させていただきます」などと語った。

 同社の登録件数が群を抜くのは、国の依頼があり、国の基準に適合させたのだろうと思ってきたが、事実は違ったようだ。同社が当たり前のように行っていることを同業の他社はやらない-この後進性はいつになったら改められるのかという問題は残った。

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ROOFLAG」内観

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ROOFLAG」モデルハウス(CLT)

           

「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律(住宅セーフティネット法)」の一部を改正する法律が施行されたのは平成2910月。住宅確保要配慮者の入居を拒まない賃貸住宅の登録制度の創設登録住宅の改修や入居者への経済的な支援住宅確保要配慮者に対する居住支援-この3つを柱とするもので、大きな期待が寄せられた制度だ。

 ところが、登録住宅は最初から伸び悩み、2度にわたる登録促進策を施したにもかかわらず、令和元年12月末時点の登録戸数は全国で27,056戸にとどまっていた。そこで普及促進策の第3弾として令和23月、業界団体連携による一括申請(データ連携型)が導入されてから増え始め、20212月末には30.2万戸に増加し、2020年度末までに全国で175,000戸登録という政府目標を大幅に上回った。令和6319日現在、登録住宅は895,982戸となっていることは前段で紹介した。

この数値だけ見ると爆発的な増加だが、率直に喜べない事情がある。上段でも紹介したように、この895,982戸の登録住宅のうち大東建託パートナーズを通じた登録住宅の比率は95.5%だ。同社登録を除くと戸数は約4万戸だ。(空き家活用を想定した)住宅確保要配慮者専用住宅は202312月末時点で5,778 戸(登録住宅の0.7%)しかない。登録住宅の空室率2.3%は大東建託パートナーズの数値そのものだ。

この現状をどう見るか。昨年7月、厚生労働省、国土交通省、法務省による第1回「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会」(座長:大月敏雄・東京大学大学院工学系研究科教授)が行われた。

 記者は、大東建託パートナーズのみに依存、偏重している現状について各委員から声があがると期待していたのだが、誰一人として声をあげなかった。その時点で検討会の視聴をやめた。肝心要の住宅確保要配慮者とは居住支援とは何かの本質的な議論はされず、山積する様々な課題にどう対応するかに論議が終始すると読んだからだ。

検討会はその後、12月まで5回開かれた。その5回目の会合で「居住支援とは何ぞやという話が第2回目の検討会の最後ぐらいで出てきていました。結局、居住支援ってよく分からないという話になって、それぞれの立場でイメージがずれているという話もそうなのですが」と発言された委員がいたが、それ以上の論議はされなかった。平山洋介・神戸大学大学院人間発達環境学研究科教授(当時)の著書「マイホームのかなたに」(筑摩書房、20203月刊)で平山教授が指摘した「留意すべきは、多彩な『カテゴリー』を『列挙』すればするほど、住宅セーフティネットの対象が『特殊』で、その構築が普遍性を持つ施策ではないことを示唆する効果が生まれる点である。住宅確保要配慮者の長大なリストの作成は、住宅困窮の範囲を拡大するのではなく、むしろ狭め、セーフティネット政策に『ピースミール・アプローチ』を当てはめる意味を持つ」(233ページ)の通りだと思った。

そして今年2月、中間とりまとめが発表された。とりまとめは「国土交通省、厚生労働省及び法務省においては、本中間とりまとめや関連する制度の諸課題を踏まえ、具体的な見直しに向けて必要な検討を進めるべきである。その際、地域における住宅セーフティネットの機能を強化するため、地方公共団体、不動産事業者、居住支援法人、社会福祉法人、社会福祉協議会、地域生活定着支援センター、NPO、更生保護施設等多様な主体が協働して取り組む仕組みの構築にも資するよう、制度、補助、税等幅広い方策について充実や見直しの検討を進め、可能な限り早期に実施するよう、各省が連携して取り組むべきである」と締めくくっている。-この通りなのだろう。しかし、平山教授が指摘するピースミール・アプローチ=対症療法的な手法では住宅困窮者は救われないような気がする。

◇             

セーフティネット住宅情報提供サイトで東京都の物件を検索したら、ある区の駅近の築35年のマンションの1フロア延べ床面積51.38㎡を対象とした共同居住型住宅(シェアハウス)3室がヒットした。専用面積8.299.95㎡(2.53.0坪)、家賃7.3万~7.6万円(坪賃料2.5万~3.0万円)、敷金3万円、礼金なし。便所、洗面、浴室、台所、収納、洗濯室居室内にはなく、約24㎡のスペースで共有利用する。

 入居対象は女性限定で、低額所得者(生活保護者以外)、被災者、外国人、生活困窮者、犯罪被害者等、DV被害者、児童虐待を受けた者、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー)、UIJターンによる転入者などで、ほとんどすべての入居者対象要件を満たしているが、家賃の額が近傍同種の住宅の家賃の額と均衡を失しないことの要件との整合性は欠いていないのか。この種のシェアハウスは他にも結構ある。

同じ区内には、豪華な2階建て延床面積105㎡で、家賃21.0万円(坪賃料約7,300円)もあった。 

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