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2021/07/12(月) 17:25

激増セーフティネット住宅 1年で政府目標の2.8倍 大東建託がけん引/必読の平山論文

投稿者:  牧田司

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 7月6日付「週刊住宅」がセーフティネット住宅について次のように報じた。

 「当初政府は20年度末までに全国で17万5000戸の登録住宅確保を目指すとしていたが、本紙の取材で、21年度6月末の段階で登録数は47万8102戸と予想を大幅に上回っていることがわかった」

 最近の同紙はニュース・リリースのオンパレードで、独自取材記事などほとんどないのでびっくりした。

 登録数増加の背景としては、「現在空き家の数が過去最高の846万戸(2018年住宅・土地調査統計)に上っていることが挙げられるが、一方で、シェアハウスに関しても基準を満たしていれば賃貸物件として登録が可能になったこと、また、高齢者の入居支援を行うNPOや社会福祉法人、さらに関連業務を行う企業も『居住支援法人』として都道府県から認められたことが大きい」としている。

 なるほど、そうかもしれない。しかし、同紙は政府目標をはるかに上回る戸数に伸びたその具体的な理由については触れていない。同制度の普及に国土交通省などが力を入れてきたことは理解できるのだが、常識的に考えればそんなに一挙に伸びるはずはないし、空き家の増加は今に始まったことではない。コロナ禍とはいえ、住宅困窮者向けの申請もまたそんなに激増することなどありえないではないか。

 そこで、裏に何かが隠されていると直感し、セーフティネット登録住宅の推移を調べた。別表・グラフがそれだ。その激増ぶりは目を見張るものがある。平成30年11月では全国で4,448戸しかなく、令和2年4月の段階でも約3.0万戸だったのが、同7月には約6.0万戸へと倍増し、同11月には約13.6万戸へとさらに倍増し、令和3年2月には約30.2万戸へと一挙に政府目標を達成すると、同7月には約48.2万戸へ政府目標の実に約2.8倍に達した。同紙は「本紙の取材で…分かった」としているが、同制度の登録件数などはセーフティネット住宅情報提供システムで誰でも自由に閲覧できるから、実際は取材で分かったのではなく、取材してこなかったから〝知った〟というべきだ。(かくいう記者も同様だ)

 なぜ、そんなに増えたか。国土交通省は「法改正当初はなかなか認知されなかったが、その後、普及活動に力を入れ、公共団体とも連携し、申請にかかる手数料を減免し、煩雑だった申請手続きの簡素化などを図ったのが大きな背景」としている。

 東京都と埼玉県にも聞いた。東京都は、昨年の今ごろは二千数百戸しかなかったのが現在約4.1万戸に増加したことについて「大東建託パートナーズさんの申請があったため」と答えた。令和元年度末では800戸弱だったのがいまは約4.5万戸に増加した埼玉県は「特定の法人の申請がたくさんあったため」としている。なぜ増加したかについては、双方からは「申請が増えたため」と木を鼻でくくるような回答しか得られなかった。

 しかし、「大東建託パートナーズ」という具体的な名前が得られたのは大きな成果だった。さらにネットで検索したら、凄いデータに突き当たった。

 全国借地借家人組合連合会の2021年5月15日付の全国借地借家人新聞だ。それには「平山(洋介)神戸大学大学院教授は国交省の登録住宅のインターネットに掲載されている『セーフティネット住宅情報システム』から、住宅セーフティネット登録住宅の実態について分析し、日本住宅会議会報2021年111号に発表しました」とあり、「登録住宅21万7308戸(2月5日現在)の実に85%は大東建託の物件で、ビレッジハウスが9.8%を占めています」とあるではないか。

 つまり、「昨年まで低迷していた登録住宅が大東建託の物件の大量登録で国の目標を一気に超過達成」した理由であることを平山教授が突き止めたというのだ。

 記者は2018年11月、東京都の登録物件を全部調べ、現地取材も行い、ずさんな審査(失礼)と億ション並みの家賃設定に批判的な記事を書いたが、平山教授は全国の21.7万件を全て調べたというから脱帽する以外ない。

 平山教授からは、「世界」2021年5月号に掲載された「これが本当に住まいのセーフティネットなのか」と題する8ページに及ぶ論文を送っていただいた。そこには「『住宅セーフティネットとは大東建託物件のこと』といっても、それほど過言ではない」とあり、住宅確保要配慮者のみを対象とする専用住宅は、登録住宅全体のわずか1.3%しかないと指摘し、「住宅セーフティネットは-少なくとも現在の制度では-住宅困窮への対応に関し、ほとんど役に立ちそうにない」と結論づけている。

 これには頭をどやされた。関係者の皆さんもぜひ「世界」5月号を買って読んでいただきたい。これを読まずしてセーフティネット住宅を語れない。必読の論文だ。ただ一つ、論文で気掛かりなことがある。住宅確保要配慮者のみを対象とした専用住宅は、なんだか姨捨山のような施設のイメージしか湧いてこないことだ。集合住宅を含めた街というものは、お金持ちも貧乏人も年寄りも若い人も健常者も障がい者も一緒に住めるのが本来の姿だとずっと前から考えてきた。画一的な街づくりやマンションの失敗例をたくさん見てきた。専用住宅の増加は手放しで喜べない。

 「いい部屋ネット」で全国展開している大東建託は、「当社の2020年3月末時点における居住用の管理戸数113万218戸が、(週刊「全国賃貸住宅新聞」)が調査した管理会社1,083社の中で第1位となりました。当社は、同ランキングにて1997年から24年連続で第1位を獲得」(同社ホームページ)している賃貸管理トップ企業だ。同社にはどうして申請が増えたかを問い合わせ中だ。回答が得られれば記事に追加する。

 平山教授が喝破したセーフティネット住宅の現実を突きつけられると、低所得者や被災者、高齢者、障がい者、子どもがいる世帯、その他住宅確保要配慮者が差別されない良質で安価な住宅が供給されるのは夢物語に過ぎないのか-「週刊住宅」には気づかせていただいたことには感謝するが、もっとしっかり取材していたら「シニア住宅にビジネス好機」の見出しは付けられなかったはずだ。小生もそうだが記者は〝全て疑ってかかれ〟というのが基本だ。

坪3.5万円!億ション以上 現地見ずに家賃判断 審査は適正か セーフティネット住宅(2018/11/9)

 


 

 

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