角を矯めて牛を殺すことにならないか総合設計制度改正
旭化成ホームズは10月29日、渋谷区の「宇田川町住宅」の建て替え事業「アトラス渋谷公園通り」が竣工したのに伴い、報道陣向けに見学会を行った。
物件は、渋谷駅から徒歩5分、渋谷区宇田川町3の敷地面積約870㎡の商業地域に位置する13階建て49戸(店舗1)。専有面積は約33~104㎡。坪単価は420~430万円。
従前建物は、昭和36年に竣工した東京都住宅供給公社が分譲した店舗併用マンションで、地下1~3階を同公社が所有、住戸(約58㎡)は4~7階で全16戸。エレベータはなし。
平成15年から建て替えの計画が進められたが、合意形成ができず検討がストップ。同18年、有志が同社の建て替えセミナーに参加したことがきっかけで再び建て替えの検討が始まり、同21年6月、同社が事業協力者としてプレゼンを行った3社の中から選定された。同22年9月、全員同意で建て替え決議を行い、同年12月、組合員全員が再取得することが決まった。
同社は当初、建基法案と総合設計案を提示したが、平成22年に都の総合設計制度改正が行われることになっており、適用の可否、容積率の割り増し、公開空地の確保や非住宅面積の制限が厳しくなることなど上に伸ばすメリットがなくなったとして断念した。
また、同社は、権利者が17人と少ないことから、複数の議決権を持つ権利者が建て替え決議に大きな影響を及ぼすこと、商業立地の店舗併存マンションは更地での売却、商業ビルへの建て替えのほうが「最有効活用」となる場合が少なくないこと、テナントとの交渉に時間がかかるなどの課題もあると説明した。
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計画は聞いていたが、坪単価420~430万円で分譲済みとは知らなかった。同じ公社住宅の建て替えマンションとして話題を集めた「渋谷美竹」より少し遅れて分譲された。こちらは「公園通り」に面しており、隣は東武ホテル、その先は渋谷区役所、NHKなどがある一等地。記者は坪単価500万円でも売れるのではないかと思った。リーマンショック前では坪500万円のマンションが近くで分譲されており、高額を除き人気になった。
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総合設計制度を活用しなかったというのも驚いた。都は平成22年に同制度を改正。単に公開空地の面積の確保だけでなく、緑化率などの質や住宅の質、環境性能などが問われるようになった。
今回のマンションは敷地面積が小さく要綱が改正される前で、その概要が明確でなかったために同制度の活用を見送ったようだ。しかし、総合設計制度は良好な街づくり、住宅供給を促すための制度だ。権利者が基準法を選択したほうがいいと判断される要綱改正は、制度の趣旨からしていかがなものか。
都の総合設計制度の適用案件は毎年20~30件あったが、要綱が改正されたあとの平成23年度も24年度もそれぞれ3件しかないのは気になる。角を矯めて牛を殺すことにならないのか。