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2013/11/09(土) 13:27

マンション価格上昇は序の口 竣工時期の平準化取り組み急げ

投稿者:  牧田司

 「当社は相対取引ができる計画的な大型案件が中心で、闇雲に用地争奪戦に加わるようなことはしない。第2四半期の決算数字を見る限りでは建築費の上昇は顕在化していない」-三井不動産の決算説明会で、同社の経理部経理グループ長・富樫烈氏はこう語った。

 しかし、その一方で「業界では職人さんの引き抜き合戦が始まっている。待遇を改善するなどして安定的に職人さんを確保することが課題となってくる。価格に転嫁しなくても済む努力が必要」(旭化成ホームズ・平居正仁社長)「郊外部では坪150万円以下では難しくなってきた。職人不足は深刻で、リーマン・ショック前の『新価格』どころか、ゼネコンが積年の恨みつらみを晴らす『倍返し』価格になるかもしれない」(あるデベロッパー)「建築費は上がるし、大手は設備仕様を上げているので、われわれ中堅は苦しい。大手の一人勝ちになるのでは」(ある中堅デベロッパー販売責任者)など、先行きの建築費・価格上昇を懸念する声が噴出している。

 記者も最近の価格上昇は序章、序の口に過ぎないと思う。マンションの単価は2~3年前までは、「えっ、こんなに安くできるの」という物件がかなり見られたが、最近、とくに今秋の物件は「えっ、そんなに高いの? 」と驚く物件ばかりだ。

 今後10年間で200兆円の規模でインフラなどの基盤整備を進めるという「国土強靭化」を背景に震災復興に伴う公共工事、東京オリンピック、リニア、都市再開発などが目白押しだ。リニア建設費は10兆円と言われているし、これから本格的に始まる復興区画整理事業は56カ所で総面積は3,000haを越える。数千億円規模だ。ビッグプロジェクトに大量の土木・建設技能労働者が投入されれば、中小規模マンションなどははじき出されるのは火を見るより明らかだ。土地の仕入れはしたものの、着工が出来ないという「在庫倒産」も出てくるのではないか。

 そのような事態を避けるため、竣工時期の平準化は喫緊の課題だと思う。前出の三井不動産の場合、第2四半期のマンション計上戸数は1,555戸で、通期計上予定の6,450戸に対する割合は24.1%でしかない。富樫氏は「たまたま今期は下半期に竣工・引渡しが集中したため」と説明したが、マンションの竣工が期末に集中するのは常識だ。

 そこで、現在分譲中のマンション200物件の竣工時期を調べてみた。もっとも多いのが2月で45物件、以下、3月32物件、1月24物件、11月22物件の順だ。もっとも少ないのが5月の6物件だった。四半期ごとでは第4四半期が104物件(52.0%)と過半数に達し、以下第3四半期49物件(24.5%)、第1四半期24物件(12.0%)、第2四半期23物件(11.5%)となっている。

 下半期に竣工・引渡しが集中しているのは、購入者の入居希望時期と密接な関係がある。単身者やDINKSはともかく、子育て世帯にとっては子ども転校は学年途中は避け、年度初めの進級時に行ないたいという親心が働き、デベロッパーもその意向を汲んで竣工を年度末に集中してきた経緯がある。

 竣工時期と売れ行き、企業規模や施工会社などとの相関関係を分析しないといけない部分があるが、下期に竣工することがマンション単価を引き上げる要因になっているのは間違いない。

 この問題について、三井不動産レジデンシャルはすでに手を打っているようで、今年4月、建築工事発注機能を強化するため「建設統括部」を新設した。三井不動産グループの三井ホームも「工期の平準化に力を入れていく」(市川俊英社長)という。

◇     ◆   ◇

 同時に進めなければならないのは、建設業が抱える重層下請け構造の改善だ。

 建設労働者は景気の安全弁的な役割を背負わせていることから、賃金が抑えられ、若年入職者が激減している。建設技能労働者52万人のうち60歳以上は約18%にのぼり、10年後には大半が引退するといわれている。京都工芸繊維大学准教授・矢ケ崎善太郎氏は「日本の職人たちの技は世界に誇る無形の文化財でもある」と語ったが、現実の待遇はまるで正反対だ。

 この命題はなんとも皮肉なパラドックスとしてわれわれに突きつけるが、関係者は知恵を絞って明解な解答を導き出して欲しい。

 

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