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2014/02/10(月) 17:25

内閣府 女性の活躍「見える化」サイトが提起した問題点

投稿者:  牧田司

 マスコミ各紙が報じたように内閣府は1月31日、企業での女性の活躍を推進していくため、各企業の取り組みの現状を投資家、消費者、就活中の学生などに「見える」ようにする「女性の活躍『見える化』サイト」を公開した。

 役員・管理職への女性の登用、産休取得者などに関する情報を業種別に整理して公表した。公表している企業数は上場企業3,552社中1,150社(32.4%)。

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 不動産業で公開しているのは115社のうち28社(24.3%)。公開率は全33業種の中でもっとも低いガラス・土石の20.6%、その次の証券・先物取引の23.8%に次ぎ下から3番目だ。

 マンションや戸建ての最大のテーマが「子育て」「働くママ」である業界が、自らの会社の女性の活躍の状況を公開しないのは情けない。記者がこれまで取材してきた各社の女性はみんな素晴らしい活躍をしている。これを機会に積極的に公開することを期待したい。

 ただ、公開されている「管理職」の定義は、「部下を持つ職務以上の者、部下を持たなくてもそれと同等の地位にある者を指す」とあるのみで、この条件を満たすかどうかの判断は各企業にゆだねられている。いわゆる「名ばかり管理職」の問題については不明だ。

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 サイトは、東洋経済新報社が発行する「2014CSR企業総覧」に掲載されている情報に、内閣府が2013年10月~12月に実施した調査の結果を追加したものだ。

 記者はこのサイトを記事にしようと思ったが、【留意事項】が事細かに記載されていた。①本データ(内閣府の調査により収集したデータを除く。)の著作権その他の権利は東洋経済新報社に帰属する②本データの利用者は、本データを利用者自身の使用目的以外に利用しないでください③形態の如何、また加工の有無を問わず、本データの一部または全部を第三者に譲渡、転貸、提供しないでください④第三者の利用に供する目的で本データの一部または全部を引用、複製、改変しないでください-などというものだ。「許可を得れば可能」などの記載もない。

 つまり、閲覧は自由だが、得た情報は形態の如何を問わず第三者に提供してはならないというのだ。これを破れば当然著作権法などに触れる。

 しかし、この留意事項はいかがなものかと思う。サイトを公開する目的は、資本市場にも女性の活躍を促そうというものだ。著作権法でも、広く国民に周知されるべき憲法やその他の法令、国や自治体など公的機関の発する通達などは著作権の対象外としている。

 さらに、著作物の引用についても同法では、①公表された著作物は、引用して利用することができる。引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。国や地方公共団体が一般に周知させることを目的として作成し、公表する広報資料、調査統計資料、報告書などは、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない(第32条)③新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない(第39条)-などとしている。

 今回公開されたサイトの留意事項と著作権法を照らし合わせると、留意事項に違法性はないものの、サイト公開の主旨や「著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与することを目的とする」著作権法の目的にも合致しないのではないか。

 よって、「引用」しても問題にはならないはずだが、〝人の…で相撲〟も取りたくないのでサイトにどのようなハウスメーカーや不動産会社が情報を公開しているかについては触れない。

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 内閣府のサイトや東洋経済の「CSR総覧」に頼らなくても、女性の活躍を「見える化」しているハウスメーカーや不動産会社は少なくない。

 例えば東証「なでしこ銘柄」に住宅・建設業界から唯一選定されている積水ハウス。同社はCSRレポートで2008年から2012年の間に女性の管理職比率は0.56%から1.21%へ増加していることなどを報告している。

 「世界で最も持続可能な100社」に選ばれている大和ハウス工業もしかり。同社の2013年度の女性社員は2005年度比1.4倍(2,371人)、主任は2.5倍(325人)、管理職は5.8倍(47人)に増加したと報告している。

 住友林業は、わが国ではベネッセ、丸紅、Panasonic、TOTOとともに世界的なSRI 評価会社であるRobecoSAM社のCSR格付けで2年連続して「Gold Class」に選ばれたが、CSRレポートで詳細な社員関連データを報告している。

 三井不動産グループも、日本橋の「三井二号館」に事業所内保育所「キッズ スクウェア日本橋」(定員50人)を開業しており、「& EARTH REPORT 2013」で、育児支援、介護支援、ワークライフバランス実現支援などについて報告している。

 コスモスイニシアの女性広報担当者からはこんなコメントが届いた。「弊社は元々リクルートグループであったこともあり、性別によって『できる』『できない』の区別をする風土はあまりない会社だと思っております。また、大和ハウスグループは女性の活躍をもっと増やしたいと考えており、今年の1月に大和ハウスグループの女性フォーラムが開催されました」

 フォーラムに集まったのはグループの管理職、管理職候補、産休・育休明けで働いている女子社員など合計約160名。樋口会長の訓話や大和ライフネクスト常務取締役・石﨑順子氏の基調講演のほか、女性のパネルディスカッション、分科会などが行われたという。(確かに。同社には仕事の面では性差を感じさせない雰囲気が以前からあった。これが望ましい姿だと思う)

 全社員158名(男103名・女55名)うちの3分の1が女性で、課長以上の役職も女性が4分の1、役員が6人のうち2人を占めるフージャースホールディングスは「出産後も復帰して働くワーキングマザーも多く、女性が存分に能力を発揮している会社」とホームページに公表している。

 東急不動産ホールディングスグループも東急不動産、東急コミュニティー、東急リバブルの3社とも公開の準備を進めている。

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 内閣府がサイトを公開するにあたっては、丁々発止のやり取りがあったようだ。内閣府の「女性の活躍状況の資本市場における『見える化』に関する検討会」(座長:岩田喜美枝・財団法人21世紀職業財団会長)の最終報告書の冒頭では、「日本の潜在力の最たるものは女性」「女性こそ日本にとって最大の含み資産」と高らかにうたっているが、最後は「有価証券報告書やコーポレート・ガバナンスに関する報告書では、現在、明示的に女性の活躍に関する情報を記載することを求める項目は設けられていないが、関連する項目の中で女性の活躍に関する情報を自主的に開示している例も見られる」にとどまっている。

 議事録でも、資生堂初の女性副社長に就任したことがある岩田氏は「意見のかい離・隔たりが相当あったのは、やはり有価証券報告書、もう一つは、コーポレート・ガバナンスに関する報告書…非常に積極的な御意見を言われる方と、慎重な御意見を言われる方の間の調整が難しいと私は判断いたしました」と、無念さをにじませている。

 また、生活経済ジャーナリストの高橋伸子委員は、「コーポレート・ガバナンスに関する報告書には推奨という言葉がよいのどうか分かりませんけれども、もう書くのが当たり前だという段階になるようなことを期待しておりまして、書けないところはそれなりの理由を書くか、書けるように努力するということが必要なのではないかと思っております」と語っている。

 河口真理子委員も、「経団連の久保田委員以外は皆様多分同じ、かなり近い意見なのではと思いつつ、この報告書を全体的に読みますと、前段は非常に盛り上がっていて海外では大変価値があるのだとあるのに、最後の結論のところでいきなりトーンダウンしていて…」と、有価証券報告書などに女性の登用状況などを「記載事項」として盛り込むことに否定的な経団連委員を批判した。

 これらの意見に記者も賛成だ。昔から〝地震、かみさん、火事、おやじ〟と言ったではないか。怖いのはおやじよりも〝かみさん〟だ。女性が職場や社会で正当に評価され、やがては今回のようなサイトそのものが存在価値を失う世の中になることを願いたい。

 

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