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2014/02/26(水) 10:19

福島県最北端の「環境未来都市」新地町 「リタイア」の言葉は死滅するか

投稿者:  牧田司

 

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新地町のホームページ トップ

 北は宮城県山元町に、東は太平洋に接す福島県の最北端の町、相馬郡新地町は人口約8,000人。町のプロフィールには「西部の阿武隈山系からのびる丘陵の間の平地に、市街地や田畑、果樹園が広がり、海は遠浅で澄んだ水と美しい砂浜が続いています」とある。

 この「遠浅で澄んだ水と美しい砂浜が続く」町を東日本大震災が襲った。「沿岸部は壊滅的な打撃を受けた」(第一次新地町復興計画)。津波は標高10m 未満の多くの土地に浸水し、浸水面積は町の全面積の5分の1約904haに達し、500 戸を超える住宅が全半壊、JR 常磐線新地駅も全壊した。死者・行方不明者は118人にのぼっている。

 町は2012年4月、①命と暮らし最優先のまち②人の絆を育むまち③自然と共生する海のあるまち-の3つを骨子とする復興計画をまとめた。復興計画「『やっぱり新地がいいね』~環境と暮らしの未来(希望)が見えるまち~」は、柏市、横浜市、北九州市などとともに国の「環境未来都市」にも選ばれた。

 「環境未来都市」構想は、21世紀の人類共通の課題である環境や超高齢化対応などについて世界に類のない成功事例を創出し、国内外に普及展開することでわが国の持続可能な経済社会を実現するプロジェクトだ。

 新地町の計画書では、2050年の将来像を次のように高らかに謳っている。

 「木質バイオマスや太陽光発電を中心とした再生可能エネルギーによる『エネルギーの地産地消』を達成してきました」「地域の基幹産業である農業や水産業などの一次産業は、豊富な再生可能エネルギーを背景に、最先端の生産・貯蔵技術などを活用し新鮮な食品を供給することで、市場の高い評価と信頼を獲得し、今では国内外に通用するブランドを確立するに至っています」「地域の高齢者には、もはや『リタイア』という言葉はありません」「多様なインフラを介して、多様なコミュニティビジネスが生まれ…人の絆が強くなり、生活の利便性においても、大都市圏に劣らないほど充実しています」

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 記者は2050年の新地町が「エネルギーの地産地消」を達成し、一次産業が国内外に通用するブランドを確立し、「リタイア」の言葉は死滅し、「大都市に劣らない」利便性を確保し、そしてこの「成功事例」が全国に波及することを願いたい。

 それにしても、この楽観主義はどこから来るのだろう。千葉県柏市の「環境未来都市」計画も未来をバラ色に描いて見せる。「長寿・高齢化社会は手放しで喜ばしいことと歓迎される」(柏市)社会は到来するのか。新地町のように「リタイア」の言葉は本当に死滅するのだろうか。

最近ではベストセラーになった「里山資本主義日本経済は『安心の原理』で動く」(角川oneテーマ21) もそうだ。わが国の「里山」は危機に瀕しているというのに、「マネー資本主義」を補完するサブシステムとして十分機能するという。「国家」もそのうちに死滅するのかと思ってしまう。

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 しかし、現実は厳しい。新地村の平成21年度決算報告によると、一般会計の歳入は44億円、歳出は40億円。歳入のうち町税が21億円(48.5%)で、その他の収入などを含めた自主財源額は28億円(65.4%)だ。歳出で多いのは総務費7億円(19.3%)、民生費8億円(20.4%)、土木費5億円(12.6%)、農林水産費4億円(10.6%)などだ。

 地方都市では自主財源比率が1割~3割しかないのが常識であることからすれば、当時の新地町の財政は極めて健全といえなくもない。

 これが震災によって一変する。平成24年度の歳入は279億円、歳出は263億円。歳入のうち町税は18億円(6.6%)で、繰入金が35億円(12.8%)となっている。国庫支出金は165億円に達した。

 21年度と比較すると予算規模は6.3倍に膨れ上がったが、自主財源比率は65.4%から一挙に22.7%までに低下。震災の影響か、人口は震災前より430人、5.1%減少し、町税も実に14%、3億円も減少した。

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 この新地町の復興事業の目玉となるのが「新地駅周辺被災市街地復興土地区画整理事業」だ。施行面積は約23.6ha。施行後は道路、公園などの公共用地が約8.2ha(34.4%)で、宅地は約12.5ha(52.9%)、保留地は約3.0ha(12.6%)。減歩率は25.4%。事業期間は平成25年から30年度末まで。総事業費約66億円のうち保留地処分金約4億円を除く61億円はほとんど公費で賄う。

 被災前の地区内の人口は約190人で、人口密度は8.0人/ha。地価の平均額は7,700円/㎡だ。区画整理後の人口は約370人、人口密度は16人/haとしている。整理後の地価は11,900円/㎡。

 平たく言えば、9.6億円(坪25,000円)の土地を15億円(坪39,000円)の宅地にするために61億円を投じ、人口を約150人増やす計画だ。安心・安全の復興まちづくりは途方もないお金がかかるということだ。これが強くしなやかな「国土強靭化」政策なのか。

 同じような土地区画整理事業は被災地の50カ所以上で計画・進行している。

これでいいのか 被災地復興土地区画整理事業(2014/2/13)

3.11からもうすぐ3年 人口は震災前より2.0%、6万人減少(2014/2/6)

 

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