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2014/04/12(土) 18:27

筑波研究学園と多摩ニュータウン 似ているのか似ていないのか

投稿者:  牧田司

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つくば駅前

 市内の一等地ではあるとはいえ、坪単価160万円という決して安くないタカラレーベン「レーベンTHE TSUKUBA」が好調な売れ行きを見せている。つくばエキスプレス線つくば駅から徒歩8分の全322戸で、この半年間で3分の2が売れているという。この記事を書く前に、「つくば」がどのような街であるかを紹介したい。同じような街づくりの多摩ニュータウンや、先iに書いた「柏の葉スマートシティ」と比較して読んでいただきたい。街づくりはいかにあるべきかの参考になるはずだ。

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駅から10分程度の公園(人は一人もおらず、「持ち帰りましょう。犬のふん」の看板が立っていた)

◇     ◆   ◇

 「レーベンTHE TSUKUBA」の取材を終え、一服しようと街の中心街へ向かった。午後4時過ぎだった。街行く人は信じられないほどまばら。野良犬も野良猫もカラスもスズメもいなかった。広い公園も人はいなかったが、禁煙だった。

 最初に入った施設はホテルも入居するビル。1階にはかなりの飲食店があったが、人は皆無。全店舗とも夕方の営業は5時からと表示されていた。

 仕方なくあちこちの店舗・施設を探し回ったあげく、ようやく探し当てたのは駅前のチェーン店のドーナツ屋だった。記者はただでもドーナツなど食べないから、コーヒーだけ注文した。270円だった。いつも利用するコーヒー専門店は消費増税に便乗したのかどうかはしらないが、200円から220円に値上げされた。ここはさらに50円も高かった。2本のタバコを吸った。時間は5時近くになっていた。1時間は街をうろついた計算だ。

 記事は足で書く、人間は考える〝足〟だ。記者は飲むときと寝るとき以外はほとんど仕事、記事を書くことばかり考えている。歩くときもただでは歩かない。街をうろついた1時間は無駄ではない。どうして「つくば」には人がいないかをずっと考えた。そこで結論付けた結果はこうだ。

 公務員・研究者が多い街だから、勤務時間中は外に出ない。人と接触する必要がない。教育日本一の街だから、小中学生は塾通いに忙しく、外で遊ばない。街区構成が大きいから、モーターリゼーションが徹底されている。車で移動しないと暮らせない。高齢者は出不精になる。横並びを旨とするのが公務員の世界だから、その意を汲み抜け駆けして早くから営業しようという店舗もない。学歴が高く、生活も安定しているので、パチンコ屋、アダルト系などのギャンブル・遊興施設を利用しない。タバコが吸えないから、喫煙者は街に近づかない。犬猫やカラス、スズメは人に寄り添う動物だから、人がいないところに住まない-などだ。

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駅前一等地の商業ビルの店舗(人がいないところを狙って撮ったわけではない)

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 歩くことは新しい発見をすることだ。1時間の間、途中で寄った駅構内の観光案内所で「つくば市議会だより」を貰った。日付は2月15日。次号は5月15日とある。つまり市議会の動きは年に4回しか市民に紙媒体としては公開されないということだ。これはどこも一緒だろう。

 それでもすごく面白い情報をもたらしてくれた。「市政を問う白熱の一般質問」というスポーツ紙並みの刺激的な見出しの記事には市議会議員と市長のやり取りが紹介されていた。主だったものを紹介する。つくば市の置かれている状況がよくわかる。先に書いた記者の仮説が正しいことを裏付けてくれた。( )は議員の質問、「 」は市長の答弁。

 (市内における約2500戸の国家公務員宿舎が削減されることが突然発表されてから1年…国策で作られた街『つくば』が、自立できるかどうかが試されている)「駅周辺には多くの公務員宿舎があり、これが一遍に廃止になることにより…まちづくりに与える影響は非常に大きい」

 (筑波研究学園都市の建設が閣議了解されて、今年で50周年…今一度、均整のとれた田園都市を目指した…建設当時の理念に思いをはせて…)「都市づくりは百年の計とも言われる長期ビジョンが不可欠であり…次の50年を見据えたまちづくりが極めて重要」「科学技術を活用し、緑豊かな環境に集う人材や知材が未来を先導する自律都市、スマート・ガーデンシティを構築したい」

 (平成25年度の県内交通死亡事故は…全国ワースト2位。つくば市内の死者数12人)「11月末現在で交通事故死亡者数が12人で、全員が65歳以上の高齢者」

(韓国系の市民団体が全米で従軍慰安婦像を設置しようとの動きがある…つくば市と姉妹都市を結んでいる市にも同様の動きがある…つくば市は、我が国の立場を堂々と説明し、従軍慰安婦像を設置することのないよう申し入れるべき)

 「土浦市と合併しますと、財政規模が1000億円以上になり…中核市になることによって…つくば市が目指す教育日本一の取り組みに、一層の進展につながると期待」

 「街路樹や宿舎の植木などの現状を見ると、雑草が生い茂って、管理が十分行き届いておらず、必ずしも良好な環境にあるとは言いがたい」

 (先端技術が日々開発される学園都市として、マイクロソフト社の製品から脱却し他自治体に先んじてLinux導入の実績とノウハウの蓄積を図るべき)「全てのコンピュータをLinuxへ切り替えることは現実的ではない」

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商業ビルの見事な広場(人の気配はまったくない)

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 つくば市は、多摩ニュータウンと極めてよく似ている街だ。双子か兄弟のような存在かもしれない。開発手法が、UR都市機構が主導した土地区画整理事業と新住宅市街地開発法によるというのが同じだし、規模もほぼ同じ。筑波研究学園都市の区域面積が約2,900ha、計画人口が35万人であり、多摩ニュータウンのそれは約2,800ha、約34万人だ。前者は昭和55年3月までに予定されていた国の試験研究機関、大学などの施設が移転・新設された。後者の入居開始は昭和46年だ。

 そして現在。前者の人口は約20万人、後者は22万人。これもほとんど同じ。当初目指した計画人口の6割ぐらいしか達成できていないことも同じだ。様々な問題が噴出し、「百年の計」であるべき都市計画は40~50年でその礎が揺らぎつつある点でも同じだ。

 文化の香りがする街でも互角だ。タカラレーベンのマンションのパンフレットにも登場するつくば市在住の毛利衛さんに匹敵する著名人は多摩ニュータウンにはいないかもしれないが、つくば市が標榜する〝教育日本一〟に対しては、多摩市は市職員の給与は日本一と報じられたことがあるし、大学・学生の数では圧倒している。売り場面積では本店に次ぐ広さの丸善もある。

 つくばと多摩ニュータウンはこのように酷似している街ではあるが、まったく似ていない部分も多い。例えばパチンコ屋。記者は高校時代にやり方は覚えたが、少なくともこの40年間はやったことがない。時間の無駄だと思ったからだ。そのタバコの是非はともかく、つくばの徒歩圏には1軒もない。多摩センター駅周辺には3カ所はあるはずだ。フーゾクだって駅近にある。10分も歩けば野良猫に会えるし、絶滅危惧種の野草も発見できる。駅周辺の公的場所では禁煙だが、喫煙場所もあるし、公園などでは喫煙を禁止などしていない。つまり、多摩ニュータウンはまだ人が住める、人間らしい街を維持しているということだ。

 さらに、これがもっとも重要なことだが、国への依存度の違いだ。つくばは国策でつくられた街だからまずまずの財政力を誇っているが、一般会計の62%を占める市税の多くは公務員が納めているのだろうし、市民税より多い固定資産税も国が立派な街をつくったからだ。地方交付税も26億円ある。国に依存しなければ生きられないことは、紹介した議員と市長のやり取りで理解されるはずだ。多摩市も国に依存していないわけではないが、地方交付税はゼロだ。曲がりなりにも自立しているということだ。

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駅近の舗道(見通せる100メートルくらいに人の影は数人ほど)

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 タカラレーベンの「レーベンTHE TSUKUBA」の坪単価は160万円。三菱地所レジデンスが同じく多摩センターの一等地で予定している「ザ・パークハウス多摩センター」はいったいいくらになるのか。街のポテンシャルを計る意味でも興味深い。

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