ドイツの水栓金具のトップ企業GROHE(グローエ)ブランドを輸入販売するグローエジャパンが4月23日に行った「GROHE ARCHITECT CLUB(グローエアーキテクトクラブ)」のキックオフイベントを取材した。建築家など約150人が参加した。
「GROHE ARCHITECT CLUB(グローエアーキテクトクラブ)」は、建築家と消費者・施主をつなぐプラットホームで、同社が世界の最新の情報を提供するとともに、わが国の水回りをより豊かにすることを目的に昨年発足。4月には、グローエ製品を使用した建築家の施工実績を「採用事例」として掲載するWebも開設する。
当日は、グローエ関係者からコンピュータによる最新の設計技術やデザイン、今後の世界的な潮流などが紹介された。
記者も、グローエが高いクオリティやテクノロジーをデザインによっていかに感性の高い商品にするか、サステナビリティを重視しているかがよく分かった。1坪サイズが主流の浴室については、SPAやセラピー、可動式なども提案していくという話は説得力があった。
グローエはLIXIL傘下になったが、ドイツの最高レベルの商品とわが国の技術・文化の融合がありそうだ。
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記者は建築については素人だし、建築家(一級建築士)について語る資格はない。しかし、言わざるをえないことがある。以下は誤謬・偏見に満ちたものかもしれないが、考えていることをそのまま書く。
医師や弁護士と同様、建築士が世の中から「先生」と崇められるのは当然だ。一つ間違えれば人命にかかわる仕事をしている。高い志がなければ建築士は務まらない。
ところが、世間から注目され、尊敬される建築家はほんの一握りに過ぎないことを見聞する。仕事がないから、地上げ屋まがいの仕事をしている人もいる。
なぜ「先生」と尊敬されながら、一部の人しか食べられないのか。その根本理由は分からないが、建築士に決定的に欠けるのは営業力、プレゼン能力ではないかと思っている。「士」プライドが許さないのか邪魔をするのか。自ら頭を下げることはしないし、卓越したデザイン力を簡潔にアピールする術も持っていない人を多く見てきた。
もう一つ、こちらがもっと重要だと思うのが、世間、ユーザーのことをご存じないということだ。ユーザーとは、建築士にとって一般のお客さんではなく、コンペ狙いのゼネコンやデベロッパー、公共団体ではないか。これらの顧客ばかりを見ているから、背後にいる真のユーザーが見えてこない。
マンションでいえば、消費者が何を志向しているか、家事労働・動線を理解していないと設計などできないはずだが、これが欠落している。真のユーザー、つまり消費者を知らないのだから、ゼネコンやデベロッパーに媚びる、言いなりになる以外に方法はない。だから似たり寄ったりの経済設計しかできないのだと思う。
ユーザーを理解しないのは建築士だけではなさそうだ。不動産鑑定士にしてもそうだ。
鑑定士の世界では〝クライアント・プレッシャー〟なる意味不明の言葉がまかり通っている。つまり、公正中立な不動産鑑定を行うのを妨げるプレッシャーをクライアント、お客さんから受けるというのだ。何の商売でも相手の要求を喜びではなくプレッシャーと感じたらおしまいだ。一歩も前に進めない。かといえば、クライアントのためなら公正中立をかなぐり捨てて、ろくに現場を見ないで注文通りの査定をする鑑定士もいるようだ。
このように「士」が生きづらい世の中になってきたというのに、あろうことか、宅建取引主任者を「宅建取引士」に〝昇格〟させる動きがある。まさか呼称だけ変えようということではないだろうが、全国に100万人近くいる宅建主任者をダシにしてひと儲けしようという企みが見え隠れする。今やるべきことは主任者の資質の向上だ。講習屋を儲けさせるための、一定の人数だけを確保するためとしか思えない宅建試験は根本的に見直すべきだ。
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話しが横道に外れてしまったが、この日のセミナーに参加した建築士の皆さんはレベルが違っていた。セミナーが始まる前の雰囲気からして違っていた。さすがドイツ、グローエだ。BGMで流れたのはぺートーベンの第九第4楽章の冒頭の部分だ。いったいわが国を代表する音曲はあるのか。まさか「スキヤキソング」でもないだろうし、結局は誰もが聞いたことのないような雅楽におちつくのか。
プレゼンを行ったドイツのグローエ関係者が話したのは英語だった。記者はちんぷんかんぷん。同時通訳のイヤホンで日本語を聞くしかなかったが、約150人の参加者でイヤホンを耳にしたのはざっと半分、多くみても6割ぐらいだった。これには驚いた。端から聞く気がない人はいなかったはずだ。通訳なしで建築に関する専門の話を理解できるのだから、間違いなくグローバルに活躍できる資質の持ち主ばかりだと記者は理解した。
「参加者の方からコメントを取りたいのですが」とグローエジャパンの広報担当者に聞いたら、「そこにいらっしゃる南部さんはいかがですか」と勧められた。〝南部さん〟? どこかで聞いたような気がした。
早速、名刺交換した。肩書には「フォワードスタイル代表取締役社長 南部昌亮」とあった。南部氏から先に声をかけられた。「牧田先生、いつも記事を拝見しています」
ここで南部氏が野村不動産の「プラウド」やモリモトのマンションの優れたデザインをたくさん手掛けていらっしゃる「先生」であることと、かつてある建築家を「先生」と呼び、「私は先生と呼ばれるほど馬鹿ではない」とやり返されたのを同時に思い出した。すかさず南部氏に「私は先生などと…」としゃべりそうになったのをぐっと堪えた。記者は馬鹿そのものだからだ。返す言葉がない。
その南部氏から紹介されたのが押野見邦英氏だった。押野見氏は、圧倒的な人気を呼んだ三井不動産レジデンシャルの「パークコート千代田富士見ザタワー」の専有部分のデザインを鬼倉めぐみ氏とともに担当された方で、モリモトの成城学園、大井町、南品川などの繊細なデザインに記者がほれ込んでいる「先生」だ。早速、記念写真を撮らせていただいた。
鬼倉氏は三井不動産レジデンシャルの「千鳥ケ淵」や「麻布霞町」も担当しており、近く公開されるモリモトのマンションを手掛けるそうだ。モデルルームがオープンしたら取材してレポートしたい。