「社員・市民にやさしいビル100景」のひとつに推挙したい
ポラス本社ビルの裏手にある喫煙所にロダンの「考える人」が鎮座されているのを発見した。上野の国立西洋博物館に設置されているものと同じサイズの立派なブロンズ製だ。背後の高架道路を背にビルの壁面を見つめる格好で設置されていた。
さすがポラス。家庭でも外出先でも存在そのものが煙たがられる愛煙家にとっては肩身の狭い世の中になってきたのを慮った会社が、せめてこの場所では「思索」しながら心置きなく存分にタバコを吸えるようにした英断、快挙ではないかと考えたが、二束三文の張りぼてならともかくわざわざ喫煙者のために高価なブロンズ像を設置するわけがないと結論付けた。
そこで、周りにいた同社の社員や広報マンに聞いたら、意外な事実が判明した。やはり、同社の愛煙家のためではなかった。1997年10月、本社ビルが落成したのを記念して設置されたものだった。当時の社内報には同社グループ創業者で社長だった故・中内俊三氏が次のように語っている。
「ポラスビル落成にあたりポラス協力会の方々から何かお祝いをしたいというお話をいただき、『私も常日頃大変ご協力いただいておりますので結構です』とお断りしていたのですが、たってのこととおっしゃるのでお言葉に甘えました。
ポラスグループの社員は行動はすぐに起こすのですが、もう少し考慮も必要だと思っていたので、以前からロダンの『考える人』を社員教育用にと考えておりました。
設置場所もポラスビルの正面に置こうということで、これは自治会の方々とも話していました。しかし…お客様に『契約をちょっと考えさせてほしい』と言われても困るのでやめました」
つまり、「考える人」は、本社ビル建設に伴い同社の協力会社が寄贈したもので、最初は正面に設置することも検討されたが、「お客様に契約をためらわれても困る」ということからビルの裏側になったというわけだ。設置場所は一般市民にも開放されており、像の奥にある地域の自治会館へのアプローチにもなっている。
これらのことを考えると、行き場をなくした喫煙者に「それでもタバコを吸うか。よく考えろ」というロダンの警句にも見えてくる。しかし、記者は同社に取材に行ったら必ず利用しようと決めた。世界的にも少ないロダンの名作がただで拝め、その隣でタバコが吸えるなんてここ新越谷にしかないのではないか。「社員・市民にやさしいビル100景」のひとつに推挙したいぐらいだ。