一昨日(8月26日)、都心部のアッパーミドル・富裕層向けマンションが驚異的な売れ行きを見せているという記事を紹介した。このことと関連する興味深いデータを発見した。東京都が発行している「平成25年度市町村税課税状況等の調(特別区関係)」によると、課税標準額が1,000万円を超える納税者の数は23区全体としては289人前年より増えているのだが、都心部の外周部に位置する各区では大きく減少しているデータだ。
課税標準額とは、所得税や住民税を課す際の対象となる額のことで、給与所得、退職所得、山林所得などの総所得から社会保険料控除、配偶者控除、扶養控除、基礎控除などを差し引いた額を指す。課税標準額が1,000万円以上ということは、単純計算で都民税と区民税合わせ100万円の納税額となる。
都のデータによると、平成25年の23区の納税義務者数は約450万人で、このうち課税標準額が1,000万円以上の人は全体の3.9%に当たる約17.8万人だ。前年より289人増加している。
ちなみに、23区平均では200万円以下がもっとも多く55.3%を占め、200万円超700万円以下が37.4%、700万円超1,000万円以下が3.4%となっている。
1,000万円超の占める割合が高い区は港区(13.5%)、千代田区(12.4%)、渋谷区(9.1%)、文京区(7.8%)の順で、逆に200万円以下の占める割合が高い区は足立区(64.0%)、葛飾区(62.7%)、板橋区、江戸川区(60.4%)などだ。
さて、冒頭の課税標準額が1,000万円以上の納税者の増減に関することだ。区別に増減を見ると、増加しているのは千代田区(71人)、中央区(78人)、港区(56人)、新宿区(57人)、渋谷区(126人)、文京区(30人)、台東区(71人)、品川区(37人)、目黒区(178人)、豊島区(120人)、足立区(58人)、北区(13人)など16区。16区全体では994人増加した。
減少しているのは大田区(115人)、世田谷区(49人)、杉並区(200人)、板橋区(40人)、練馬区(179人)、江戸川区(113人)、中野区(9人)の7区。7区で705人減少した。
この数字が何を物語っているか。詳しい分析は転入転出、相続・贈与、その他の要因を詳細に調べないと分からないが、記者は都心の外周部・準都心部に住むアッパーミドル・富裕層が大量に都心へ流れているのではないかという仮説を立てた。ほかに考えられる理由が見つからない。相続・贈与も影響していそうだが、なぜこれほどまでに区によって偏りが出るのか解せない。
例えば豊島区と練馬区の関係。隣り合う区だが、豊島区が120人増えて、練馬区は179人もどうして減るのか。目黒区と世田谷区の関係も同様だ。世田谷区で49人減少し、隣接する目黒区で178人も増えている。
同じように大田区や江戸川区なども大きく減らしているのも、アッパーミドル・富裕層が利便性や資産性の高い地域に転出しているという仮説は成立しないか。
唯一この仮説が当てはまらないのは足立区だ。足立区は課税標準額の平均が23区でもっとも低い区だが、この区で課税標準額が1,000万円以上の納税者が前年より58人増加している。この理由は見当がつかないのだが、北千住や西新井の駅前再開発が進み、東京藝大、東京未来大、帝京科学大、東京電機大などのキャンパスも誘致され、イメージがよくなっているのは確かだ。
同区のホームページトップには「7月末現在、足立区の刑法犯認知件数は、4,363件で統計上初めて23区中6位となりました。41年ぶりに9千件を下回った昨年の月平均は687件、今年7月までの月平均は623件ですのでさらに治安は改善されており『安全・安心なまち足立』が実証されています」とあった。
この問題について、杉並区と足立区に聞いたが、いずれも理由は分からないということだった。他の区も同様の答えが返ってくるはずだ。
億円単位で税収が増減するのにその原因を当局は把握していない。これはどういうことか。民間企業なら経営責任を問われかねない。
所得分布については総務省が5年おきに実施している「住宅・土地統計調査」などで分からないではないが、機動的に対応するために行政当局は転入者・転出者の属性を調べ、区の経営に生かすべきだ。
こんなことでは益々激化する都市間競争に勝てないだろうし、市場原理に翻弄されるだけだろう。近く各区の今年度の課税状況が公表されるはずだ。アッパーミドル・富裕層の転入転出に注視したい。アベノミクス効果で増加するのは間違いないが、富はまんべんなく行き渡るのではなく偏在傾向に拍車をかけることになるのではないか。