日本木造住宅産業協会(会長:矢野龍住友林業会長、略称:木住協)の平成25年度の440社の会員による住宅着工戸数は97,479戸(前年度比107.5%)と5年連続して増加し、このうち木造戸建住宅は94,757戸で初めて9万戸を超え、国交省の新設木造戸建住宅着工に占める会員シェアは18.8%となった。9月3日行われた記者報告会&懇親会で発表した。
このほか、平成25年省エネルギー基準適合住宅の戸数は5,348戸となり、次世代省エネルギー基準適合住宅と合わせ、会員の両省エネルギー基準の適合比率は74.5%で、前年比1.7%増加した。
長期優良住宅戸建て着工戸数は31,390戸で、木住協戸建住宅に占める割合は33.1%となった。
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木住協を取材するのは初めてだった。これまで縁がなかっただけで、会員会社が供給する分譲戸建ては結構取材してきている。
さて、この木住協だが、木造建築工事業者だけでも約5万社もいるこの業界で会員が440社で、その会員の木造戸建住宅の着工戸数シェアが18.8%というのは高いのか低いのか。記者は判断材料を持たないが、会員の1社当たり着工戸数が約215戸で、省エネ基準適合住宅や長期優良住宅の着工比率などからすれば、わが国の木造軸組工法の普及・技術革新に貢献し、水準以上の〝良質住宅〟を供給している住宅メーカーの業界団体ということができる。
記者は木造住宅のファンでもあるが、初めての取材で面白いことをいくつも発見した。以下に紹介する。
ひとつは懇親会の乾杯について。同業の記者は40人くらいいたか。乾杯が始まるとき、甘い香りが漂った。スタッフが紙コップを配った。自分でビールを注げというのでもなかった。中に少量の水ではない日本酒が入っていた。
これには驚いた。30数年間、業界の記者をしていて日本酒で乾杯する会合は初めてだった。いま日本酒で乾杯する行事は神事か鏡割り、正月のお屠蘇くらいだろう。
挨拶に立った熊建夫・同協会専務理事は「木の文化は日本酒に通じる」と話した。なるほどと思った。いっぺんに熊氏が好きになった。熊氏は山口県出身だそうで、早速、記者と山口県の名酒「獺祭」の話になった。いつもは熊氏が手に入れた獺祭で乾杯するのだそうだが、最近は手に入らないので、この日は獺祭によく似た兵庫県の「龍力」が出された。誰も手を付けないから、記者は720mlの龍力をほとんど一人で飲んだ。熊氏は洒落者だ。龍力が獺祭に似ているのではなく、きっと矢野会長の「龍」にあやかったものだと思う。
熊氏は絨毯敷きのマンションの床をフローリングにするかどうか奥さんと検討しているそうで、記者は熊氏を挑発した。「木住協の専務理事が輸入材では情けない。ここは絶対国産材」と。熊氏は「コストと相談する」と話した。さてどうなるか。
もう一人は能勢秀樹・同協会運営委員長(住友林業顧問)の話だ。能勢氏は約5分間、住宅業界の近況を話したのだが、この間、「想像を超える苦戦」「こんなに悪いとは」「心配」「危惧している」「苦しい」「落ち込んでいる」「30代は住宅取得をあきらめざるを得なくなる」などと業界の置かれている状況を正直に話した。
能勢氏は、他の木造住宅に関する会合などで何度も話を聴いているが、能勢氏に「マイナスのことばかりではなく、一つ前向きの話を聞きたい」と水を向けた。能勢氏は国産材の輸出の可能性を熱っぽく話した。暗い話はすっ飛び、話に花が咲いた。
最近農産物の輸出の話はよく聞くが、国産材の輸出が有望な市場になるという能勢氏の考えは検討に値すると思う。木の話をさせたら能勢氏の右に出る人はいないのではないか。
熊氏と能勢氏には「木造住宅の普及のため、厳しすぎる防火・耐火基準を緩和すべきだと思うが、私は〝それじゃ燃えていいのか〟という反論には黙らざるを得ない」とはなしたら、能勢氏は「確かに。木は火に弱いという刷り込みをなんとかしないといけない」と話した。
ついでにもう一つ。会場となった木住協の会議室には225種くらいの世界の銘木見本が3つの額に収められ飾られていた。
木住協の銘木見本は貰ったもののようで、かつて喫煙室にあったそうだ。タバコに燻されていい表情を出すのかもしれないが、木を大切にする木住協としてはいかがなものか。今はちゃんときれいに掃除して飾っているとのことだった。
記者は戸建てやマンションの取材のとき、必ず使用されている床材や建具・家具の樹種を聞く。すぐに答えられる営業マンは少数だ。知らない記者も問題だか、どのような木が使われているか説明できない営業マンは失格だ。しっかり調べお客さんに説明すべきだろう。街路樹もそうだが、われわれは木について知らなさすぎる-ここに森林・林業の荒廃があり、鉄やらコンクリに押され気味の木造住宅の現状が象徴的に表れているような気がする。