先日、ポラス中央住宅が分譲する板橋区のマンションを見学したが、玄関ドアはリモコンで開閉できるようになっており、カギ穴なしが採用されていた。これまでもカギ穴なし玄関ドアは見たような気がするが、そこで今回は玄関ドアについて考えてみた。
カギ穴なしの玄関ドアの是非はさておくとして、1964年完成の「川口アパートメント」(83戸)や1976年に建設された全892戸の「ニューステートマナー」、高級賃貸の「ホーマット」シリーズなどの玄関ドアは内開きだったように、現在はほとんど100%と言っていいくらい外開きになっていることの是非についてだ。
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外開きか内開きかを考える前に、建築基準法など現行法ではどのような規定になっているか見てみた。
建築基準法施行令第百二十五条2には「劇場、映画館、演芸場、観覧場、公会堂又は集会場の客用に供する屋外への出口の戸は、内開きとしてはならない」とある。
また、東京都の火災予防条例第五十四条三では、「避難口又は地上に通ずる主たる通路に設ける戸は、容易に開放できる外開き戸とし、開放した場合において、廊下、階段等の幅員を有効に保有できるものとすること。ただし、劇場等以外の令別表第一(マンションなどの共同住宅を含む)に掲げる防火対象物について支障がないと認められる場合においては、内開き戸以外の戸とすることができる」となっている。
このほか、高齢者や身体障害者などが円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(ハートビル法)に関して東京都はQ&Aの形で「共同住宅の出入口は開閉動作の難易度からみると、引き戸が開き戸より簡単である。一般的に推奨される順位としては、1自動式引き戸、2手動式引き戸、3開き戸の順である」「共同住宅の住戸は利用居室に該当しないため利用円滑化経路に係る規定は適用されない」としている。
つまり法律では、不特定多数の人が利用する施設は避難方向にドアが開くようにしなければならないよう定めているが、マンションなどの共同住宅の専有部への出入口となる玄関ドアについては規定がない。建築物の適合性を審査する建築主事や建築基準適合判定資格者の判断に委ねられているのが現状だ。
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以上みたようにマンションの玄関ドアを外開きにしなければならない法律上の規制はない。ある自治体の担当者は「常識」といい、別の担当者は「外開きは避難時に有効で、防犯上は内開きがいい」と話した。
つまり、劇場や映画館と同様、建築基準法施行令や火災予防条例などに準拠して施主や設計者が自主判断で外開きにしているのであって、管轄する行政担当者なども「常識」に従ってそう指導しているということになる。ホテルがほとんど内開きになっているのは、防犯・安全性を考慮したというより、欧米の様式をそのまま取り入れたのに過ぎないのではないかと思う。
ここでは、ドアは引くより押すほうが力を入れなくて済む、内開きにすると外から雨やほこりが浸入しやすい・沓脱スペースが有効に使えない、外開きは通行・避難の邪魔になるなど巷間言われていることについては触れない。いちいちごもっともだし、どちらに軍配を上げるような問題でもない。
最近のマンションの玄関にはアルコーブが付いているので、外廊下を歩いている人に怪我をさせるようなことはほとんどない。では内開きがどうかだが、ドアの機密性が高まっているので内開きでも雨水やほこりが室内に入ってくる心配もしなくていい。むしろ、戸建てなどは水害時にドアが開かないというニュースを見ると、内開きがいいともいえる。記者はもう20年以上も昔、千代田区の高級マンションで内開き玄関ドアが採用されていたのを見ている。
そんな内か外かではなく、高齢者や身体障害者はもちろん大人も子どもも使い勝手がいい引き戸がいいのではないかということをいいたい。
実際、積水ハウスは今年1月発売した自宅や賃貸住宅、店舗などの多様な用途に対応する4階建て複合型多目的マンション「BEREO PLUS(ベレオプラス)」に引き戸を提案することを盛り込んだ。記者はそのとき〝これは分譲マンションにも採用できる〟と考えた。
ユニバーサルデザインの視点からも玄関ドアについて考えてみる価値はあるのではないか。引き戸にすればアルコーブ-玄関がパブリック、プライベートの中間的な空間として利用できるのではないか。横入りタイプにすれば玄関を開けたらリビングが丸見えということも防げる。「常識」を疑ってみることも必要だ。
高齢者向けはともかく集合住宅向けの玄関引き戸はないのかと思ったが、そうではないようだ。三和シャッターが14年前から「BL玄関引き戸」を販売している。開き戸と比べて単価は高いようだが、最近は月間30枚くらい売れているそうだ。