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2014/09/27(土) 00:00

強まるバルコニーでの禁煙 「共同の利益」に反しないのか

投稿者:  牧田司

 最初に断わっておく。記者は1日に1箱だからヘビースモーカーではないが、酒と同様、タバコなしでは生きられないと思っている一人だ。他人に迷惑を及ぼさないようマナーには気を付けなければならないが、基本的に喫煙は人権だと思っている。そういう立場で、専用使用が認められているマンションのバルコニーなどでの喫煙の是非について書くことをご了承いただきたい。

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 マンション管理業協会(管理協)が「平成25年度 苦情解決事例集」(A4判20ページ)を発行した。その中に「バルコニーでの喫煙と管理規約等との関係について」の所見が掲載されている。

 そこには「喫煙は個人の趣味・嗜好であり個人の自由に委ねられるべき事項とする考えがある一方、タバコの煙が喫煙者のみならず、周辺で煙を吸い込む者の健康にも悪影響を及ぼす恐れがあること、一般的にタバコの煙を嫌う者が多くいること、喫煙場所を限定するビルや施設がかなり多くなっていること等は公知の事実でもあり、(管理規約)使用細則で制定するには不合理と解することは困難であろう」とし、「喫煙者からは強い反対も予想される…慎重に検討を進めるなど丁寧な対応が望まれる」としている。

 つまり、バルコニーなど専用使用権があるバルコニーや専用庭などの共用部分での禁煙条項を盛り込むことは、しっかり対応すれば可能という立場だ。

 管理協が管理受託している全国のマンションは約107,000棟、約551万戸だ。全ストック約601万戸の約92%を占める。この業界がこのような判断を下したとなると、今後バルコニーなど共用部分での禁煙が加速するのは間違いない。

 さらに問題なのは、マンションを分譲するデベロッパーが原始規約で「禁煙条項」を盛り込んでいることだ。

 記者はいくつかのデベロッパーに、原始規約にバルコニーなど共用部分での禁煙条項を盛り込んでいるかどうかを聞いた。

 いやな結果を導き出すのは目に見えていたが、やはりその通りだった。「答えられない」とするデベロッパーもあったが、「共用部分等において喫煙をしてはならない」「火器使用禁止」としているところがほとんどのようだ(ライターが火器かどうか疑わしいが)。その是非をめぐって社内で激論が交わされたところもあるが、容認派は否認派に押し切られたようだ。

 区分所有法における「共同の利益」とは、タバコを吸う人も嫌いな人も双方の権利を最大限に生かすことで、規制でもっていずれかの権利を抑制することではない。本来的に多数決論理はなじまないはずだ。賛否両論が存在する場合は、原始規約などで定めず、居住者の判断に委ねるのが筋ではないか。

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 マンションデベロッパーも管理会社も「コミュニティ支援」「絆」が大きなテーマになっている。大変結構なことだ。しかし、その一方でコミュニティを分断し、無縁社会を助長してきた責任の一端もあるのではないかと記者は考えている。

 端的な例はペット条項だ。かつてほとんどのマンションはペット飼育不可だった。20数年前、記者は「横浜ペット裁判」を取材したが、共同住宅でもペット飼育は可能と考え、「ペット飼育を認めるべき」と主張した。しかし、当時の大手管理会社各社は「規約」を盾に首を縦に振らなかった。その後、「ペット不可は人権問題」という批判の高まりや、販売促進のためにペット飼育を可とした。ペット飼育者の人権を考えてではなかったことを指摘したい。

 苦情に対する対応もしかり。上下階の音、ピアノの音、風鈴の音、スズムシの音、新聞配達の音、廊下を歩く音、ハイヒールの音などがうるさいという苦情に対して管理組合(管理会社)は「ルールを守りましよう」としか言わない。事なかれ主義を貫いている。結果、〝向こう三軒両隣〟〝秋深き 隣は何をする人ぞ〟は完全に死語と化した。

 このままではマンションはそれこそ息をひそめなければならず、息がつまることになりはしないかと危惧している。

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 嫌煙運動に対する反論もしておく。まず「健康」について。タバコががんなど疾病の原因になりうることは承知している。しかし、厚労省などの「疫学」を基にした指摘は納得できない。吸う人と吸わない人の病気の発症率は根拠が希薄だ。車の排気ガス、大気汚染、酒の飲みすぎ、甘い物の食べ過ぎ、ストレス、遺伝などの要因もあるからだし、そもそも閾値(いきち)など存在しないではないか。

 そんなに健康を考えるのなら、車の排気ガスの規制強化、食品・清涼飲料水の砂糖の含有量規制や課税も行ってはどうかと思う。

 「受動喫煙」について。これは喫煙者も気を付けなければならない。病気との因果関係がはっきりしないにしろ「嫌い」と言われればそれまでだ。嫌われないようマナーは大事にしなければならない。マンションなどでは喫煙者と非喫煙者が日常的に気楽に話し合える場を確保すべきだろう。クレームの原因のほとんどはコミュニケーション不足にある。

 もう一つ、タバコの税金について。税率は国税と地方税、消費税込で約65%。1日に1箱420円のタバコを吸うと年間では約10万円の税金を納める計算だ。平成26年度の税収予算額は2兆1,385億円だ。住宅メーカー大和ハウスの売上高2兆7,000億円(26年3月期)には及ばないが、農水省の26年度予算額2兆3,000億円とそれほど変わらない。

 こんなことを書くと、喫煙による経済損失を言う人もいるが、全然説得力がない。屁理屈としか思えない。最近、宮崎駿監督の「風立ちぬ」に喫煙シーンがあるとクレームをつけた日本禁煙学会は単に目立とうとしただけではないのか。

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 視点を変えてタバコは文化について。チャーチルやマッカーサーのパイプ姿に屈辱感や劣等感を感じたのは記者だけではないだろうが、吉田茂のパイプは様になっており、チェ・ゲバラ、カストロは当時の時代の空気を映した。タバコをくわえる松本清張は絵になった。

 小説・エッセーでは、開高健には「たばこの本棚」というアンソロジーがあるし、團伊玖磨は「パイプのけむり」を何年にもわたって書き続けた。同世代作家、白川道氏の小説には必ずと言っていいほど喫煙場面が登場する。

 映画もそうだ。わが国の昔の映画もハリウッド映画も小道具として必ずタバコが使われた。オードリー・ヘップバーンは名作「ティファニーで朝食を」でタバコを吸ったではないか。これはガムでは具合が悪い。絵画もしかり。江戸時代の美人画にはキセルが粋な姿として描かれているし、セザンヌ、ルノワールもパイプをくわえた人物画を描いている。

 このようにタバコは、良し悪しはともかくわが国にしっかり根づいている文化だ。度を越した禁煙・嫌煙運動は日本文化の否定につながる。マンションデベロッパーや管理会社はその流れに乗ろうというのか。

 

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