旭化成ホームズのくらしノベーション研究所は10月3日、第13回「くらしノベーションフォーラム」を開き、「エネルギーシステム学」という新たな研究分野の確立を目指している京都大学大学院教授・手塚哲央氏が「自律生活のすすめ」と題する講演を行った。
講演で手塚氏は、だまし絵を紹介しながら「人間は知っているものをなぞらえて考える習性がある。見方によって全く逆のように見えるもの。人間の幸せが社会の目的ではあるか、いつも合理的な行動をとるとは限らない。それほど人間は難しい存在」と前置きしたうえ、エネルギーシステム学とは何ぞや、省エネルギーとはそのものが目的ではなく派生需要であること、経済性だけが価値指標ではないこと、多様な価値観を尊重する社会を築くことなどについて語り、国や市町村、地域、企業、個人がすべてのレベルで自律的に意思決定する社会の構築が必要と話した。
手塚氏の講義を受けて同研究所主幹研究員・下川美代子氏は、同研究所が10年前から取り組んでいる環境に優しい住まい方を提案するウェブサイト「EcoゾウさんClub」の活動成果について報告。ウェブ会員約4,200人の消費・環境行動が年々変わってきていることを明らかにした。下川氏は手塚教授に「エネルギーシステム学」を学んだ縁で今回講義してもらったそうだ。
詳細は「EcoゾウさんClub」http://www.ecofootprint.jp/へ。
◇ ◆ ◇
今回のテーマは「自律生活のすすめ」で、「エネルギーシステム学から家庭のエネルギー利用を考える」というサブタイトルがついていた。学者先生にありがちな難しい理論を用いた衒学的な説教ではないかと考えていたが、内容はまったく違っていた。
その反対で、心が震えるほどの感動を覚えた。記者はこのフォーラムにほとんど参加しているが、〝いかに生きるか、何を学ぶか〟を考えさせられたという意味では今回が最高のセミナーだった。
感動したのは記者だけではない。74歳の業界紙の大御所とも言える住宅産業新聞社・池上博史社長は「これほど感動的な話を聞いたのは20年ぶりくらい」と話したし、主催した同社設計本部設計企画部長・牧野貞幸氏も「今回で13回目を迎えるセミナーだが、先生のお話に胸を打たれた。心の問題はわれわれがずっと考えてきたこと。一人ひとりがいい環境をどう残していくか、自律的生活を一人でも増えるよう研究していきたい」と興奮を抑えきれない面持ちで挨拶した。
前置きが長くなったが、何に感動したのか。それはエネルギーシステム学が、従来の学問とは全然違うからだ。手塚氏は1時間くらいの講義の中で「幸せ」「心」という言葉を10回以上話した。従来の学問は自然科学にしろ社会科学にしろ深く掘り下げて研究はされてきたが、人の価値観や文化、教育、ライフスタイル、行動など心の問題まで踏み込み、それらを総合的に科学するものはそうないはずだ。人間の心から様々な事象の謎を解きほぐすのは考えてみればものすごく分かりやすい。「解」はないものもあるかもしれないが、だからこそ面白いのではないか。
ただ気になったこともある。手塚氏は講義の最後に「この学問はこれから立ち上がろうとするものだが、いまの大学は価値観の多様性に応えていない。今日のような話をすると嫌な顔をされる」と語った。
先生が仰るようにいまの世の中は「右向け右」に突っ走ろうとしているとしか思えない。
◇ ◆ ◇
同社の広告では「妻の家事ハラ」が大炎上したが、今回は倍返しの意義あるものとなったはずだ。
ついでながら「家事ハラ」について。この言葉は、和光大学教授・竹信三恵子氏の著書「家事労働ハラスメント――生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)で用いられているもので、竹信氏は「家事労働を担う人びとを蔑視・無視・排除していく社会システムによる嫌がらせ(ハラスメント)のことを家事ハラ」としている。同社のセミナーではその定義があいまいだったためにクレームとなったのだが、夫婦間の家事ハラは日常茶飯に起きていることだ。これは愛情の別表現でもあるとおもう。
竹信氏のこの著書は、今年初め本屋で手に取り、上野千鶴子氏の近著「女たちのサバイバル作戦」(文春新書)とどちらを選ぼうかと迷い、上野氏の著作を買ったため読んでいない。
いまどきの30代夫、完璧に家事こなすのは3割 旭化成ホームズが調査(2014/7/12)