新聞・雑誌の報道によると、世界の自動車メーカーで5位にランクされている韓国・現代自動車がソウルに残された最後の一等地を評価額の3倍の値段で落札したことが大きな話題になっているようだ。9月18日、ソウル江南地区にある韓国電力の本社用地をサムスンと競った競争入札で、同社が10兆5500億ウォン(1兆550億円)という破格の値段で落札したというのだ。
これには驚いた。韓国の不動産については全く知らないが、日本では単体で1兆円を超える取引などあり得ない。記者が真っ先に思い浮かべるのは、2001年9月、三井不動産などが取得した六本木防衛庁跡地再開発「東京ミッドタウン」の約1800億円だ。入札の半年前、「落札価格は1750億円」と予想したのがほぼ的中したからだ。その後、高値落札が相次いだが、この10年間でもっとも高額だったのは三菱地所などの企業連合が落札した大阪の「梅田北ヤードA・Cブロック」の約3100億円だ。現代自動車グループが買ったのはその3~5倍以上の値段ではないか。
いったいどういうことだろうと韓国籍の人に話を聞き、韓国の有力紙「中央日報」の日本語版記事を読んだ。
韓国籍の人は「みんな知っていること」と旧聞であるとしながらも、「韓国では当時かなり話題になった。韓国電力の土地は開発が遅れているところ。距離的には東京と新宿くらいの差。将来性を見込まれて周辺の地価がかなり上昇している」と話した。
「中央日報」9月19日号には「鄭夢九(チョン・モング、76)現代自動車グループ会長は金額を提示した実務陣に手を振って拒絶を示した。実務陣は下限4兆4000億ウォン(約4598億円)、上限5兆1000億ウォンの3種類のカードを提示した。サムスングループの動向に関する報告もした。しかし鄭会長は注視しなかったという。…鄭会長は自ら金額を言った」「韓国電力公社は18日、『現代車・起亜車・現代モービスのコンソーシアムにソウル三成洞の敷地(7万9342平方メートル)が落札された』と発表した。落札値は10兆5500億ウォン、3.3平方メートル(1坪)当たり4億3880万ウォンだ。寄付進呈(40%)と税金、開発費などを合わせると実質的な3.3平方メートル当たり価格は6億ウォンを越える」などとある。
興味のある方はこの「中央日報」を読んでいただきたい。なかなか面白い。
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韓国とわが国を比較しても意味はないが、さっそくそろばんをはじいた。わが国の地価ナンバー1は「丸ビル」だ。敷地面積は約1万㎡(3000坪)。公示地価で坪単価は約1億円だからざっと3000億円ということになる。容積率は従来1000%だったのが特例制度などの適用により現行は1594%だ。
一方、現代が買った土地はその8倍で、坪単価は約4388万円。つまり、現代は「丸ビル」と比べ広さが8倍、総額では3.5倍だが、単価的には43%の土地を買った計算になる。1種当たりの単価はわからない。100階建てを建設するそうだから、実質的な坪単価はかなり安くなるという計算も成り立つ。
面白いのは「寄付進呈」だ。先の「中央日報」には「現代車はソウル市に取得税などで約5000億ウォンの税金を出して、土地の40%は寄付進呈しなければならない。土地ではなくお金で支払えば1兆3000億ウォンだ。寄付進呈額は落札値ではない鑑定価格(約3兆3000億ウォン)で算定する」とある。
韓国の「ハンギョレ新聞社」の記事によると、「結局、ソウル市に納付する金額は寄付と地方税を合わせて1兆8700億ウォン程度となり、政府とソウル市を合計すれば4兆ウォンを上回る」と書かれている。一方で、中央日報には「韓国投資証券ソ・ソンムン研究員は『現代車・起亜車・モービスが保有する現金が24兆ウォンなので財務的打撃を与える程ではない』とし、『長期的には相乗効果を出すだろう』と見通した」ともある。
10兆5500億ウォンの土地を買ってそのうち4兆ウォン超の税金を払う-わが国では考えられない制度だ。取得した土地の40%を寄付しなければならないとなれば、それだけ地価を押し下げる要因になると思われるが、そうならないのがまた不思議だ。国が民間資金を収奪するのか、それとも官民丸抱えで開発を進めるのか。韓流(還流)とはよくいったものだ。
これも伝聞・引用によって書いた記事だが、まさか韓国当局から摘発はされないだろう。