長谷工コーポレーションは10月29日、新しい設計手法である「BIM(ビム)」を企画設計から実施設計-施工-販売まで活用したマンション「ブランシエラ板橋西台」の説明会を行った。
「BIM(Building Information Modeling)」とは、コンピュータ上にパーツを組み上げて作成した3次元の建物のデジタルモデルに、仕上げ、管理情報などの属性データを追加した建築物のデータベースのことで、設計業界を中心に広まっている最新の技術。同社は2012年10月にBIMの活用を推進する体制を立ち上げた。今年4月には設計と施工部門を統合した「BIM設計部」を新設。約10.2億円を投資して、2016年度には「長谷工版BIM」を同社が設計・施工する全ての物件に実施設計ベースで導入する。
BIMは設計情報の「連動性」「可視化」「一元性」を容易にし、同社の強みである95%という高い設計・施工比率とマンションに特化していることなどから他社との差別が図れる。今後は販売やマンション管理、リフォームにも活用していく。
発表会に臨んだ同社取締役兼常務執行役員・池上一夫氏は、「これまで2億円を投資して開発を進めてきたが、設計-施工-販売まで完成した。当社の強みである一貫体制を発揮して、将来的には建物の維持管理、リフォームまで活用してトータルな顧客満足度を高めることができる。トップランナーとしてまだまだ進化させていく」などと話した。
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建築物に限らずあらゆる商品がコンピュータで作図されるのは常識だろうが、いとも簡単に自由自在にマンションの設計図が完成するのを目の当たりにすると驚きだ。部品は約5,000。部品一つ変えるとコストがどれくらい違ってくるか瞬時にはじき出される。構造計算もできる。これはすごい。
記者は設計-施工-販売にBIMを採用すればどれくらいの時間とお金が削減でき、顧客の満足度が上がることの価値を金額に換算したらトータルでいくらコストダウンできるか聞いた。
これに対し池上氏は「トータルなコスト削減を定量的に測るのは難しい問題。目標としては3割くらいに置いている」と話した。
3割のコストダウン-これには驚いた。マンションの建築費はこれまでもかなり上昇したが、これからも少なくとも1割はアップする。3割もコストダウンできれば上昇懸念は吹っ飛ぶではないか。記者は「いつまでにやるのですか、やるのなら今でしょ。オリンピックが終わってからでは遅すぎる」と突っ込んだが、池上氏は時期を明確にしなかった。
しかし、同社がマンションの設計・施工では圧倒的優位な立場に立つことだけは間違いない。マンションの設計では日建ハウジングシステムが採用しているそうだが、日建は設計だけだ。施工、販売、さらには管理までトータルで提案できるのかどうか。
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「ブランシエラ板橋西台」の販売は長谷工アーベストではなく第一弾ということもあり同社が行う。お客さんの反応をフィードアップさせる狙いがあるのだろう。
従来の販売事務所と異なるのは模型図がないこと。外観も各戸の間取りも商談ブースのパソコンでバーチャル住空間が体験できる。設備仕様を瞬時に変更できるし、変更したらいくらになるのかも分かるはずだし、カラーリングも自由自在。重いパンフレットなどいらなくなる可能性を秘めている。
物件は、都営三田線西台駅から徒歩9分、板橋区高島平9丁目に位置する9階建て80戸。専有面積は67.45~87.57㎡、価格は未定だが、坪単価は190万円+α。販売開始は2016年1月下旬。
記者は23区内で坪単価180万円以下のマンションは建設できないと思っているが、そのことを証明したことだけは確かだ。この単価にBIM効果が反映されているかどうかは微妙。
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課題がないわけではない。外観が映し出された画像は自由自在に見ることはできるのだが、樹木は貧弱だった。マンションの外構は大事な要素だ。いくらお金がかかるか知らないが、やはり樹種によって樹形、樹皮、さらには経年による成長具合などを見られるようにすべきだろう。これができたら完璧と言いたい。
もう一つは、好きな住戸からどのような眺望が展開するのか分かるようにはできないかということだ。同業他社もこれだけはできていない。お金を掛ければ技術的には可能だろうから、実費で見られるようにはならないか。
色や質感を出すのも課題だ。画像では化粧板なのか無垢材なのかは分からないし、自然素材の色、質感を表現するのも不可能だ。これだけはいかに技術が発達しようが無理だ。高性能カメラだって人の肌や草花の微妙な色を表現できない。自然光を表現できないのと一緒だ。