厚さ数ミクロン(1ミクロンは1000分の1ミリ)の鉋(カンナ)削りの技を競う「第30回全国削ろう会小田原大会」が11月8、9日、小田原市で開かれ、全国29都府県と米国から約550名の「削リスト」が高い技とわが国独自の鉋砥ぎ、道具づくりを披露した。大会は小田原の伝統工芸や岩国・錦帯橋の模型展示やイベントも行われ、見学者は初日が約1万人、2日目が約1.5万人に上った。
鉋屑は大工仕事の中で捨てられるものだが、鉋から吐き出される屑は薄さが数ミクロンで、薄絹のように美しく、また材料、砥ぎの技術なども重要な要素であることから、日本の伝統的な木造建築、木工技術の向上と伝承を目的に平成9年に林野庁などが後援して第1回大会が行われた。これまで大会は平成9年に林野庁などが後援して第1回大会が行われ、これまで年1、2回全国大会が開催されてきた。
競技部門は一般、学生、女性に分かれ、一般の部では愛知県から出場した細田保貴さんが優勝した。
大会には神奈川県知事の黒岩祐治氏から「木工技術の向上及び技術の伝承が図られるとともに、木工製品や木造建築の魅力をより多くの方々に感じていただく機会となることを願っています」などとの歓迎の言葉も寄せられた。
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「鑓鉋(やりかんな)は奥が深い。鉋は誰が削っても平らになるが、名栗(ナグリ)によって陰影を付けるのが美しいわが国伝統の技」と、鉋削りには目もくれず鑓鉋の技を披露していたのが、茨城県桜川市真壁町から参加した大工歴40年の山崎伸一さん(55)。
作業の傍らには座右の銘とも言うべき「究極の鑓鉋仕上げは鎌倉時代です。鉄は鉄で磨き、石は石で、木は木で、人は人によって磨かれます。 大工 山崎伸一」の言葉が板に書かれていた。
山崎さんの技はこれだけではない。猿回しならぬ烏回しを披露した。「毎日連れている」という相棒の烏の名は「マック」。カラスはイルカなどとともに動物・鳥類の中でもっとも〝頭がいい〟といわれるだけに、山崎さんとの掛け合い漫才の息はピッタリ。
山崎さんが「こらっ!マック!頭が高い!この印篭が目に入らぬか!」と印籠に似せた木でできた将棋の駒型を見せると、「カカカッ!」とマックは恥ずかしそうに頭を下げた。反射神経も抜群。山崎さんが傾けた板に丸いえさをワンバウンドで投げると、ことごとくキャッチ。その様はテニスの錦織圭さんや卓球の福原愛ちゃんそのものだった。
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群馬県前橋市から参加した柏原俊之さん(41)はこの道20年。成績優秀者としてボードに張り出される8ミクロン以下を達成した。「われわれは穴掘り3年、鋸(ノコ)5年、墨付け8年、砥ぎ一生と言われてきた。台(削る板材)、鉋、技、砥ぎに、その日の湿度など条件が揃わないといい成績は出ない。今日は湿度があるから3ミクロンくらい出るかもしれない」と話した。
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大会スタッフの一人として見学者を楽しませたのが静岡県御殿場市の武藤勇さん(72)。「15歳のときからだからもう58年。勉強が大嫌いで大工になったが、師匠からは一生勉強だといわれた。へぼ大工ですよ」
武藤さんには「いい経験だ。これを削ってみなさい」と、モチノキだったかカシノキだったか分からなかったが年季が入っていそうな鉋を渡され、削るよう勧められた。
記者は「めっそうもない」と断ったのだが、「大丈夫」と強く言われた。師匠の言葉を無視したら失礼と思って削ってみた。
鉋を削るのは中学生以来だったが、何とすらすらと削れたではないか。幅は約6㎝、長さは5mくらいあったはずだが、途切れることなく均等に削れた。厚さを計測してもらったら15~17ミクロンだった。これには記者も驚いた。砥ぎと鉋の調整が抜群だったのだろ。
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アキュラホームは「カンナ社長」こと宮沢俊哉社長をはじめ13人が参加した。最高成績者は9ミクロンで表彰台に乗ることはできなかった。宮沢社長も10ミクロンで涙を飲んだ。
宮沢社長は「駄目でしたね。米ヒバを使ったが、砥ぎがまずかったか、湿り気が足りなかったか。成績上位者は特別な水を使っているんじゃないか」と悔しさをにじませた。
薄く削るには湿気も大事だということを事前に知らされていたので、昨年の第27回大会で薄さ2ミクロンという記録を打ち立てた栃木県宇都宮市の出井博幸さん(37)に聞いてみた。「台は米ヒバですが、普通の水ですよ」と語った。ただ「今日は全然ダメ。5ミクロンだった」と表彰を逃した。
宮沢社長には「出井さんも普通の水だそうですよ。来年はボルヴィックかなんとかイオン水にしたらどうですか」とご注進申し上げた。
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厚労省のデータによると、大工の人口は2005年の約54万人から2010年の約40万人へと5年間で26.4%減少。2020年には約21万人へと2010年の53%とほぼ半減するという予測もある。