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2014/12/16(火) 00:00

旭化成ホームズ くらしノベーション研 「食」にまつわる意識と行動実態

投稿者:  牧田司

  旭化成ホームズのくらしノベーション研究所が「食」にまつわる意識と行動の実態について、アンケートと写真日記を交えて調査した結果をまとめた。共働きの増加など家事にかけられる時間は減り食の簡便化が進む一方で、30代を中心に手作り志向や食を通じて暮らしを楽しみたいという意識傾向があること、毎日食事を手作りする家族は暮らしの満足度も高いことなどが明らかになった。

 調査対象は、一般戸建て居住者719件と旭化成ホームズのへーベルハウス居住者380件の既婚女性で、回答者は週5日以上夕食の調理を行っている人。

 食事の支度に対する調査では、「いつでも手料理にはこだわらない」という回答がトップで、「食事はいつも手をかけたい」が続く。

  日常の食事の支度では「毎日夕食を手作りする」人は3割強、「購入した冷凍食品や総菜だけで夕食にすることに抵抗を感じない」人は約3割、40代で「出汁をとって味噌汁を作る」「魚をさばく」人は約2割、「一汁二菜以上が必ずある」人は約1割という結果が出た。

  日常の生活の中で「食生活を大切にしたい」と考える人は約9割に達し、「わが家の伝統料理・母の味」があるのは4割だった。

 また、夕食に手をかけられない日がある人は67%と多数だが、本当は手作りしたいと思っている人とそうでない人、つまり「手作りアンビバレント層」と「中食・外食層」に分かれた。「手作りアンビバレント層」はその手作り志向と、実際にできない時に生まれる感情の間でゆれながら暮らしている実態が浮かび上がった。

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  忙しい主婦・主夫が多いから、夕食に手間をかけられず、レトルト食品に頼らざるを得ない実態が浮かび上がるだろうと予測はついた。しかし、夕食に手が掛けられない日がある人が67ェに達し、「購入した冷凍食品や総菜だけで夕食にすることに抵抗を感じない」人が約3割に達しているのはショックを受けた。わが国の食文化は崩壊しているのではないかと感じた。そこで、記者なりに考えた。いったい「手料理」とは何か、についてだ。

 常識的に考えれば、作る側が食材に手間をかけて作る料理で、スーパー、コンビニなどで買ったものをそのまま食卓に出したものとか出前料理などは該当しないのだろう。レストランなどで食べる料理は「手料理」と呼ばないから、作る側が手間をかけることが重要な要素なのだろう。

 ここで問題になるのは「手間」とは何かだ。例えば刺身。スーパーで買ってきたトレイ付きをそのまま食卓に並べても誰も「手料理」とは呼ばないが、美しい皿に盛りつけてシソやワサビ、季節の草花を添えたらどうなのか。カップラーメンに湯を注いだだけでは手料理とは呼ばないだろうが、袋入りの麺をゆでてチャーシュー、もやし、ワカメ、なると、海苔などを入れたものは手料理にならないのか。固形のふかスープを加えるとふか入りラーメンになる。記者はこれをよく作った。

 問題は食べる側にもありそうだ。作る側が手間をかけて作ってくれたという認識が重要ではないか。もちろんそこには肝心の「味」も重要な要素ではある。しかし、作り手の技量、時間、家計などを食べる側が考えたら、「味」は絶対的な要素ではない。もっとも重要なのは作り手の愛情をその料理に感じられることではないかと記者は結論づけた。

 つまり、作り手と食べる側が相互に理解しあい、愛情を込めたことが双方で知覚できたものこそが極上の「手料理」ということになるのではないかと。手間には双方の人間関係を築く作業=愛情も含めないとそれこそ骨折り損のくたびれもうけになってしまう危険性をはらむ。

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上神田氏と上神田氏が描かれた額「饌」

 料理の専門家は「手料理」をどう考えているのか知りたくて調べた。大学や調理専門の学校などに問い合わせ、ネットでも調べたが答えは得られなかった。本屋でも探した。レシピ本はそれこそ数えきれないほど並んでいた。ところが、料理とは何か、手料理とは何ぞや、食文化はどうあるべきかなどといった本質的な問題について触れている料理本はほとんど皆無だった。

 しょうがないと諦めて立ち去ろうとしたとき、「調理師という人生を目指す君に」(ダイヤモンド社、46上製、224ページ)というタイトルの新刊本が記者の目に飛び込んできた。著者は新宿調理師専門学校学校長上神田梅雄氏とあった。これだ!と思った。

 当たって砕けろだ。早速、インタビューを申し込んだ。いらっしゃったら受けていただけるという確信があった。そしてすぐ、インタビューは実現した。

 上神田氏は次のように語った。

 「『手作り料理』という営業上使っている言葉はあります。わが国の伝統的な食文化がユネスコの無形文化遺産にも登録されました。しかし、外国人に日本の食文化とは何かと聞かれて明確に答えられる人は何人いるでしょう。わが国の食文化の原点は『おふくろの味』、家庭料理なのです。おばあちゃん-おかあさん-子どもへと継承されるべきものなのです。お・も・て・な・しです。今はそれが壊れています。ミシュランなどで多くの星が付けられる営業的料理が最高だといわれています。たしかにそれらはいい食べ物ではあるが、心が込められた、見返りを期待しないおふくろの味とは品格がちがいます」

 上神田氏は調理人を目指す若者ももちろんだが、我々にも通じる〝人間学〟について次のように話した。

 「最初の10年は師に学ぶのです。次の10年は食材に学ぶのです。心の耳で食材に教わるのです。そして次の10年はお客さまに学ぶのです。最終的に人間としてジャッジしてくださるのはお客さまだからです」

 もう一つ、上神田氏のドキリとする短い言葉を紹介する。

 「料理人は学歴が無くてもなれますが、心が綺麗で、賢くなくてはいけません。なぜなら、作り上げた料理に、その全人格が紛れもなく表れてしまうからです」(同著、196ページ)

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 どうして、ここまで長々と「手料理」や上神田氏の話を書いたのか。それはやはり最初の食文化、食育につながるからだ。ハウスメーカーは住宅供給を通じてわが国の住文化を次世代に継承する役割を担っている。そして食文化もまた人格形成に深くかかわっている。「愛」の視点から考えれば、「手作りアンビバレント層」問題は解消されるはずだ。

 住文化と食文化を「愛」のキーワードで繋げ、快適な暮らしを提案してほしい。

 

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