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2015/03/16(月) 00:00

仲介市場に「情報の非対称性」は本来的に存在しない スムストックシンポで

投稿者:  牧田司

  

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「スムストックシンポジウム2015」(御茶ノ水:連合会館で)

 良質な中古住宅の流通を促進する事業を行っている任意団体・優良ストック住宅推進協議会(会長:和田勇・積水ハウス会長兼CEO)は3月13日、「日本の中古住宅流通が変わる」をテーマにした「スムストックシンポジウム2015」を行った。

 「スムストック」は、わが国の主要ハウスメーカー10社とその流通グループからなる①住宅履歴 新築時の図面、これまでのリフォーム、メンテナンス情報等が管理・蓄積されている②長期点検メンテナンスプログラム 建築後50年以上の長期点検制度・メンテナンスプログラムの対象になっている③耐震性能 「新耐震基準」レベルの耐震性能がある-の基準をもとに「スムストック査定」を行い、その基準を満たした住宅のこと。

 一般的に、中古戸建ては築20年で建物の評価はゼロになるが、スムストックは20年を過ぎても新築時の3割くらいの価格が維持されており、ほぼ査定された価格で成約されている。

 ハウスメーカーが供給した戸建てストックは353万戸あり、毎年約1.4万戸が流通市場で取引されており、このうち約1,200戸が10社とその流通グループを通じて成約されている。累計の成約件数は3,644棟。

◇       ◆     ◇

 中古の戸建て住宅が仲介市場でほとんど評価されない、物件によっては買った時点で中古並み、つまり建物価格がまったく評価されない現状を考えると、スムストックは市場で正当に評価されている。

 この10年間の成約件数約3,600棟が多いのか少ないのか、そのうち10社とその流通グループの流通捕捉率が10%に満たないのはどう評価していいのか記者は分からないが、圧倒的に仲介営業力が欠けるハウスメーカーの現状の反映だろうとは思う。流通事業を拡大し、各社の営業マンとの連携を強化すればもっと伸びるはずだ。今後の一層の活動に期待したい。

 建築後20年で建物評価額がゼロという一般住宅の「常識」についても早急に改善すべきだろう。

◇       ◆     ◇

 シンポジウムで記者が違和感を覚えたのは、中川雅之・日大教授が基調講演の中で「情報の非対称性」が流通促進を阻んでいる大きな要因として取り上げたことだ。

 中川氏にとどまらず、多くの方がこの「情報の非対称性」やら「利益相反」を持ち出す。中川氏が持ち出した論理はこうだ。

 きちんと管理されていない中古住宅を売りたい売り手の希望価格を50とし、良好に管理された中古住宅を売りたい人は100の希望価格を付けたとし、一方、良好に管理されているかどうか判断できない消費者は2分の1の確率で高品質を希望し、2分の1の確率で低品質を希望すると仮定し、一定の計算式で付値を85とはじき出す。つまり、付値が85だから、50なら売ってもいいと考える売り手の低品質住宅だけが成約し、高品質住宅が壊滅するという論理だ。

 しかし、この論理には当初の仮定に問題がある。そもそも一般の売り手と買い手には中古がどのように評価されているか分からないはずだ。だから「50で売りたい」「最低100で売りたい」という考えそのものが成り立たない。買い手にとってもいったいいくらで買えるのか予備知識がなければ皆目見当がつかないはずだ。

 だからこそ、専門のプロである不動産仲介業者が介在する。宅建取引主任者(4月1日から宅建取引士に名称変更)が実際に仲介役を果たす。宅建業法では取引主任者の資質についてはほとんど触れられていないが、本来的には売主にも買主にも偏らない公平な立場で物件価格を査定することが求められるはずだ。よって仲介業者が介在する取引では「情報の非対称性」も「利益相反」もあってはならないことだと記者は思う。だからこその「士」への〝格上げ〟ではないのか。

 そもそも「情報の非対称性」「利益相反」が堂々と関係者の間で流通していること自体、不動産流通業界が売主や買主に偏った仕事をしているように言われているようではないのか。記者は不愉快だ。

 ひとつ追加すれば、実際の不動産取引では、居住面積や設備仕様、コミュニティの熟成度、住環境などの質(質とは何ぞやという問題はあるが)よりは、交通便や将来の値上がり期待・思惑(それも質の一つだろうが)がより重要視されて価格が決定されている。「売り急ぎ」「買い急ぎ」などの特殊要因も価格を左右する。「不動産は生き物」ということだ。机上で決まるものではない。

◇      ◆     ◇

 不動産仲介会社のみなさん。この記事の最後「『不動産は生き物』ということだ。机上で決まるものではない」に対して、記者がもっとも信頼する不動産仲介に詳しいある記者から「不動産は生き物だ。机上で決まるものではないという理屈で、まっとうな査定をしてこなかった仲介業者の罪は重い」と指摘を受けた。

 ぐさりと胸を衝かれた思いがした。記事は記者が思ったことを書いたのだから、的外れであっても訂正も削除もしないが、心当たりのある「宅建士」は少数派であることを祈りたい。

 

 

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